葬儀屋

やと

第1話

今日も誰かも知れない人の葬儀が執り行れる。まだ一年目だがもう此処に就職してから半年になるか、反応は人それぞれに泣きじゃくる人もいれば黙って火葬まで泣く事もなければ子供などは退屈なのだろうじっと静かに終わるまで待つ事が出来ない事もある、静かに時間が終わるまで待つ人もいる最初は随分と薄情な人だなとか思う事もあったが仕事をしていく事で先輩に「人にはそれぞれ生きた時間にどんな生き方をしたか俺らは知らないしそれを勝手に勘ぐって分かった気になるなんて失礼だ」

そう言われてから葬儀屋と言っても結局は他人の死と言う壁を作るようになった。でも僕はそうなりたくない何故なら僕には他の人には見えない死者の姿がはっきりと見えるからたとえ他人でも見えてしまう事でを作ってもそれを破壊するかのように僕は死者がどう言う感情でその後を現世を生きるのかそれを考えてしまう。

僕が死者が見えるようになったのは小学生の時交通事故に遭って酷く頭を打った事でぼんやりと見えるようになった、生きてる人と違い色が薄く気味が悪い感じで見たくなかったけど見えてしまうので誰かに相談したくとも多分あいつは変だと言う一言で済まされるので他人にはこの目に映る者を相談する事やめたそれは家族も同じだった。その生活はとてつもなく苦痛だった常時目に映るのだからとにかく疲れる次第に学校でも保健室によく行くようになった為友達も出来なかった。最初から僕は一人だったそのある意味孤独とも言える学生生活をしてきた僕にもよくしててくれる人物がいた。家の近くにある公園の地縛霊だ。

僕はいつからかこの目のせいで何処にも居場所がないんじゃないかと思ってしまいよくその公園になにかあると行くようになった最初は霊はいないし夜帰りたくないと思って公園に通った、それが崩れたのが高校生の時だった突然僕に話しかけてきた中年の男性がいたそれは間違いなく霊だった、いつものように無視してまた一人でいれる場所を探さないとと思っていた時突然霊に話しかけられた。

「ねえ君僕の事見えてるでしょ?」

今まで霊に話しかけられた事がなかったのでうっかり反応してしまった

「え?」

「ああやっと見つけた」

まあ退屈しのぎに話す事もいいかと普段なら人の目に触れる場所ではそんな事しないと決めていたが幸いこの公園は人がいないので付き合う事にした。

「見つけたってなんですか?」

「僕そこの道路で車に轢かれて死んじゃったんだけどね、何とか話す事が出来る人探してたんだよ」

「おじさんいつ死んだの?」

「うーんかれこれ二十年前かな」

二十年ってずっと成仏しないで此処にいたのか

「ずっと此処にいるんですか」

「この公園は思い出が詰まっていてだから此処から離れられなくて」

「だからって二十年ずっと成仏出来ないですか?」

「そうなんだよ」

そうへらへらと笑いながら喋るこの人に少し引いてしまったがそもそも成仏ってどうやったら出来るのか分からないので聞いてみた

「あの成仏ってしないんですか?」

「それが未練が残ってると出来ないんらしいんだよ」

「未練?」

「そう、僕にもよく分かんないんだけどそう猫が言ってたんだ」

猫?

「なんで猫?」

「それは僕も分からないよ」

それはともかくこの人は今まで見てきた霊と違って僕に危害を加える事はなさそうだと思った、その時間はいつしか僕にとって久しぶりに感じた心地の良い体感さった。そして何日か経ってずっと疑問だった未練を聞いてみた

