第170話 金融

一馬は、エターナル・ホープの農作業をしながら、ふと自分の過去に思いを馳せました。夏の炎天下で働き続けた末に、日射病で命を落とした日本での記憶が鮮明に蘇ります。そのとき感じたのは、社会における「逃げ場のなさ」でした。仕事を辞めた後に頼れるものは生活保護くらいしかなく、その制度も厳格な条件を満たさなければ受けられない。一馬は、この社会の構造に問題を感じました。


社会に出ることが難しい人、特に人とのコミュニケーションが苦手な人たちは、生きづらさを抱えていることに一馬は気づきます。これらの人々が社会で孤立し、やがて孤独死してしまう現状を変えたいと彼は強く思いました。そこで彼は考えました。もし、そうした人々が金融についての知識を持ち、自力で生計を立てることができるようになれば、社会に適応するための無理な努力をしなくてもよくなるのではないかと。


一馬の考えは、ただ保護を受けるだけの社会から、個々が自立して生きられる社会への転換でした。金融リテラシーを学び、自ら資産を運用できる能力を身につけることで、社会から孤立しない、孤独にならないための新しい道が開けるのではないか。人との関わりが苦手であっても、経済的に自立することで、自分らしい生き方ができる社会を目指すべきだと、一馬は確信したのです。


彼は、その考えをエターナル・ホープに反映させる決意を固めます。金融教育を広めるための場を設け、社会の不安定さに苦しむ人々に新たな希望を与えることができる場所を作りたいと、一馬は心に誓いました。


一馬は、金融についての知識がほとんどない自分に気づき、まずは基礎から学ぶことを決意しました。しかし、この世界には現代的な金融システムや便利な学習ツールは存在しません。そこで彼は、古代の金融業界についての知識を学ぶために、古い書物や伝統的な商人たちの知識にアクセスする方法を探し始めました。


まず一馬は、各地の古い図書館や賢者の塔を訪れ、古代の経済活動に関する文献を探しました。彼は膨大な量の巻物や粘土板に刻まれた記録を読み漁り、古代文明がどのようにして資産を管理し、取引を行っていたのかを学びました。中でも、とある古代都市の貸付業や、貿易ネットワーク、商業法についての記録が特に興味深いものでした。


一馬は、これらの文明がどのように金融を活用し、資産の保全や増加を図っていたのかを理解することで、現代の金融システムと同じような原則が古代から存在していたことに気づきました。たとえば、その都市では利子を取ることが一般的であり、そのために法が整備されていたこと、また、商人たちは複雑な信用制度を用いて遠隔地との交易を行っていたことなどが分かりました。


一馬は、日々これらの知識を整理し、自分の中に吸収していきました。彼は巻物を解読し、粘土板の文字を学びながら、次第に金融の基礎を理解するようになっていきます。どのようにして資本を集め、それを運用して利益を生むのか、またリスクをどう管理するのかといった、金融の基本的な概念が少しずつ頭に入ってきました。


学んだ知識を実際にエターナル・ホープで試し、村の商人たちと話し合い、古代の知恵を現代に応用しようと努力する一馬の姿は、まさに真剣そのものでした。彼は夜遅くまで書物に目を通し、古代の知識を実践に移すことで、エターナル・ホープをより良い場所にしようと奮闘します。


この努力の末、一馬は徐々に自信をつけ、金融を通じてエターナル・ホープの住民に新たな生き方を提供することができると確信しました。金融は単なる数字のやり取りではなく、社会の構造を支える重要な柱であり、それを学ぶことで人々を助けることができると悟ったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る