第41話 巻き込まれ体質
あざらし幼稚園の控室。松子は結果が気になって、大福のご飯を用意した後、すぐに戻って来る。
「ねえ、シュガーたん! どうなった?」
「はぁい! ばっちりですぅ!」
天宮と長沼を一つの場所に閉じ込める計画。それをシュガーたんが、その日本科学の結晶たる技術の無駄遣いをして進めていたのだ。
「えっとぉ。二人にニセの連絡をして、本日休暇の国立大学の研究施設に連行しました! あまりパッとしない研究で、春に研究の中心だった教授が定年退職したところなんでぇ、ほとんど人が来ないんです」
「よく見つけたわね。そんなところ……」
「シュガーたん、優秀なのですぅ!」
松子とシュガーたんがキャッキャと盛り上がっているが、力斗は仕事が終わったならば速やかに帰りたい。というか、こんな馬鹿げた計画に巻き込まれたくない。
「ほら、スマホ返せよ。俺は帰りたいんだ」
「ちょっと、力斗が帰ったら、続きが分からなくなるでしょ?」
「ソルト君がいるだろうが」
「ソルト君、この件に関しては、まっったく返事してくれないのよ」
あの野郎、逃げやがったな。
優秀なソルト君は、全く関わらない方が良いと判断して、実行しているのだろう。
「で、どうするの?」
「実験室が、電子ロックが掛かるようになっていますのでぇ、シュガーたんが、閉めちゃってます!」
「わ、今じゃあ、閉じ込められているところなんだ」
「はい! 二時間くらい閉じ込めて、開けてあげようと思います!」
「二時間かぁ! ちょっとは仲良くなると思う?」
「美男美女が二時間密室に閉じ込められる! これ、愛が芽生えるに違いないですぅ」
松子とシュガーたんは楽しそうだ。
力斗は、帰るに帰れず、巻き込まれて大弱りだ。
「部屋の様子は?」
「えっと……部屋に防犯カメラがあるはずなので、それとアクセスしている最中です」
それは、ハッキング。歴とした犯罪ではないのだろうか?
そう力斗は思うのだが、この場合……犯罪者は誰になるのだろうか? ハッキングを力斗も松子も指示はしていない。だが、AIロボットのシュガーたんには、違法の責任はあるのか……。AIシュガーたんを管理しているのは、天宮達だから、ワンチャン閉じ込められている天宮自身に責任があるのか……。
天宮と長沼がくっつこうが喧嘩しようが興味がない力斗は、この計画がバレた時の責任の方が気になる。
「あれ?」
「なんだ、どうした? 事故か?」
天宮も長沼も、国家の重要人物だ。何か事故があっては困るのだ。
力斗は、身を乗り出す。
「うーん。みんな元気そうなんですけれども……。どうして、保坂さんが一緒なのか……」
「わ、本当ね」
力斗も画面を覗いてみる。
シュガーたんが言うように、怒り狂って扉をガンガン叩く長沼と、スマホでどこかに連絡できないかと試みている天宮、画面の隅で小さくなっている保坂が映っている。
「巻き込まれたんだ……」
力斗は、保坂の不運を心から憐れむ。
そもそも、このあざらし幼稚園計画に巻き込まれて、今もシュガーたんと松子のとんでもない計画に巻き込まれた力斗には、同じ巻き込まれ体質の保坂に同情してしまう。
「ちょっと、保坂さんったら! これじゃあ、天宮と長沼を仲良くさせちゃおう計画が台無しじゃない」
「本当ですよね。うーん! でも、二時間後にタイマー仕掛けちゃったしぃ」
憐れな保坂に、松子とシュガーたんが、わあわあと文句を言っていた。
「可哀想に……」
力斗は、心からのお悔やみを、画面向こうの保坂に送った。
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