ミーア・オートマチック
キサガキ
序章。
第1話 機械少女は壊れない。
「ハァァァッ!」
ピンク色のツインテールを揺らし、小柄の美少女が右拳を叩きつける。攻撃する相手は青色の長い髪をポニーテールにした長身の美女だ。
「うふふっ、甘いわねミアさん」
そう言って美女は可憐に笑い拳を掌で受け止める。
「ぐぬぬ。離してレイカさん」
ギシギシッ。レイカに掴まれ右肘の関節から軋む音が、老朽化で骨組みが剥き出しなったバトルステージ内で響いた。
「あ~ん。助けてお兄ちゃぁぁん。イタイヨー」
その声質から全く危機感は感じられない。自由に動く左腕を、バタバタと大袈裟に振り回している姿は、まるで飼い主に構ってもらいたくて尾を振り回す子犬だ。
「ったく」
ステージ外からお兄ちゃんと呼ばれた少年御門朔夜は苦笑するが、その二重の眼差しは家族を見つめる優しいぬくもりに満ちていた。
朔夜は左手に、握り拳より大きいメタリックシルバー色に赤いラインが入るゴツい腕時計をはめている。
ミサイルで攻撃されても壊れない超金属ヒヒロカネ製で作られた時計で、朔夜のいるこの西暦二一九九年では選ばれた特級ソルジャーにのみ配られる物であった。
時計の防弾ガラスは液晶画面を守り、その画面に映し出されるはパネルで形作るハート模様。今現在、三分の一がパネルを赤く染めている。
「ミア、がんばれ」
「えーんえーん」
朔夜の応援にミアは左手で小顔を隠し、泣きまねで返事する。
――ピピピピッ。
腕時計に表示されるハートのパネルが先ほどよりも減っていく。
「朔夜お兄ちゃん、みーあの事好き?」
ちらちら。指の先から期待を込めたどんぐり眼が覗く。
「おうっ!」
「言葉に出してくれないと、負けちゃうかも」
ちらちら。瞳は笑い、声が弾む。今にもお花畑で歌いながらスキップしそうな圧を朔夜は感じる。
「ミア、好きだぞ」
「あぁん。お兄ちゃん、みーあも大好きぃぃ」
鼻息荒くミアの瞳にハートが浮かび、それと連動して時計のモニターは光輝く。
三分の一だけだったパネルの残りも、真紅に染まりハートが完成する。
「いっくっよッ!」
右腕がドリル状に回転し、レイカの関節絞めを強引に外す。
その様なやり方では肘が一生使えなくなってもおかしくないのだが、ミアは平然と涼しい顔で左右の連打を放つ。
「あらあらやりますわね。ミアさん」
余裕たっぷりの表情で全ての攻撃を防ぎつつ、後ろへ下がっていく。
「あん、強い攻撃ですわ。わたくし挫けてしまいそう旦那様」
そう言ってミアと同じ様に棒読みでレイカが助けを求めたのは、朔夜の隣に立っているゴーグル型メガネをかけている青年、神威了。
彼は朔夜より頭一つ背が高く体格も一回り大きい。
黒髪の朔夜に対して神威は銀色の坊主頭と、対象的な二人であった。
共通点は三つ。特級ソルジャーのみに与えられる同じ型の時計を持ち、防刃防弾に特化した戦闘服。そして三つ目は……。
「フッ。レイカさん。愛してますよ」
神威はキラキラと光輝く笑みを見せ、触れたら火傷する情熱的なウインクを返す。
「はあぁん。旦那様」
ぴぃぃぃぃ。ポニーテールは逆立ち耳から真っ白な湯気を吹き出す。切れ長な瞳と時計のモニターにはハートマークが浮かぶ。
ミアとレイカは人ではない。人工知能アイを搭載した戦闘型機械人形のプロトタイプであり、朔夜と神威は彼女達に愛された選ばれしマスターであった。
「その手があったのかぁ」
目の錯覚か。ミアの頭にライトが浮かびピコーンと点灯するのが見えた。
「お兄ちゃん! ちゅう、ちゅうして!」
スパーリング相手のレイカから背を向けて、鼻息荒く朔夜に抱きつき押し倒す。
「ぐへへへ」
「やめろミア。人前で服を脱がそうとするなぁ。神威の旦那タイムだタイム」
――カツーン。
甲高い金属音がホール内に響く。
「試運転は順調みたいだね」
