ルートム国記 取材録

澄ノ字 蒼

第1話 鐘の音の鳴る町ルートム

 アカノとはこの小説の主人公である。赤い髪を一つに束ね、麻の上下の服を着た少年である。少年はよく夢想する。将来の目標って何だろう。プロ作家? 芸術家? 何でもいいけど大人になっても小説やイラストを描き続けられたらなって思うこのごろ。



 リンゴン♪ リンゴン♪ リンゴン♪

  リンゴン♪ リンゴン♪ リンゴン♪

 リンゴン♪ リンゴン♪ リンゴン♪


 鐘の音が国中に響き渡っている。この町の名前はルートムという。商人の町である。今鳴っているのはこの町の平和の象徴である通称『時の降る鐘』である。毎日12時ぴったりに鐘がリンゴン、リンゴンと鳴る。今はちょうどお昼時だ。アカノは小説を書いている。アカノの書いた小説は学校ではクラスでは評判で作った先から回し読みされている。母親はうす暗い部屋の中で魔導具の組み立ての一部を行っている。


「おっかあ。もう12時だよ。何か食べようよ?」

 母親は宝玉を杖にはめ込むと、

「私は、まだお腹すいていないから。アカノ一人で食べえ」

 僕は知っている。こういう時の母親というのは食費を少しでも減らそうと食べるのを極力おさえているのだった。

「ごめん。僕は腹減った。黒パン食べるね」

 もしゃもしゃ食べている間にも母親は魔導具をもくもくと作り続けている。一週間毎日夜中まで手を動かし続け、段ボール一箱分作って20000リンである。その20000リンのうち一か月分家賃代が10000リンとられて、一か月70000リンで過ごすのだ。日増しに母親の顔が暗くなっていくのが分かる。僕もお金を稼いだ方が良いのかな。

「おっかあ、僕も働きに出た方がいいのかな」

 母親は顔を真っ赤にして僕のほおを思い切り叩く。

「アカノは勉強だけしていればいいの。それにたまに魔導具を一緒に作ってくれるじゃない。それだけでお母さんはうれしい」

さみしそうに母親は笑う。

「ちょっと横になって寝るね」

 母親はその場で横になった。しばらくしてすーすーと軽いイビキが聞こえてきた。 疲れ果てて眠っている母親の家計を助けるために働いてみようと改めて思ったのだった。


 夜、母と黒パンにジャムを塗りながら話す。

「お母さんは仕事どこで見つけたの?」

「あんた、なにか変なことを考えているんじゃないでしょうね」

「いやいや、ただただ参考にするだけ」

「そうね。まずそれぞれの職業ギルドに登録して案件をさがして案件を請けてその出来高によってお金が支払われるというものなのかしらね」

「お母さんはどこのギルドに属しているの?」

「魔導具錬成ギルドよ」

「へええ」

「末端も末端よ。低価格の魔導具をつくっているんだからね。それも段ボール一箱で20000リン」

「そっか」

「お金を稼ぐのは本当に大変なのよ」


 翌日、アカノは冒険者ギルドの前にたたずんでいた。冒険者ギルドは古びた建物の中にあった。中に入ると、どこにいけばいいか分からなくなってしまった。

 しばらく固まっていると、

「どうしたんですか。お仕事をお探しですか」

「ひいぅ!」

 緊張の余り変な声が出てしまった。思わず、ごほんごほん、とせきをしてごまかした。制服をきたお姉さんがニコニコと笑って接客してくれている。

「はい。仕事を探しています」

「じゃあ、こちらにて受付しますね」

 案内されるがまま椅子に座りいろいろと名前とか生年月日とか書いていく。それから冒険者ギルドの説明が始まる。

「当たり前の話ですけれども報酬の高い案件というのはそれだけ危険ということです」

「へええ」

 受付の女の人は続けて、

「最初は低単価の仕事を請けて案件を行い、業務について覚えていくという方法をオススメします」

 とまあこんな感じでいろいろと説明を受けた。最後に

「では奥に案件一覧をファイリングした本が置いてあるのでそこでいいなあと思った案件があったら声を掛けて下さい。私も一緒に確認しますので大丈夫だと思いましたら紹介状を発行します」


 奥に行くとファイリングされた本たちがところ狭し、と本棚に入っていた。とりあえず一つ手に取りパラパラと眺めてみる。


 野良ゴブリン退治1匹 40000リン。ゴミ屋敷の整理 20000リン。△△山の薬草つみ 2000リン。


 結論、全部大変そうだった。そもそも薬草つみって何よ。どの草が薬草かも分からないのに案件なんて請けられるわけないじゃん、と思った。


 試しに受付のお姉さんに薬草つみの仕事を聞きに行く。

「これなんですけど」

「はい」

「やっぱり薬草の種類を知っていなければ薬草をつめませんよね」

「まあそりゃそうですよね。それにこれは山登りスキルとある程度の武器スキルが必要です」

「武器スキル! 何でですか?」

「たまに野良のモンスターとも出くわすこともあるんです」

 心の中で大きくため息をつく。

「お金をかせぐのって大変ですね」

「そりゃそうですよ。お金ですもん」

「ありがとうございました」

「また何かよさそうな案件あったら持ってきてくださいね」

 野良のモンスターでびびっているのに知性を持ったゴブリン退治なんか無理でしょ。相手に出来るはずないじゃん。他にもゴミ屋敷の整理でも何かクギとか床に落ちていて踏み抜いたら大ケガをすると思うし何より生ゴミとか臭いじゃん。むう、なかなかお金を稼ぐのも大変だなって思う。


まあゆっくりと決めていこう。

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