「おじさんの未練って何?」

「うーんそうだな、しいて言えば最後に家族に会いたい事かな」

「家族」

「うん」

「家族ってそんなに大切なものなんですか?それだけで二十年間も此処にいるって辛くないですか?」

「家族は僕にとって宝物みたいなものだから。君はそうは思わないのかな?」

僕の家族はごく普通家族で特別なにかがあるかと言われてもなにもない

「僕は特になんも思い入れとかないです、霊が見える事も言ってないですし」

「そうなんだ、でも生きてる内、その内に大切さに気付く事は大切な事だよ」

「そう言うものですか」

「そう言うものだ。僕はそう思っているからこそ今も此処にいる」

今の自分にはよく分からない理屈だったが本当にこの人の言う事が正しいのであるのなら何かしたいと思った。

「あの、お願いがあるんですけど」

「僕に出来る事なら」

「貴方が成仏出来るように僕にお手伝い出来ないでしょうか?」

そう言うとてっきり承諾してもらえると思っていたがそれは違った

「それは難しいと思うよ」

「なんでですか?」

「だって僕が死んでもう二十年だもう妻も子も家を変えてるだろうし」

「そうですよね」

「僕にとってその気持ちだけで嬉しいよ」

なんとかしたいがこれはどうしようもない事くらい分かっていた、結局自分は何も出来ない無力感が体の中に巡る霊が見える事も会話が出来てもその人を成仏出来ない現実を目の当たりになった事でそれ以降公園にも霊に接触する事も辞めた。


「この前の火葬場に深夜出たって知ってる?」

「そうなんですか?僕そう言うの信じてないので」

「お前はつまんないな」

つまんない人間なんて自分が一番分かってる先輩との何気ない会話でまた自分の中で嘘をついてる、いつだって僕は人と一定の壁を作って接していた

「この界隈のではそう言うもんなんていくらでもあるぞ」

「そうなんすね、でも霊が見えるなんて嫌ですけど」

「まあ普通はそうだよな」

僕と一つ上の先輩と五年くらい会社にいる何気ない会話だった、霊が見えるのでそんな出来事が起きても驚きはしないだろう。

「さーあ仕事するか」

そう一つ上の先輩がぽつりと呟いた時会社の玄関が開く

「すいません」

「はーい」

「火葬をしたいんですけど」

「分かりました」

このように自分の知らない所で人は沢山死んでいてその事実を突きつけるかのように仮装の依頼が絶えない、そして今日も午後から葬儀場に行って仕事をする。

「ありがとうお父さん」

泣きながら棺桶にお花を入れていく、そんな姿を見ているしかできない。そんな中外にぽつんと立っている中年のおじさんがいた、直ぐにさっきの亡くなったお父さんと呼ばれてた人だと分かった。

「少し外してもいいですか?」

「ああ、直ぐに戻って来いよ」

「分かりました」

直ぐに亡くなった人の所へと行く

「あの?」

「はい?」

「こんな所でなにやってるんですか?」

「いやただ自分がどうやって死ぬのか気になってね」

「そんなに気になります?」

「そりゃ気になるよ。それより君僕の事見えるんだね」

「まあ子供の時からなので」

「そっか、僕は生きてる時はそう言うオカルトは信じなかったけどこうしてみると死んでも会話出来る人がいるとは嬉しいね」

「貴方はもう成仏するんですか?」

「分からないけど僕はこうして自分が死んだらちゃんと悲しんでくれる家族がいると知ったから未練はもうないかな」

「そうですか」

「君が良ければ家族に伝えてくれないかな?」

「僕に出来る事なら」

「じゃあ僕の部屋の本棚一番下に家族へ向けて手紙を残していたからそれを伝えてほしい」

「分かりました」

「ありがとう」

そう言い残しておじさんは僕の前から消えた、恐らく成仏したのだろう。こう言う事は本当はしたくなかった。自分が幽霊が見えるなんてばれて此処の葬儀屋に変な口コミでも付けられたら直ぐに僕はクビになるだろう。だから僕は基本的には霊には干渉しないのだが公園にいた地縛霊の事を何故だか思い出してしまう。折角幽霊が見えて話せるのなら少しでも幽霊が成仏できるように手伝っても良いのではないのかとここ数日考えていた。

