第2話 「新たな目標」

俺が不良たちを倒したその日から、学校での俺に対する態度は一変した。これまで俺を馬鹿にしていた連中は、誰も俺に近づかなくなった。クラスメイトたちは俺を見る目が変わり、まるで俺が別の人間になったかのように、敬遠するようになった。


だけど、俺にとってそれは望んでいた結果だった。誰も俺に干渉しない、俺のことを気にしない、それが一番だ。だが、それと同時に俺の中で新たな欲望が芽生えていた。それは、もっと強くなりたいという渇望だった。


俺は、自分の限界を知りたかった。今のままでは満足できない。まだ見ぬ強者たちが世界中にいることを知り、彼らと渡り合えるほどの力を手に入れるためには、さらなる鍛錬が必要だった。


そんな時、俺は道場の先生から紹介された一冊の本に出会った。それは、古代から伝わる武術の秘伝書であり、精神と肉体を極限まで高めるための指南書だった。先生はこう言った。「君には、まだ伸びしろがある。その力を最大限に引き出す方法がここに書かれている」と。


俺はその本に魅了され、ますます練習に打ち込むようになった。早朝から夜遅くまでトレーニングを続け、学校の授業中でさえも頭の中は次の技のことばかりだった。授業なんて聞いていなくても成績は上がり続けた。もはや俺にとって、学校はただの通過点でしかなかったからだ。


だが、それでも俺の中には消えない虚しさが残っていた。強くなればなるほど、孤独が深まっていく気がした。俺は誰も信じないと決めたはずなのに、なぜこんなに心が空っぽなのか。それが理解できなかった。


そんなある日、道場で特別なイベントが開かれることになった。「闘技祭」という名のこの大会は、道場の中でも実力者たちが集まり、互いに技を競い合う場だった。参加者は皆、己の力を試すために全力を尽くす。俺もその一員として選ばれた。


闘技祭が始まると、俺は次々と対戦相手を倒していった。強者たちも多かったが、俺の技術と執念はそれを上回っていた。勝利のたびに感じるのは達成感だったが、それでも心のどこかに虚しさが残る。


そして、ついに決勝戦の日が来た。俺の対戦相手は、この道場でも最も恐れられている男、豪田だった。彼は圧倒的な力を誇り、その名を聞くだけで他の生徒たちは恐れおののくほどだった。


試合開始の合図が鳴り響く。俺は冷静に相手の動きを見極め、攻撃の隙を狙った。豪田はその巨体から繰り出される強力な打撃で俺を圧倒しようとしたが、俺は華麗にそれをかわし続けた。


だが、豪田の力は想像以上だった。俺の技が彼に通じないのだ。何度も攻撃を試みたが、まるで壁に向かっているかのように、すべてが跳ね返された。それでも、俺は諦めなかった。俺にはもう後がない。ここで勝たなければ、俺の存在意義は失われる。


その時、ふとした瞬間に気づいた。豪田の動きには微かな癖がある。攻撃の前に、わずかに足を引くのだ。俺はその瞬間を逃さず、全力でカウンターを繰り出した。豪田の巨体がぐらつき、俺はすかさず追撃を仕掛けた。


豪田は崩れ落ちた。俺は勝ったのだ。歓声が沸き起こり、俺の名前が呼ばれる。しかし、その歓声の中にあっても、俺の心はどこか冷めていた。強くなることで得られるはずの何かが、まだ見つからない。


勝利は俺に何も与えなかった。むしろ、俺をさらに孤独にしただけだった。俺は何のために戦っているのか。何を求めているのか。


そうだ、俺はまだ答えを見つけていない。これからも俺は、ただ前に進むしかない。そして、いつかその答えを見つける時が来るだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る