第三章

16 壁

 朝倉の部屋。

 まるで家探しされたかのように散らかっている。

 伊達が座って足首のテーピングをしている。

 朝倉が入ってくる。


朝倉 傷の具合はどうですか。

伊達 しばらく安静にします。助かりました。

朝倉 まぁ、はい。

伊達 あなたは、他人を入れたがらない人だと思っていましたが。

朝倉 散らかってますからね。


 朝倉、その場に居座る。


伊達 部屋の乱れは心の乱れですよ。

朝倉 …あなたは誰に対してもそうなんですか。

伊達 何がです?

朝倉 あ、じゃあいいです。

伊達 誰であろうと愛します。そのための神父です。

朝倉 そうですか。


 伊達はテーピングを終える。

 香川が入ってくる。


香川 若、被害状況の確認、終わりました。結局、政府はほとんど手出しできなかったようですが、蔵にあった剣術の秘伝書や刀をいくつか奪われたそうです。怪我人はいません。

朝倉 ふぅん。

香川 それと…。


 香川、伊達を見る。


伊達 外しましょう。

朝倉 いや、いていいよ。

伊達 部外者に聞かれては困るでしょう。

香川 そうですよ。ただでさえ、家の者たちは反対してるんですから。

朝倉 部外者じゃなかったらいいの?

香川 そういうわけじゃ…。

朝倉 じゃいいじゃん。

香川 …。


 香川、諦めて朝倉の隣に座る。


香川 水海様の件です。秋葉の言う通り、ゴールデンパレスで過ごしていたことは確かですが、我々が地下にいた間に行方がわからなくなっています。

朝倉 何で?

香川 こっちが知りたいですよ。一体、どこにおられるのか。

朝倉 どこだと思います?

伊達 …私ですか?

朝倉 はい。

伊達 …私より、適任がいると思いますが?

朝倉 私はあなたに聞いてるんですけど。

伊達 …そのために、私を連れてきたんですか?

朝倉 まぁ、それもあります。

伊達 …どうしても、私から情報を聞き出したいなら、拷問にでもかけたらいかがですか?

朝倉 手を組んだ対価をもらってないんですけど。

伊達 そちらからも、何一つもらっていませんが。

朝倉 はぁ…。

伊達 …あなた、人の上に立つのは向いてないですね。

香川 黙って聞いてれば…。

伊達 そうでしょう?香川さん?

香川 …。

朝倉 俺じゃ力不足ってこと?

伊達 そうやって、判断を他人に委ねるところが。


 朝倉、伊達に刀を突きつける。


香川 若!

朝倉 あなたにわかるんですか?

伊達 いいえ。


 伊達は朝倉から目を逸らさない。


伊達 選びなさい。私を生かすも殺すも、あなたの自由です。


 伊達、刀の切っ先を自分の喉元に持ってくる。


伊達 神は、全てを愛してくれます。

朝倉 神様なんていないんですよ。


 朝倉、伊達の首を斬ろうと力を籠める。

 伊達、その一瞬で朝倉の刀を奪い、組み伏せる。


香川 若!


 伊達は刀を鞘に納める。 

 

香川 であえ、であえ!こいつを捕らえろ!

伊達 …。


 伊達、朝倉家の家臣たちに拘束され、連れていかれる。


香川 若!ご無事ですか!?


 朝倉、笑っている。


香川 若…?

朝倉 殺さないどいてね。

香川 …わかりました。


 香川、部屋から出ていく。

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