先輩の所に戻り葬式が終わるまで仕事はないので少し雑談をする

「戻りました」

「お前あそこでなにやってたんだ?」

「いや、外の空気でも吸おうと思って」

「気分悪くなったりしてないか?」

「いや大丈夫ですけど」

「そうかそれならいい」

「心配してくれたんですか?」

「そりゃ、心配だしなにより内の大事な数少ない従業員だし」

「人手不足ですしね」

「まあ内に限った話しじゃないからな、それに知り合いの葬儀屋も何人か辞めたらしいし」

「なんか前にもそんな事聞きましたけど」

「やっぱりこう言う仕事だしメンタルやられる奴も少なくないからな」

「そう言う先輩はこの仕事長そうですけどメンタル大丈夫なんですか?」

「俺はもう親父も母さんも死んじまったしその時期に身内も何人か死んだしそれにこの仕事長くやってると人間の死に鈍感になっていくものらしいしな」

「そんなもんなんですね」

「まあな。そう言えばお前の親父さんも亡くなってるんだよな」

「そうですね、僕が生まれる前にもう亡くなってたのでよく知らないですけど」

「そうか、まあお前は一年目だけど慣れたか仕事」

「まあ日々人間の死に関わっているのでいちいち参ってたらやってられないですよ」

「そうだな、そう言う精神も必要だ」

中が騒がしくなった、恐らく葬式が終わったのだろう

「よし、やるぞ」

「はい」

そこからは忙しくて遺族に幽霊の事を言う時間がなくて結局事務所に戻って来てしまった

「じゃあ俺は先に上がるわ」

「じゃあ俺も」

「じゃあ戸締まりよろしく」

「分かりました、お疲れさまです」

最後に事務所に残ったのは僕だけとなった。

事務作業をして区切りの良い所で帰ろうとした時にあるメールに目が止まった。それは今日葬儀を終えた遺族のメールだった、そこにはお礼のメールが入っていた。そのメールに返信したがどうやって先ほどの遺言とも言える言葉を遺族に伝えるか迷っていたがそのメールには住所など個人情報が載っていたので手紙で送ろうと思った、僕が書いたと言う事は伏せて簡潔に言われた事だけを書いた。

帰り際ポストに投函した

「これで良いよな、俺が出来る事これしかないし」

そう小声で言い聞かせて帰る

「ただ今」

「お帰り」

社会に入って独り暮らしをしようと物件を探し始めた時に母が倒れてここまで女手一つで僕を育ててくれた事もあって母さんを一人にする訳にはいかなかった、せめて親父が生きててくれればと思ったらがそれはもうどうしようもない事だしもう母さんも退院して元気になったがやはりなにがあるか分からないと言う事で実家にそのまま暮らしている。

