運び屋ロブの約束

真辺ケイ

第1話「消えた手紙」

ロブ・マルコムは、夜の静けさを背に、街の小道を一人歩いていた。暗いスーツと革の手袋が、彼の物理的な存在感を引き立てていたが、精神的にはさらに一段と深い闇に包まれていた。ロブはただの運び屋ではない。彼の過去には、一般の運び屋が経験することのないような深い痛みと秘密が隠されていた。


この夜、彼の任務はひときわ重要だった。依頼主は、町外れの古びたカフェで待つという。ロブはカフェのドアを開け、中に入ると、薄暗い店内が彼を迎えた。カウンターに腰掛ける年老いた店主が、ロブに静かに目を向けた。


「お待ちしておりました。ここに手紙があります。」店主は、古びた封筒を取り出し、ロブに渡した。


ロブは手紙を受け取り、注意深く封筒を調べた。何も特別な特徴はなく、ただの白い封筒に見えた。しかし、彼の経験がこの手紙に隠された意味を感じ取る。手紙を鞄に収め、ロブは店を後にした。


家に帰る途中、ロブの心は過去の出来事に引き戻された。彼が運び屋として活動を始めるきっかけとなったのは、数年前に彼が最愛の人を失ったからだ。その人の名はアナ。彼女の死に関連する事件は、未だにロブの心の奥底に深く刻まれている。彼が今でも運び屋を続ける理由は、彼女との約束を果たすための一環であった。


その夜、ロブは手紙を机の上に広げた。中には、短いメッセージと共に一枚の地図が入っていた。「ここで待つ」とだけ書かれたメッセージと、数か所に印が付けられた地図。それは、町の西端に位置する古びた倉庫を示していた。


次の日、ロブはその倉庫に向かう決心をした。倉庫の中は薄暗く、埃っぽい空気が立ち込めていた。彼は慎重に中を進み、暗がりの奥にある一角にたどり着いた。そこで、彼を待っていたのは、見知らぬ若者だった。彼は緊張した面持ちでロブを見つめ、言葉を発した。


「君がロブか?手紙を渡された者だ。」


ロブは頷き、若者の話を聞くことにした。若者の名はジョシュ。彼の姉が行方不明で、手紙がその手がかりになると信じていた。姉は数か月前に失踪し、その時に彼が受け取った手紙が、彼女の行方に関する重要な情報を含んでいると考えられていた。


「この手紙は、姉が最後に見たものです。彼女が何か大きな秘密を抱えていたと信じています。」ジョシュは、目に涙を浮かべながら語った。


ロブはその言葉を聞き、彼の心に新たな使命感が芽生えた。過去の痛みを抱えながらも、彼はジョシュと共に姉の行方を追い、手紙に隠された真実を解明する決意を固めた。


夜が明けると、ロブとジョシュは協力して調査を始めた。倉庫周辺の情報を集め、手がかりを探し出す作業は思った以上に困難だったが、二人は諦めずに進んでいった。


その日の終わりに、ロブは再び一人で考え込んでいた。彼の心の奥底で、過去の自分と現在の自分が交錯していた。アナの死、運び屋としての生活、そして今、目の前に広がる新たな使命。すべてが彼を試し、彼の人生の意味を問い直させるものであった。


彼の手の中には、ジョシュと共に解決しなければならない新たな課題があった。それは単なる運び屋の仕事を超え、彼自身の内なる葛藤と向き合うための重要な一歩だった。


ロブの冒険はまだ始まったばかりだ。この運命の旅がどのように展開していくのか、彼自身にもわからない。しかし、彼は確かに新たな章を迎えたことを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る