第168話 ノブレス・オブリージュ

エターナル・ホープという村は、次第に一馬の心の中で特別な存在となり始めていました。村が成長し、発展していく様子を見守りながら、一馬はこの地をより良い場所にしたいという思いが強まっていきます。その思いが形を成したのが、彼なりの「ノブレス・オブリージュ(高貴さの義務)」の概念でした。


一馬は、自らの権力や富をただ享受するのではなく、それを用いて村の発展に貢献する者たちを称えることが最も大切だと考えました。その方法は、功績をあげた者を「常に表彰する」というものでした。たとえば、大きな橋を架ける際には、その橋を建設するために出資した者の名前を刻んだ石碑を立て、村の人々にその功績を広めるようにしました。これは、出資者や貢献者の自己満足感を高め、さらに多くの人々が進んで村の発展に協力することを促す狙いがありました。


日本人が持つ「黙って何かをやることが美徳である」という傾向に、一馬は納得がいきませんでした。彼は、黙っていてはその功績が認知されず、やがて忘れ去られるだけだと考えていました。美徳に重きを置きすぎる社会は、結局のところ衰退するのではないか――そのように日本の歴史を見て感じた一馬は、エターナル・ホープでは別の道を選びました。


公共事業の出資者や工事に携わった者たちの名前を刻んだ石碑は、村の至る所に立てられました。橋や道路、学校や病院、すべての公共施設において、一馬はその貢献者たちを称え、村全体がその偉業を忘れないように努めました。しかし、これにも限界がありました。村のすべての功績を石碑に記録するのは、次第に困難になっていきました。


そこで、一馬はあるひらめきを得ます。それは「学校を作り、教科書に記載すること」でした。人類の歴史は戦争の歴史だと一般には言われていますが、それは戦争の歴史ばかりが教科書に書かれているからだ、と彼は考えました。もしも教科書に戦争以外の偉大な功績や公共事業の歴史を記載すれば、人類の歴史そのものが変わるはずだ――そう思った一馬は、エターナル・ホープに新しい学校を作ることを決意しました。


この学校では、戦争の歴史に加えて、村の発展に寄与した人々の功績が詳しく教えられる予定です。公共事業の重要性や、それに携わる者たちの努力と献身を広く知らしめることで、村の未来をより明るいものにすることを目指しました。教科書のページには、村の隅々までに刻まれた石碑に記載された名前が、さらに記録されていきます。


一馬は、この教科書を通じて、村の住民が自身の歴史に誇りを持ち、次世代へとその誇りを伝えていくことを望んでいます。こうして、エターナル・ホープはただの村ではなく、歴史をつむぎ出す場所として、その存在意義を確立していくのです。

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