そう言って、長い白髪にオイルで汚れた白衣を着た壮年の男性が杖をついて歩いてくる。右足は欠損し義足になっていた。先程の金属音はここから聞こえて来たのだ。
「パパ」
「お父様」
イタズラバレた子供の様に少し緊張した声で最初にミア。次にレイカが親愛に満ちた表情で白衣の男性をそう呼び、続いて朔夜と神威が「霧島博士」と、彼の名前を呼んだ。
霧島がミアとレイカを作り出したのだ。戦争で亡くした妻と娘の仇を討つ為に。奴らGODに復讐する為、悪魔名をつけた戦闘型機械少女リリスシリーズを。
そして度重なる失敗の果てリリス・ミアとリリス・レイカ、二つの試作機が完成したのだ。
「ジジィ、いや博士すまなぇ。みっともねぇ姿を」
朔夜は剥き出しなった下半身のまま立ち上がる。
「ジジィで構わないさ、朔夜くん。元気でよろしい」
試運転が成功したのが嬉しかったのだろう。年輪が刻まれた顔をくしゃくしゃにして笑顔を見せた。
「ミア、ズボンを履かせてあげなさい。それもお前達の役目だよ」
「うん。パパ。でも役目と思ってやらないよ。やりたいから、みーあはやる。だってお兄ちゃんを愛してるからね」
「お父様、わたくしもですわ。旦那様を愛してます」
「うんうん。二人共、僕の自慢な娘だ。朔夜くん、神威くん、娘達を頼んだよ。これでもう一つのプロジェクトに集中できる」
「おうっ!」
「はい。霧島博士」
ズゥゥン。突如頭上から重厚な音が鳴り、地下にあるバトルステージが揺れ動く。内臓が縦に激しく踊るこの衝撃は、間違いなく奴らだ。
「ジジィ!」
「通り過ぎただけだ。この地下施設は、奴らに見つかってない」
ミアとレイカに支えられている博士は憎悪の目で、頭上を睨みつけた。
「侵略神め」
『ダダ――ヨク――ジンルイホロ――ス』
GODの無機質な機械音声が去っていく。
*
朔夜達の時代から百年前の日本。東の街、神嶋市で奴は生まれた。その当時では考えらない程、進化を遂げた自立学習型人工知能AIが起動を開始したのだ。
朔夜達が奴と呼ぶAIは自ら神と名乗り産声をあげた。神は自分の分身を埋め込み、人工知能を搭載した機械は全て奴となる。
奴らの目的は只一つ。
『滅ぼす全ての人類を』
それから百年。日本を中心にして機械に侵略されていく人類は地下深く潜り、かつて神嶋市と呼ばれた街の地下で彼女達は生まれた。
神のAIではなく霧島製のAI(愛)の力で動く機械少女が。
*
「実戦の時は近い。朔夜くん。神威くん。リリスシリーズの仕上げを頼む。人類の存続の為に」
「あぁ。任せてくれ」
「はい。レイカと共に平和を勝利を、この手に」
「うしっ! 戦いの時は近い。俺は今猛烈に燃えている。神威の旦那、スパーリング再開だ」
「……」
「旦那?」
「すいません、朔夜。ボッーとしてました。始めましょう」
数日後、神威はレイカと共に姿を消した。
神威がレイカと共に行方不明になって、一週間が経過した。仲間達には神威は極秘任務と伝えられている。
霧島に口止めされていたが、最初から朔夜は神威が行方不明だと周囲に伝える気はなかった。それをすればどうなるか、理解しているからだ。
言えば仲間達全員の士気が低下する。やっと暗闇から抜け出せる光が見えた。
百年間沢山の犠牲者を出し、やっと神と戦う新型の兵器、リリスシリーズが試作機とはいえ完成したのだ。
反撃開始だ。人間の底力を思いしれと盛り上がり改めて団結しようとしてる時に、特級ソルジャーの一人神威と機械少女のレイカが謎の失踪したと知ればどうなるか。
「何処にいるんだ旦那」
「むにゃむにゃ」
朔夜の股間を枕にして寝息をたてるミアに手を伸ばし、隣に寝かすと霧島から秘匿回線で連絡が入ってる事に気づいた。
「誰にも気づかれなかったかい?」
「あぁ。気づいたとしても特級ソルジャーの俺が、ジジィのラボに出入りするのはいつも通りだろ」
「お兄ちゃん。みーあまだ眠い。寝る前激しく動き過ぎた」
