幼なじみは救国主! ~そして「オマケ」の俺はあちこちへ~

立野枯木

序章

00:少年と少女の日常

 俺の名前は遠藤隼人ハヤト、17歳。普通の高校二年生。他の人よりちょっとだけ運が良いのが自慢。

 彼女の名前は田貫穂乃花ホノカ、同じく17歳。蒙古斑の数以外はお互いになんでも知っている、産まれた日付と病院から一緒の幼なじみ。ちょっと不運体質だけど、文武両道才色兼備の万能少女。

 この物語は普通の高校生である俺と、主人公すぎる幼なじみの日常が描く軌跡である。


 俺たちの日常はだいたい、ホノカの絶叫から始まる。


「スマホ探すの、手伝ってください……。」


 家が隣。部屋も窓の向こう。毎朝迎えに行くたびに、見つからなくなっている何かしらを一緒に探す。そうでないと「学校一の優等生」が保持する無遅刻無欠席記録は今日にも途切れてしまう。

 学校に向かう間も気が抜けない。歩道を往来する「ながら」自転車。連続で引っかかる赤信号。必ず遅れてやってくるバス。前ぶれなく催す犬。前ぶれなく催すホノカ。全ての障害を一つずつ乗り越えなければならない。

 学校に到着すれば、とりあえず一安心。教室も毎年同じなので、トラブルが無いか監視しみまもっていればいいだけ。でも文武両道才色兼備なホノカは今日も、座学だろうが体育だろうがお構い無しの無双ぶり。俺が手や口を出す余地はない。

「昼休みの購買部」に「長蛇の列」はもはや様式美。人気最底辺にしてホノカお気に入りの「アロエヨーグルトと無糖ホイップ入りロングパン」を手に入れるため、俺たちは今日も他生徒との激しい争奪戦に身を投じる。


「まあまあ。こういう日もあるよ。」

「だって一番人気ないんだよ?!なんでいっっつも無くなっちゃうのかなあ?! 」


 贔屓目にもホノカの食の趣味は変わっている。人気最低辺なのに手に入らないことも、三日に一度はある。

 放課後。委員会の仕事を終わらせた俺は、所属しているテニス部の活動に励むホノカに差し入れを持っていくのがルーティンだ。


「っはぁーっ!命の水ー!」


 運動している時に「命の水」と称して缶のおしるこを飲み干すのは、俺が知る限りホノカだけだ。もちろんその姿を見ている他の部員はドン引きである。

 シャワー室で汗を流したホノカが戻ってきたら帰り道を歩く時間、つまり二度目の長い戦いが始まる。歩道を往来する「ながら」自転車。公園から飛んでくるボール。死角から飛び出す小さな子ども。連続で引っかかる赤信号。前ぶれなく催す犬。前ぶれなく催すホノカ。時間に追われていないだけマシだ。


「今日も大変だったな。」

「毎日が厄日なの、いい加減にどうにかなんないのかな。」


 俺もホノカもへとへとに疲れ切っているけれど、どこまでも心地良い日々。

 そんな日常が楽しくて仕方がなくて、俺もホノカも自然と笑ってしまう。

 けれど、今日。この時。この瞬間。

 足元の光が「日常」を打ち崩した。




 私の名前は田貫穂乃花、17歳。普通の高校二年生。他の人よりちょっとだけ……本当にちょっとだけ、運が悪いのが特徴。

 彼の名前は遠藤隼人、17歳。彼のエロ本の趣味以外は全て理解し合えている、保育器が隣だったところからずっと横にいる幼なじみ。幸運な出来事がやたらと身の回りで起こる、天性のラッキーマン。

 この物語は普通の高校生である私と、ラッキーマンな幼なじみの日常が描く軌跡である。


 私たちの日常はだいたい、私がベッドから転げ落ちるところから始まる。


「スマホ探すの、手伝ってください……。」


 家が隣。部屋も窓の向こう。ハヤトが毎朝迎えにきてくれるたびに、見つからなくなっている何かしらを一緒に探していただく。そうでないと「無欠の男」が更新している無遅刻無欠席記録は今日こそ途切れてしまうかもしれない。

 学校に向かう間も気が抜けない。歩道を往来する「ながら」自転車。連続で引っかかる赤信号。必ず遅れてやってくるバス。前ぶれなく催す犬。壁に突き当たるたびにハヤトのエスコートが必要になる。

 学校に到着すれば、とりあえず一安心。教室も毎年同じなので、トラブルが無いか守護しみまもってもらえばいいだけ。でも今日も今日とて先生と目が合ってばかりだし、座学だろうが体育だろうがお構い無しに最前列へと押し出される。けれど、学校でもハヤトに助けてもらってばかりではカッコ悪いじゃないか。

「昼休みの購買部」に「長蛇の列」はもはや様式美。人気最底辺にして個人的ランキング堂々一位の「アロエヨーグルトと無糖ホイップ入りロングパン」を手に入れるため、私はハヤトと一緒に他生徒という荒波をかき分けて進む。


「まあまあ。こういう日もあるよ。」

「だって一番人気ないんだよ?!なんでいっっつも無くなっちゃうのかなあ?! 」


 ハヤトが確保してくれたパン耳ステックと野菜ステックを齧りながら、人気最低辺なのにそこそこの確率でありつけない大好物への愛憎を叫ぶ。

 放課後。図書委員会の仕事を終わらせたハヤトは、テニス部の活動をしている私に差し入れを持ってきてくれるのがルーティンだ。


「っはぁーっ!命の水ー!」


 缶のおしるこ。おお、缶のおしるこよ。消耗した体と心を癒してくれる、愛しの缶のおしるこよ、いつもありがとう。そしてそれをもたらしてくれるハヤトも、本当にありがとう。

 シャワー室でさっさと汗を流し、ハヤトと一緒に帰り道を歩く。歩道を往来する「ながら」自転車。公園から飛んでくるボール。死角から飛び出す小さな子ども。連続で引っかかる赤信号。前ぶれなく催す犬。時間に追われていないだけマシだろう。


「今日も大変だったな。」

「毎日が厄日なの、いい加減にどうにかなんないのかな。」


 私もハヤトもへとへとに疲れ切っているけれど、どこまでも心地良い日々。

 そんな日常が楽しくて仕方がなくて、私もハヤトも自然と笑みをこぼしてしまう。

 けれど、今日。この時。この瞬間。

 足元の光が「日常」を叩き壊した。

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