第45話 選挙終わりました
選挙、終わりました!
長沼の所属する党では、議席が増えたと大喜びで、だるまに墨を入れて祝勝会を開いて、支援者に礼を述べている。
当然、長沼だって参加するべき会ではあるのだが、長沼は党の祝勝会をさっさと抜け出す。それどころではないし、長沼には、これが勝利とは感じられないのだ。
結果、長沼の党は議席数を増やしたが、それは他の野党の議席に侵食する形であったし、比例代表に関しては、せっかく投票してもらった票を、立候補議員が少ないという理由で無駄にしてしまったのだ。
ひいき目に判定しても、これは『引き分け』。決して、勝利ではない。
何を喜ぶことがあろうか。これからの課題でいっぱいではないか。
長沼は、周囲の認識の甘さにイライラしていた。
だが長沼がどうイラつこうが、ともかく、面倒な選挙は終わり長沼は役割を果たしたのだ。
そして、ついに決戦の時はきたのだ!
長沼の心は熱く沸る。
「見てなさい! 岩太郎! 天宮!」
長沼の心の正義の灯火は、誰にも消せない。メラメラと燃えたぎり、長沼の背中を、あの忌まわしき建造物(※くどいようですがあざらし幼稚園です)の解明へと駆り立てるのであった。
然るべき機関に見学の許可を申請して、半ば強引に、てか、脅迫して認めさせた。
許可は下りたのだ。
ならば、後は、あの怪しい厚生福祉施設とやらに行って、つぶさに中を調べるだけなのである。
「長沼議員! 準備出来ました!」
入院中のタモツさんを除いて、選挙事務所の事務員達が、長沼に同行する。
避難訓練の時にしか使わない、埃を被ったヘルメットに、モップや箒、塵取りまで持って、どこのビーチクリーンにご参加でしょうか? と聞きたくなるようなお掃除の出立ち。中には、完全に清掃活動と勘違いしたのか、ゴミ袋まで持っている事務員もいる。
「もっとまともな武装ないの?」
「いえ……選挙事務所ですし、これで精一杯です」
「そう……まあ、良いわ。人数がこれだけいれば、ちょっとした小競り合いにも負けないでしょう」
長沼は、このお掃除戦隊に妥協する。
敵は、本日は長沼が祝勝会に参加しているのと同じように、与党の支持者と共に祝勝会を開いて忙しいはずなのである。
特に、総理の岩太郎と天宮が、その会の最中に抜け出すことなんて、許されるはずがないのだ。
この敵が手薄と分かっている時に、乗り込まなくてどうするというのだ。
敵は、謎の厚生福祉施設にあり!
長沼は、今日こそ決定的な証拠を掴んで、あの邪悪な施設(※あざらし幼稚園ですってば!)の本当の姿を暴こうと、正義の心で奮い立つのである。
「行くわよ!」
長沼の号令で、ワゴン車に続々と事務員が乗り込む。
「お弁当は出るのかしら?」
「今日はどこの手伝いだろう」
明らかに清掃作業と思っている事務員の含有率は高いが、長沼は気にしない。
それは、逃げ出すことが出来なくなったワゴン車の中で説明すればすむことだ。
ワゴン車は走り出したのだ。
もう、長沼を止めることはできない。
十分後。
長沼から、邪悪でおぞましい敵組織に攻め込むのだと聞いて、悲鳴が上がったのは言うまでもない。
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