転生コミュ障スケルトンは魔王になる

ミートB

第1話

「本日は魔神様より新たな魔人が遣わされる時。皆儀式の邪魔をせぬように。」


魔界の中央とも言われるこの島、マグルゼムには黒光りする石造りの神殿「魔御堂」が存在する。要所要所に彫刻が添えられているが、華美というよりは質素といった印象を受けつつも、得体のしれない圧を感じる。品、とでも言うべきだろうか。

魔御堂の館内中央には大柄でデーモンが格式張った儀式服の上にローブを着て仁王立ちで待ち構える。胸には鈍くも威厳のある赤銅の六芒星が輝いている。

先程響いた大声のアナウンスも彼の口から出たものだ。


魔御堂では全ての源とされるエーテルの高まりが波動として表皮に伝わってくる。それに現場の緊迫感も相まって肌荒れを起こすのではと危惧するほどだ。


魔御堂は地上一階と地下三階の四階建てとなっており、地下一階から地下三階までは吹き抜けでキャットウォークのような通路で、地下三階の底からエーテルが沸々と湧いているのを確認できる。

今日はそのエーテル溜まりから魔神たちが製作した魔人たちが生まれる年に一度の儀式なのだ。


地下三階の壁側では狼の面をした人形の魔物と下半身が蛇の女性の魔物が雑談を交していた。


「ウルヘルト武練講師、どんな新人がきますかね。」

「ラミーナ術技師、お静かになさい。」

「やはり魔人というのはどこまでいっても魔神様の気まぐれでしかないですからな〜。吾輩としては遊び心マシマシで生み出していただきたいのですよ。」

「ラミーナ氏、静粛になさい。」

「ウルヘルト武練講師は生真面目なのが遊び心だったのでしょうかねぇ。」

「魔王様方もいらしてるのです。喰われますよ。」


そう脅された下半身が蛇の魔人はつまらなそうにまた中央部のエーテルの輝きを眺める。


魔界の各地を治めている現役の魔王達やその配下の貴族魔人、魔族たちも気になって見に来ている。

魔王は魔王同士で対立することが職務のようなところがあるが、この魔御堂及びこの島の領域では争いを起こしてはいけないという鉄の掟に従い相互不干渉を貫いている。


しばらくすると、中央にいた大柄のデーモンが杖をつきながら中央に歩いてくる。ざわついていた周囲がシンと静まり返る。


「それでは只今より、魔物誕生の儀式を開始する。」


デーモンが杖をトン、トン、とにかい地面を叩くと、周囲から黒布に覆われたウルへルト、ラミーナに加え、ワイトと夜魔が四方を囲んで祝詞を唱える。


「「「「偉大なる魔神より戴く。万物の素エーテルを用いて徒らがままに産み落とされる子。意味、意義、理由などない。ただエーテルを求めよ。他の誰よりも、先人よりも、後人よりも。エーテルを求めよ。ジェムテル。」」」」


四人の息のあった祝詞が響いた後、中央に固まりとして燦然と青藍に輝いていたエーテルは一度眩い光を発したのちに68の塊へと分裂する。

青藍の輝きが落ち着いてくるとエーテルはそれぞれ違う色、違う形へと姿を変えていく。魔人の生まれる瞬間である。

魔王たちも有望そうな魔物たちに目星をつける。


「今年は真祖は生まれなんだか。」

「真祖はご主人様のみでございます。ご子息もこの代での入学でしょう。」

「あの愚息は真の魔物相手にどれだけ太刀打ちできるのだか。」


「現状戦力としてタンク職が足りてないから巨人の類が生まれるのは助かったな。」

「うちに引き入れられればですけどねー」


「今回の魔物、雑魚枠多くないか?」

「雑魚枠ですか?」

「魔物としては格が低いほぼ家畜みたいな種族があるだろうが。」

「あー、確かに。スケルトン、スライム、ゴブリンなんかは魔人として産まれなくても魔王権限でエーテルから作れちゃう下等の魔物ですからね。」


儀式の観覧を終えた魔王たちは案内に従って会場の外に出る。首のない馬車に乗って港まで行く魔王、翼を用いて空路から帰宅する魔王。術を使用してその場から瞬時に体を消す魔王など、様々な方法でその場から立ち去る。

自分もここの生徒であったことを思い出しつつ、また、ここの厳しさが先ほど産まれた彼らをどのように成長させるかに期待を寄せつつ己が魔王城へと帰還するのであった。



ここは全ての魔人が産まれる島、マグルゼム。

すべての魔人がここで4年の教育を受けて放たれる。

育つも怠惰も自分次第。全ては己のエーテル獲得のために生きるのだ。

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