お前にVTuberは無理だと思うよ?
豆木 新
プロローグ
太知ヒカリは、今日もその派手に染めた銀髪の髪を振りまいていた。
銀色のベースカラーに、差し色として水色をメッシュで入れた、とても派手な髪。イラストにでもしようものなら、とても映えること間違いなしだろう。
まぁ、描く側としてみれば、メッシュなんて心の底からやめて欲しいが。
そんな派手な髪をした太知だが、派手なのは髪色だけじゃない。だらしないだけなのか、それともファッションなのか、胸元の大きく空いたシャツ。カラコンを入れている青い瞳。さらには、自前のパーカーを腰に結んでいる。
————言っておくが、これらは全て校則違反だ。
しかし、それを教師は注意しない。校則違反なのに。
教師たちは呆れながらも、太知の校則違反を見過ごしている。一体何故か? それは「怖くて注意出来ないから」だろう。
そう、太知ヒカリは「ギャル」ではなく「ヤンキー」なのだ。
高校生という年頃になって、オシャレがしたいだけのギャルではなく、気に食わないことがあるとどこまでも反抗するヤンキーなのだ。
そんな太知の武勇伝は数知れない。百人近くの不良が集まって抗争を繰り広げていたところ、太知がたった一人で乗り込んで壊滅させたとか。自分に突っ込んでくる車を回し蹴りで止めたとか。
まだまだあるが、とにかく「太知ヒカリ」という女子高生は、非常に攻撃的な人間なのだ。
「————おっす」
「……おう」
もはや当たり前となった、昼からの登校をした太知が、隣の席である俺に挨拶らしきものをしてくる。……それに短く返す俺。
普通のヤンキーなら、こんな風に雑に返事を返したらキレ散らかしそうなものだけど。
超攻撃的生物、太知ヒカリ。
そんな生物と隣の席の俺の日常は、案外穏やかだ。少なくとも、こんな挨拶の仕方をしたとして太知がキレることはない。故に俺は、太知がヤンキーであることを疑っている。
ただ校則違反をするわけではない、なかなか気合の入った髪。見た目は煩いが、想像以上に静かな内面。
そして、ヤンキーにしては可愛いデザインをしたペンケース。
それでも実際に、太知が教師へ反抗する時はマジもんのヤンキーだった。
だからおそらく、ヤンキーであることは間違いないのだろう。だけど、裏では意外と乙女なことを思っているのかもしれない。言うなれば「乙女ヤンキー」だ。
————と、隣に座る俺は太知のことをそう思っていた。
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