「御飯食べよっか」

「先に食べてて良かったのに」

「だって折角太一残ってくれてるんだし」

「そうは言っても時間も遅いし母さんも明日早いだろ」

「もう何年仕事してると思ってんの、ちゃんと朝起きれるわよ。それよりもう家出ても良いわよ」

「俺は母さんが死ぬまで一緒に住むって決めたって前にも言ったろ」

「まあ、私は頑丈で長生きするだろうから心配しなくてもいいのに」

「もう決めた事だから」

「そう言う所お父さんに似てきたね」

「そうなの?」

「うん」

「父さんってどんな人だったの?」

「んーまあ頑固で分からず屋だった、でも人一倍優しくて記念日なんかも忘れた事はないいい人だったよ」

「それで再婚しなかったのか」

「まあそうね、でもあの人以上にいい人なんてそう見つかるものじゃないから」

なんか惚気られた、両親の惚気話ほど聞くに耐えないものはない。でも母さんがそう言うなら本当にいい人だったのだろう。そんな人に似てきただなんて少し嬉しくなってしまう

「出来たら会いたかったな」

「私も会わせたかったわよ」

「まあもう今更か」

「そうね今度あの人の思い出の場所に連れて行ってあげようか?」

「なにそれ、何処?」

「内緒」

「なんだよ」

「まあその内連れて行くわよ」

「分かった」

そこから数日後手紙を出した方がお店のドアを開いた。

「いらっしゃいませ」

「すいません、先日旦那の葬儀を依頼した者なんですが」

「ああ、なにかありましたか?」

「いえ、あの時担当してくれた人と話したくて」

「分かりました」

「太一ちょっと来て」

仕事をしながら話しは聞いていたので直ぐにお客さんの所へ向かう

「はい」

「ちょっと話しがしたいそうだ」

「何でしょう?」

「貴方のお名前は?」

「福村太一です」

名刺を渡して挨拶をする

「少し下の喫茶店でお話し出来ますか」

「私ですか?」

「ええ」

「仕事やっとくから行ってこい」

「分かりました」

そう言われ店を出る。もしかして手紙を出したのをばれたのか、だとしたら最悪クビだ。どうにかしないとと思いながら喫茶店に入って席に着く。

「あの、先日の葬儀でなにかありましたか?」

「いえ、今日お伺いしたのはその事ではありません」

「ではなんでしょう?」

「お手紙出されたのは福村さんですよね?」

「えっと」

もうばれている。これは言い逃れが出来ないと覚悟した。

「隠さなくても大丈夫ですよ、これについてとやかく言うつもりはありません」

「分かりました、手紙を出したのは私です」

「やはりそうですか」

「なんで分かったんですか?」

「葬式の時に貴方が誰も居ない所でまるで人が居るかのようにお話しをされてたのをたまたま見たので。」

「見られてたんですか」

「盗み見のようになってしまってすいません」

「あの、この事は誰にも言わないでもらえますか?」

「分かりました。あの時に話していたのは旦那ですか?」

「はい」

「福村さんは幽霊を見えて話せるんですね」

「そうですね、ドラマや漫画のような話しですが」

「きっかけは何だったんですか?」

「小学生の時に事故で頭を強く打ったのがきっかけです」

「そうだったんですね」

「幻覚と言えばそれで済むんですけどはっきりと人とは違った感じで見えてなおかつ話せてしまうので無視ができないんです」

「それは大変でしたね」

「まあもう十年以上にこの現象とは付き合って来たのでもう苦痛ではないですけど」

「あの人は幽霊なんて信じない人でした、でも福村さんの手紙の通りに本棚を調べたら家族分に手紙が残されていたんです」

「そうですか」

「はい、あの人は素直に言葉にするのが苦手で本音が書かれていてあの手紙には自分が死んで整理しても見つからないだろうからって本音が書かれていたんです。だからあの手紙の存在は亡くなった上で死者になった人と話せる貴方しか知らないと思い伺ったんです」

「なるほど」

「それであの人は最後に貴方に何を伝えていたのかとちゃんと成仏できたのかを知りたくて」

「分かりました。最初に旦那さんは成仏できました、そして自分が死んだらちゃんと悲しんでくれる家族がいると知ってもう未練はないと話していました」

「そうですか」

お客さんは一言言って涙を流して少し間が空いた。

「あのこの事は誰にも話さないでほしいんですが」

「はい、私だけでも旦那の意思を知れただけで嬉しいです。この事は家族にも話しません、それに誰も信じてはくれないでしょう」

「まあそうですね」

「それじゃあ私は帰りますね」

「はい」

喫茶店を出てお店に戻ろって仕事を再開しようとした時に知らない電話番号からかかってきた

「もしもし」

「福村さんのお電話で大丈夫でしょうか?」

「はい」

「私W病院の看護師の酒井と言います、失礼ですがお母様のお名前は福村由紀恵様で合っていますでしょうか」

「そうですが」

「実はお母様がW病院に緊急入院していまして」

「分かりました、直ぐに行きます」

急な出来事すぎて頭が追いつかなかった

「おい、太一顔青ざめてるけど大丈夫か?」

「えっと、あ、それが、えっと」

上手く言葉に出来ないもしそのままなんて事みたいな悪い事ばかり考えてしまう

「落ち着け。なにがあった」

「母さんが入院したって」

「今日はもういいから早く病院行け」

「すいません」

「とにかく落ち着いて行けよ」

「はい」

直ぐに自分の荷物をまとめて店を出る。丁度タクシーが来たので病院の場所を伝えて急いでタクシーを出してもらう。この仕事をしていると死に対して鈍感になっているとは思ってたけれど身内となるとまるで話しが違ってくる。

病院まではタクシーで二十分くらいだった、場所が近くて助かった。母さんは前にも入院しているのでより一層心配になってくる、そんな考えが頭を回って急いで受付に向かって病室に行った。