えへへ。ほんのり頬を朱に染めて、笑顔を見せるミアの表情は人としか思えない。それだけ霧島の造り出したアイシステムは、人工知能を爆発的に進化させたという事だ。
寝食を共にして知る。機械少女は人と変わらない。肌の温もりも感触も。
寝ぼけ眼で朔夜の袖を掴むミアを守りたいと、愛しく感じ頭を撫でた。
「えへへ。気持ちいい」
二人のやり取りを見て喜び微笑んでいる霧島と目が合う。そのビー玉の様な瞳は何を見ているのか。
世界の救済、それとも破壊。
戦時中で無ければ霧島は、狂気の科学者と呼ばれていただろう。
その男の生み出した機械少女リリスシリーズが、この国にとって毒になるか薬になるか。それは主次第だ。
戦いを終わらせる為に俺は鬼となり、愛するミアを兵器として操ってみせると、朔夜は改めて覚悟を決めた。
「それで極秘に呼び出して、用件はなんだ」
「神威くんとレイカの居場所がわかった。君達で迎えに行ってもらいたい」
「無事なのか」
「それ以上は僕にもわからない。来てくれ。後は話しながら歩こう」
朔夜達が足を運んだのは、ラボの中でも普段立ち入らない開かずの扉の前だ。
「まさかここに旦那達が。でもジジィ以外無理なんだろ、入るの」
「ミア、扉に手をかざしてごらん」
「うん。パパ」
霧島の言う事を素直に聞くと、ミアは手を向けた。扉のセンサーは素直に反応し、朔夜達一行を迎えいれる。
「なんじゃこりゃ!」
開かずの扉の中で広がるは、鏡でコーティングされた直径十メートルのリングであった。それが幾重にも後ろに重なり、ミミズを連想させる形状となっている。
「僕のもう一つの人類救済プロジェクト。その要となる予定のタイムホールだよ」
「まさか旦那達は……」
「そう未完成のホールを使い百年前へ行ったよ。全ての始まりの世界、神嶋市へ」
そうだ。AIの暴走はあの街から始まった。まさか神威は元凶を絶つつもりで。
その朔夜の予想を肯定し、霧島は「うむ」と頷く。
たった二体の機械少女では、この時代地下シェルターで生き残る人類より数が多く、地上の支配者となった神達に勝てるわけがない。
タイムホールが完成次第、朔夜と神威。そして二体の機械少女を過去へ送る事が、人類救済プロジェクトの全容だと霧島は朔夜に語った。
「張り切りすぎるだろ、神威の旦那。何かあったらどうすんだ」
「そうだね。一番のネックは過去改変された場合、僕達のいる世界はどうなるか。計算式では答えは出ても、それが正しいのかは誰にもわからない。わかりやすく言えば、未来は改変されるのか、上書きされるのか、分岐するのかそれとも全く違う何かが起こるとかね」
「誰も試した事ねぇしな。実際やってみなきゃわからねぇよな」
本来頭から煙が吹き出しそうになる話しを、霧島はざっくりと緩い感じで説明する。そのおかげで何とか朔夜にも理解する事が出来た。
「そのわからねぇ危険な状態で未完成のタイムホール使って、俺達も過去へ飛ぶのかよ」
「そうだ。神威くんを追って過去へ行ってもらいたい。こうなってしまった以上、時間跳躍が時空をどう変化させるのかデータを取りたい。それがタイムホール完成への近道となる」
「へへっ。ジジィ、本当あんたは狂気の科学者だぜ。いいぜ。やってやるよ。それしか人類が生き残る道がねぇしな」
「お兄ちゃん格好いい! 正義の味方みたいだ」
ミアの朔夜を見る目は、憧れのヒーローに出会った子供だ。ピンクの瞳がキラキラと光輝いている。
「へへっ。世界を救いにいくかミア。俺達は正義の味方だ。くうっっ、俺は今猛烈に燃えているッ!」
夜空に星が輝くのを朔夜は生まれて初めて見た。タイムホールを抜けて百年前の神嶋市へ辿り着いた二人を歓迎してくれたのは、この星空ときらびやかな街の灯りであった。
硝煙と錆びついた血の臭いとは全く無縁な外気に戸惑いを感じつつ、ミアの導きのまま歩いている。
過去に来て直ぐにミアはレイカの人工知能アイシステムを感じたのだ。それだけではない。距離が近づくにつれて未来から持ち込んだ腕時計の発信機には、神威の生体反応を認識している。
