第111話 集団疎開

一馬は、胸が張り裂けそうな怒りと焦りに打ち震えました。親しい国に応援を要請しようとすれば、それが反撃行為とみなされ、クレストンが即座にザルバニア帝国の猛攻を受けるかもしれません。そんな状況で、彼は絶望に打ちひしがれました。ヴァルフォード王国の未来、クレストンの住民たちの安全が、彼の双肩にかかっているのです。


彼の心は怒りに満ち溢れ、「どうすれば勝てる?どうすれば奴らに恥をかかせ、全滅させることができる?」と何度も自問自答しました。瞬間的な衝動に駆られ、玉砕覚悟の突撃を思い描いたこともあります。しかし、それで何が救えるのか?怒りに任せた無謀な行動が、クレストンを守ることになるわけではないのです。


一馬は頭を抱えながら、目の前にある大きな課題に立ち向かう術を探し続けました。ザルバニア帝国は圧倒的な物量で攻めてくるだろうが、技術面ではこちらに分があるはずだと考えました。彼の頭には、日本の歴史から「桶狭間の戦い」が浮かびました。織田信長が見せた陣地替え作戦は、弱者が強者に勝利するための一つの光明となるかもしれない。


だが、クレストンの住民、特に非戦闘員までを全員移動させるのは容易ではありません。それでも一馬は、最初にやらなければならないことを思いつきました。ヴァルフォード王国の王都に、女子供や学生たちを避難させること。彼らを王都にかくまってもらうことで、非戦闘員の安全を確保し、クレストンの守備に集中することができるのではないかと考えたのです。


一馬の心は怒りから冷静さへと変わり、最善の策を模索するために新たな一歩を踏み出しました。クレストンとヴァルフォード王国の未来を守るため、彼は覚悟を決め、迅速に行動に移る決意を固めたのです。

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