第2話

 ――と、東源さんが切りだす。


「今日は、琴宮さんに折り入ってお願いがあるのだけれど……」

「えっ……わたしに……!?」


 びっくりして、思わず目を見ひらく。

 な、なんだろ? 東源さんみたいなお嬢さまが、わたしなんかに改まってお願いなんて……?


「ええ。その……聞きたいことがあるというか、相談というか……」


 いつもハキハキとしゃべる印象の東源さんが、なんだか歯切れが悪い。


「できれば、今日の放課後に時間をとってくださらない?」

「えっ……」


 そんなに本格的な相談事!?

 そういえば、東源さんは運転手の人に「今日はちょっと用事がある」と言っていたけれど、もしかして、わたしに相談するため……?

 わたしの反応を見て、東源さんが眉を下げる。


「あっ、部活とかあるのだったら、別の日でも……」

「ううん! 大丈夫! 時間はあるから!」


 清涼学院に入ってからというもの、まだ仲のいい友だちはできてないし、相談を持ちかけられるなんて初めてだもの。

 ましてや、これまで接点のなかったお嬢さまの東源さんだし!

 胸がドキドキしていた。

 これがきっかけで、お友だちになれるかもしれない!


「そう、よかったわ」


 ホッとしたように東源さんが言う。


「場所はどこがいいかしら? 誰にも聞かれたくなくて……」

「あっ、それだったら教材室でどう?」

「教材室?」


 わたしの提案に小首をかしげる東源さん。


「わたし、文芸同好会に入ってるんだけど、教材室を部室として使わせてもらってるの。正式な部じゃないから、結構ゆるいというか、幽霊部員ばかりで、まともな活動してなくて……。毎日、顔は出してるけど、いつもわたしひとりで読書してるだけなんだよね。だから大丈夫だと思うけど、どうかな?」

「ありがとう。お邪魔させていただくわね」


 うれしそうにほほ笑む東源さんは、本当に愛らしい。

 いつもさびしい部室が、今日ばかりははなやぐことになりそう。

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