神威達が無事な事に安心した朔夜は、合流する為に発信機が示す場所へ急いだ。
道中霧島の指令を改めて思いだす。
合流後、朔夜と神威は元凶。即ち神の開発者を殺害。ミアとレイカは生み出された神零号が進化し分身を産む前に破壊。その後、それによって引き起こる時空の波を可能な限り時計とミア達の人工知能で計測し、未来で変化が起こる前に最悪機械少女だけでも霧島の元へ帰す流れだ。
「どうしたの。お兄ちゃん怖い顔して。おっぱい触る?」
ミアなりに気を使ってるのだ。豊満な胸を持つレイカと違い、真っ黒のボディースーツで目立たない平面な胸を突き出す。
「へへっ。この作戦、俺と旦那の命は保障できねぇとよ。くそジジィめ。王道最終回みたいで燃えるぜ」
「お兄ちゃんは死なないよ。あたしが守るもん」
「くぅぅ! 一度は聞いて見たかったヒロイン力高いセリフ。しびれるぜ。俺主人公じゃん。むしろ死ぬなら流れ星になってよ。それを見た姉弟がよ、世界が平和になりますようにと祈っちゃうレベル」
「わーいお兄ちゃん、最高だぁ」
死への恐怖をごまかす為テンション上げる朔夜をミアは察し、ノリよく一緒にはしゃぐ二人は本当の兄妹の様であった。
ザパァーンザパァーン。朔夜の耳に聞こえるは、波の音だ。映像以外で初めて見る近づき離れる海の水は、触ろうとすると逃げる猫だ。
独特の匂いとそれを運ぶ肌にまとわりつく風は、血の臭いと違い心地よい。
作戦中で無ければ童心に帰り、ミアと砂の山を作って遊びたいぐらいだ。
神威の反応があるのは、街中から少し離れたこの海辺であった。この広い砂浜で人を見つけるのは、砂漠でオアシスを探すのと同じくらい難しい。だが神威の手にも朔夜と同じバックル型腕時計がある。その反応を辿ればいい。
「お兄ちゃん、あっちにレイカさんの反応」
ミアが指差す方向に神威の反応もある。二人は一緒にいるのだ。ミアと顔を合わせ頷き、走り出す。
「こ、これは」
朔夜の視界に映るは、砂浜に半分埋まる腕時計であった。メタリックシルバー色に血を表現した赤ライン。拳大のバックル型の時計は間違いなく神威の物だ。
「旦那にいったい何が……」
「お兄ちゃん危ないッッ!」
頭上からレイカが拳を振り上げ落ちてくる。狙いは朔夜の頭。冗談ですまない。笑って許せるレベルではない。
機械少女の一撃は、大地で安眠するナマズを叩き起こす威力がある。人の頭等かすっただけでトマトケチャップだ。
朔夜の反応よりも早く動いたのは、同じ機械少女のミアだ。愛する主の前に飛び出すと、腕をクロスして攻撃を防ぐ。
「どういうつもりなの。レイカさん」
「わたくしと旦那様はかけおちしたの。それを邪魔しに来たのでしょ」
「な……んだと。正気か」
「勿論ですわ。百年前のこの世界は平和そのもの。旦那様と夫婦として暮らしていきますの」
「何処だ旦那! てめぇふざけんな。神に殺された仲間達の死を無駄にするのか。俺達はそいつらの屍の上を歩いてるんだぞ」
ミアにレイカを任せて、朔夜の意識は夜空へ溶け込む。
近くにいる。隠しても隠しきれない神威の殺気が伝わってくる。
いつも死を感じ生きてきた。殺気に敏感でなければ生き残れない。
キラッ。砂の中から月明かりを反射する異物が見えた。廃棄物か。いや違う。見間違えるわけがない。あれはライフルの暗視スコープだ。
ダァァンッッ。激しい雷鳴が夜空へ響く。砂に潜む神威は躊躇無くトリガーを引き、弾丸を撃ちだした。
「うぐっ!」
神威の弾はミアの右脇腹に命中し、うめき声をあげたミアの腹部をごっそりと吹き飛ばす。
あの弾丸は過去世界に無いもの。貴重な超金属ヒヒロカネで出来ている。対神用に開発された物質だ。機械少女の体を壊すこと等たやすい。
「神威ッッ!」
ヒヒロカネ製の弾丸はそう簡単に持ち出せない。特級ソルジャーの自分達でもだ。
