カナホと星の妖精たち
千曲 春生
第1話 妖精たち、宇宙へ
星の国には学校もあり、今まさに卒業式が行われていました。
講堂にズラリと並ぶ卒業生たち。
ライオンに似た者、ヤギに似た者。様々な外見の卒業生がいます。
とはいっても、本物のライオンやヤギではなく、デフォルメされたぬいぐるみのような姿です。大きさも片手で抱えられるくらいです。
彼らこそ、星の妖精なのです。
そして、そんな妖精たちに壇上から語り掛ける女性。彼女は星の女王様です。
「皆さんご存知のことと思いますが、星々が光り輝いているのは生き物が幸せを感じたときに生まれるエネルギー『心の光』によるものです。宇宙から光が失われれば、全ての星々からも輝きが無くなってしまうでしょう。宇宙は暗く冷たい闇に閉ざされてしまうのです」
講堂の入り口の扉は少し開いていて、そこから中を覗き込む妖精がいます。
カラスのような外見。彼女はクロエという名前です。
クロエの目は、涙で潤んでいました。
女王様の話は続きます。
「妖精の皆様には、これから様々な星に行って、そこで暮らす生き物たちを幸せにしてもらいます。そして、『心の光』を集めるのです」
クロエは話を最後まで聞かず、そっと講堂を出ていきました。
校舎の横には、妖精たちが暮らす寮があります。
そのエントランスにて。
「あーあ。私も一緒に卒業したかったなー」
クロエはソファーに座り、ふてくされたように言いました。
「また言ってる。留年しちゃったものは仕方ないじゃない。私たち三人でもう一年、学生生活を楽しみましょ」
そう言ったのは、イルカに似た外見の女の子、フィーナです。
「あー。里の家族になんていえばいいんだー」
涙目になっている男の子はラピタ。ウサギのような外見です。
「アンタまだ手紙書いてなかったの? どうせそのうち家族にバレるんだから、さっさと手紙書いちゃいなさいよ」
フィーナは呆れたように言いますが、ラピタは決心できないようです。
「だって……立派な妖精になって帰るって里のみんなに言ったんだもん。それが留年なんて……」
そのとき、遠くに汽笛の音が聞こえました。
「みんな、出発みたいね」
フィーナが言うと、ピクリと反応したのはクロエ。
「スーちゃん……」
クロエのつぶやきを聞いたフィーナは少し考えて、こう言います。
「クロエ、ラピタ、駅に行きましょう。まだお見送り、間に合うかもしれない」
「でも、外出許可もらってないよ。寮母さんに見つかったら、怒られる」
ラピタが不安そうに言います。
「だから、見つからないように駅まで行くのよ」
すかさずフィーナは言い返し、そして、クロエに目をむけます。
「クロエ、どうする? スーちゃんのお見送り、行く? 行かない?」
「……行く」
クロエの返事を聞き、フィーナは優しい表情になりました。
「決まりね」
クロエたちはこっそり寮を抜け出して駅にやってきました。
卒業式を終えて、それぞれの行き先への星間列車に乗り込む卒業生たち。
それを見送る人達。
クロエたちはスーが乗る列車の元へとむかいます。
でも、あまりに人が多くて、クロエはフィーナ、ラピタとあっと言う間にはぐれてしまいました。
でも、もう列車の出発時間はすぐです。
クロエは一人でスーに会いに行くことに決めました。
長いプラットホームに沢山の客車を連ねた星間列車が停まっていました。
クロエはホームから列車の中を順に見ていきます。
「スーちゃん!」
そしてついに、白鳥のような妖精、スーを見つけました。列車の窓をたたき、声をかけると、スーも気付いたようです。
「クロエちゃん!」
スーは窓を開けて、顔を出しました。
「スーちゃん……ごめんね。ずっと一緒って言ってたのに、なのに……」
スーは全部わかってるよ、って顔をしました。
「待ってるわ。クロエちゃん。二人で一緒に『心の光』を集めましょ」
けたたましいベルが鳴ります。クロエはホームの内側に下がりました。
『北極星行き急行発車しまーす』
汽笛一声。星間列車はゆっくりと走り出します。
「うん。私、来年は必ず卒業するから、だから、ちょっとだけ待ってて」
離れていくスーにクロエは叫んだ。
「うん、待ってる!」
窓から顔を出し、スーも叫びました。
星間列車はホームを離れると、フワリと浮かび上がり、飛び立っていきました。
「スーちゃん……」
クロエは離れていくテールライトを見ながらつぶやきました。
列車が見えなくなると、見送りに来ていた人たちも一斉に帰っていき、ホームは嘘のように静かになりました。
そのときです。
「クロエー、逃げてー」
凄い勢いで走ってくるラピタが見えました。フィーナ引っぱっている、というか引きずっています。
「ラピタ?」
クロエは首をかしげましが、すぐにラピタたちが何かに追われていることに気付きました。
追ってきているのは、寮母さんです。ドドドと砂煙があがりそうな勢いです。その姿はさながら転がってくる大岩。
「ぎゃー!」
クロエも翼をバタバタと動かしながらニワトリのように走り出しました。
行き交う人々をかいくぐり、駅の中を行ったり来たり。
クロエたちは逃げ回りました。
そして、やって来たのは一番端っこのローカル線ホーム。クロエはそこに停められていた宇宙用小型蒸気機関車を見つけます。
「あそこに隠れよう」
クロエとラピタはその運転席に飛び込み、息を潜めました。ずっとラピタに引きずられていたフィーナは目を回して「ひゃえ~」と、のびてしまっています。
ドキドキしながら身をかたくしていると、寮母さんはクロエたちに気付かず、蒸気機関車の前を通り過ぎていきました。
「あー、よかった」
クロエは安心して全身の力が抜けると、運転席の壁にもたれかかります。
カチっ。
音がしました。
何かのスイッチを押してしまったようです。
運転席の様々なライトが点灯し、メーターが動き出します。
『自動運転モードで発車します』
コンピューターの声が聞こえ、機関車は動き出しました。
「動いてるー」
ラピタが叫びます。
機関車は駅を離れ、空へと浮かび上がり、宇宙に出ていました。とてもスムーズであっと言う間の出来事です。
「フィーナ、大変、おきて」
クロエは目を回しているフィーナを揺さぶりおこしました。
「ん~、どうしたのよ」
目を覚ましたフィーナは窓の外を見ます。
「って宇宙じゃない! なんでこうなってんのよ!」
フィーナはラピタにつめ寄ります。
「聞いて、フィーナ。僕たちはね、クロエのお友達のスーちゃんのお見送りの為にこっそり寮を抜け出してね……」
「そんなことはわかってるわよっ! なんで宇宙に出てるのって訊いてるの!」
フィーナはラピタから離れると、制御コンピューターを操作しはじめます。
「なにこれ。なんでこんなに複雑なのよ! わけわかんない!」
クロエ、ラピタ、フィーナの三人を乗せた機関車はフラフラと蛇行しながら急加速し、クロエたちがいた星の国からどんどん離れていきました。
プゥオー
宇宙に機関車の汽笛が響きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます