静寂の声

第8話 影の中の真実

シュンはリサの自宅を出て、混乱した頭を抱えながら街を歩いていた。リサが消えた今、誰も信じられなくなってきている。カナの行方も掴めず、彼を助けてくれる仲間もいない。だが、シュンは手に入れた機密ファイルの断片から「プロジェクトA」の全貌を暴かなければならないと感じていた。

　街を歩きながら、彼はリサのことを思い出していた。カナの一番の友人だったはずの彼女が、なぜテクノクリア社に関与しているのか。彼女が裏切ったのか、それとも何か別の理由があるのか。真実を知るにはリサを探し出すしかない。

　鍵となる人物

　シュンはリサに関する手がかりを得るため、彼女の行きつけのカフェに向かった。そこはカナもよく訪れていた場所で、二人が時折密談をしていたことをシュンも知っていた。カフェに入ると、店内は穏やかな雰囲気が漂っていたが、シュンの心は不安と焦燥でいっぱいだった。

　店員にリサのことを尋ねると、彼女が最近来店していないことがわかった。しかし、カナとリサが話していたという内容について何か覚えているかと問うと、店員は思い出したように答えた。

「二人はいつも何かのプロジェクトについて話していましたよ。具体的な内容はわかりませんが、カナさんが最近、少しピリピリしていたのは確かですね」

　シュンはその情報を元に、さらに調査を進めるためにカナが残したノートを再度見直すことにした。ノートには、リサとの会話が暗号化された形で記録されていた。これまで解読できなかった部分が、シュンの頭の中で次第に繋がっていった。

　不可解なメッセージ

　その夜、シュンのスマートフォンに見知らぬ番号からメッセージが届いた。「カナは生きている。真実を知りたければ、明日の午前2時、港に来い。」そのメッセージには詳細な説明も、送信者の名前も記載されていなかった。

「これは罠か…？」

　シュンは警戒しながらも、そのメッセージが本物である可能性にかけることにした。もしカナが生きているなら、彼女を助けるためにも行くしかない。だが、一人で港に向かうのはあまりにも危険だ。

　シュンは慎重に準備を整え、万が一のためにいくつかの連絡先に自身の動向を伝えた。午前2時に指定された港に到着すると、そこは静まり返っており、夜の闇が深く広がっていた。灯りも少なく、人気もない。その不気味な静けさが、シュンの不安をさらに掻き立てた。

　罠か真実か

　しばらく待っていると、遠くから足音が聞こえてきた。シュンは警戒しながら、足音の主を見つめた。姿を現したのは、黒いフードを深く被った人物だった。顔は見えないが、その人影は女性のように見えた。

「カナか…？」

　シュンは声を掛けようとしたが、相手は素早く近づき、低い声で話しかけた。

「静かに。聞いて。テクノクリア社は君を追っている。だが、彼らは君が持っているデータをまだ完全に把握していない。君にはまだ時間がある」

　シュンはその声に聞き覚えがあった。リサだ。だが彼女の表情は硬く、どこか緊張した様子だった。

「リサ、君は一体何をしているんだ？カナはどうした？君は本当に味方なのか？」

　シュンはリサに詰め寄った。

　リサはため息をつき、少しだけフードを外して顔を見せた。彼女の目は疲れ切っていたが、真剣な光が宿っていた。

「私はカナを守るために動いている。彼女はまだ生きているが、危険な状況にいるのは確かだ。私も裏切っているわけではない。むしろ、私はテクノクリア社の内部で情報を流し、カナを助けるために動いていた」

「じゃあ、なぜカナが姿を消したんだ？」

　シュンはなおも疑念を抱きながらリサを問い詰める。

「カナはテクノクリア社が進めていた計画に気づき、それを暴こうとした。その結果、彼らに追われ、命を狙われることになったの。私は彼女を守ろうとしたが、それでも彼女は一人で行動することを選んだ」

　リサはさらに続けた。「シュン、君に渡すべき情報がある。だが、それを渡すにはもう少し時間が必要だ。君はしばらく姿を隠して、警戒を強めた方がいい。彼らは君を見つけ出すつもりだ」

　新たな危機

　シュンはリサの言葉を信じるべきか迷ったが、彼女の目に嘘はないと感じた。「わかった。だが、カナの居場所がわかったらすぐに教えてくれ。僕も彼女を守るために全力を尽くす」

　リサは静かに頷き、またフードを深く被り直した。「気をつけて。次に会うときには、全てを話すつもりだ」

　リサは静かにその場を去り、シュンは一人港に残された。だが、彼の背後には既にテクノクリア社の影が忍び寄っていた。どこかに潜む敵の視線を感じながら、シュンは港を後にした。

　街の明かりが近づくにつれ、彼の心の中には再び焦りと不安が募っていった。リサは本当に味方なのか？カナは無事なのか？そして、テクノクリア社の計画の全貌は一体何なのか？まだ見えない答えを探し求め、シュンはさらなる危険に飛び込む決意を固めていた。