「母さん」

「うるさいわよ、他の人もいるんだから」

「なんだ元気そうじゃん」

「まあ元気ぴんぴんよ」

顔色以外はいつもと変わらなかった

「再発したの?」

「まあそんなとこ」

「そっか」

しばらくして主治医の先生が入ってきて病状を説明してくれた、要は前に病気で入院した時の病状が再発して悪化してるのだそうだ

「手術すれば良くなりますか?」

「手術しないと言う選択肢もありますが手術した方が時間は長くなります」

「なるほど」

「ですが手術にもリスクは付き物です」

「どのくらいの確率ですか?」

少し難しい顔をして答える

「今の状態だと半分を切る形になります」

「つまり五十%もないと」

「正直に言うとそうなります」

「でも手術しないとそれ以下と」

「はい」

「どうする母さん?」

「手術しようかね、まだ生きたいし」

「では手術を視野に入れていきましょう」

「お願いします」

それから仕事終わりに母さんのお見舞いに行くのが日課になった。

「そんなに毎日来なくて良いのに」

「上司が早めに上がって良いって言ってくれるし」

「そう言われても仕事するのが大切なのに」

「まあこっちの事は良いんだよ」

「そうね、もう大人だもんね」

「そうだよもう二十歳だし」

「じゃあこれ」

そう言われて渡されたのはとある公園の写真だった

「何処これ?」

「家の近くの公園だよ、幼稚園児の時よく遊んでたでしょ」

「ああ、あそこね。でどう言う意味?」

「それは行けば分かるよ」

「じゃあ明日行ってくるよ」

「うん、楽しんでおいで」

楽しむとはなんだろうと思ったがもう面会の時間が迫っていたので帰る事にした。

「親子で会うのは何度目かね、もう私には見えなくなってしまったけどあの子には見える見たいだから少し嫉妬しちゃうけど二人で会うとどんな会話をするのかしらね」

翌日公園に向かうと前にも会った地縛霊のおじさんがまだいた

「やあ久しぶり」

「久しぶりです、まだいたんですね」

「もう今日で終わりみたいだよ」

「なんでですか?」

「なんだかもう未練は感じないんだ」

「急ですね」

「まあ幽霊なんてこんなものでしょ?」

「幽霊事情は知らないですけど」

「じゃあ最後に教えてくれませんか?」

「なにをだい?」

「なんで此処が思い出で詰まっているんですか?」

「此処は生きてる時に妻にプロポーズした所なんだよ」

幽霊は恥ずかしそうに言った。おじさんの恥じらい程見るに耐えないものはない。

「やめてください、気持ち悪い」

「今時の子は手厳しいね」

「普通におじさんはのその顔はきもいです」

「まあそうか」

「でも此処は街を一望出来るしなんだか見かけによらずロマンチストですね」

「まあ付き合ってる時から来てた所だしバケーションもいいしね」

「そうですか」

一匹の猫がおじさんに近付いてくる

「おや、もう時間かい?」

猫はおじさんにすりよって何も話さない

「じゃあ行こうか」

「会話してるんですか?」

「うん、もう行かないと行けないみたいだ」

おじさんが段々と消えて行く

「最後に名前教えて」

「時期に分かるよ」

それを最後におじさんはそのまま消えてしまった、恐らく成仏したのだろう。気付いたら猫も消えていた。

「じゃあね、お墓参り行くよ」

それから一ヶ月、僕はカーネーションを二本持って母さんと父さんのお墓参りに来ていた

「母さん手術頑張ったのに直ぐに父さんの所に行くなんてもうなんと言うか本当に猫みたいな人だよね。俺が帰って寝た時に死ぬなんて。でも父さんに直ぐに会いたかったんだね、じゃあ言いたい事言ったし帰るわ。長居されるのも好きじゃないでしょ」

僕は同じ職業で変わらずやっている。少し変わった所があるとすると死者と対話する事が増えた事だった、そしてこの業界で最後に言葉を伝えてくれる不思議な人間がいると少し話題になった。そして今日もそんな葬儀屋を訪れる人が居る。

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葬儀屋 やと @yato225

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