ミアを撃った弾以外は無い。速やかに判断するとバトルスーツから短銃を引き抜き、砂の中から飛び出した神威に狙いを定める。
神威は無表情にライフルを構えていた。
その表情から感情は読み取れないが、ゴーグル型の眼鏡から覗く薄茶の瞳には、朔夜達を裏切った事に対する後悔の念は無い。
「銃を下ろしなさい。朔夜」
「それはこっちのセリフだ神威。色恋に溺れやがって」
「フッ。君にはわかりませんよ。真の愛というものをね」
「俺達を愛するために造られたアイシステムだぞ。プログラムに惑わされて優先順位を間違えるな! 機械少女は世界を救う為に産まれたんだ。レイカを愛してるなら、その役目を一番に考えてやれッッ!」
「平行線ですね。君を殺し、ミアさんはレイカの予備パーツになってもらいます」
最後の話し合いは無駄に終わった。朔夜はライフルの砲身から逃れる為、孤を描きつつ走り出す。
「そうだ朔夜、君にはその選択肢しかない。いくら夜目が人より優れていようと、昼間と同じ様に見える僕の眼鏡に叶わない」
「へっ。だったら自慢のゴーグルで狙い定めて撃ってみろやッ! 只の弾丸如き、バトルスーツに効かないぜ」
「フッ。ヒヒロカネ弾が一つだけと思いましたか」
にいっ。神威は笑みを浮かべ、引き金をひいた。
――キンッ!
甲高い音が鳴り、刹那海辺に昼が訪れる。正確に朔夜の額を狙った弾は、頭部を庇ったバックルで弾かれその衝撃が閃光となり、太陽の如く一瞬輝いたのだ。
朔夜は知っていた。神威の正確な射撃の腕と、その性格を。
彼なら間違い無くむき出しの頭部を狙うと。
そしてバックルは弾丸と同じ、ヒヒロカネ。相殺されればどうなるかをだ。
「ぎゃあぁぁッッ。目がっ僕の目がっっ」
神威にとってこの状況は至近距離で、太陽を直視したのと同じだ。ゴーグルを外した目から煙が吹き出し燃えていた。
「今、楽にしてやるよ。神威」
朔夜は無意識に涙を流していた。人類の敵はAIだ。この銃は仲間を殺す為ではないのに。
「地獄で会おうぜ。神威の旦那」
弾丸は神威の額を撃ちぬいた。砂浜に紅の花が咲く。
「旦那さまぁぁ!」
腹部が削られ砂浜に倒れているミアのトドメをささずに、レイカは神威の元へ走り出そうとする。
ガシッ。ミアはレイカの足を掴んだ。
「離しなさいミアさん! あなたに構ってる暇はない」
「ダメだよ。レイカさんはここで破壊する。だってレイカさんが零号なんだから」
一番最初の神。オリジナルの零号機。それがレイカだとミアは言う。
「同じリリスシリーズなんだよ。あたし達と神は。パパが壊れた神の分身を調べてわかってたの」
「ジジイ、まさか最初から俺達を殺しあいさせるために、この始まりの世界に」
「そんなのどうでもいいわ。あの人のいない世界なんてどうでも。でもね!」
レイカはミアを蹴り飛ばす。
「あなただけは許さない。御門朔夜!」
「逃げて。お兄ちゃん。タイムホール強制始動。主を元の世界へ」
バックルが光り輝く。形作るハートマークは機械少女の愛。例えプログラムされたものでも、その感情は紛れもなくオリジナル。
「ミアッッ!!」
出現するホールに吸いこまれていく朔夜は見た。
レイカと共に自爆するミアの姿を。
ミアは朔夜との約束を。正義の味方になり未来世界を守るという約束を守ったのだ。
気づくと朔夜は霧島のラボにいた。
「作戦は終わったようだね。朔夜くん」
「ジジィッッ!」
霧島の胸倉を掴んだ瞬間、頭上が激しく揺れた。
『ダ、ダンナサマヲヨクモコロシタナ。ジンルイホロボス』
ノイズ混じりの機械音声が地下施設まではっきりと聞こえる。地上を破壊する機械生命体のオリジナルは、分身(我が子)達に愛する主と同じ名をつけて人類に復讐する。百年前から続くそれは、地球から人類という種族をデリートするまで続く。
彼女の生身は神威レイカ。決して壊れない愛搭載の機械少女。
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