第8話 岩太郎! 説明しなさい!
あざらしを保護した? ていうか、何増殖してんだAIロボット!
そんな心の叫びを胸に、松子は岩太郎を訪ねた。
バアアアアン!
勢いよく重厚なドアを開ければ、岩太郎があざらしのぬいぐるみを抱えて頬ずりしている。
「ひっ!」
強面の岩太郎の幸福そうな顔が逆にホラーで、松子は小さな悲鳴を上げる。
「い、岩太郎! あんたね、従業員は私一人って言ったじゃない!」
「あ?」
あざらしに向けるまなざしはとっても甘いのに、松子に向ける眼光は鋭い。
ギロリと松子を睨む岩太郎に、松子は怯みそうになる。
ま、負けるな松子! 神の声も応援しているぞ!
「そんな下らないことで、この岩太郎の癒しの時間を邪魔するとは……」
やれやれと、名残惜しそうにぬいぐるみを横にやると、机の上に手を組む。
「下らないって、そういう事はちゃんと説明してくれないと!」
そう、松子には下らなくないのだ。
協力できる人間が他にいるならば、ぜひ先に知らせておいてほしい。
「松子さんの学習が進展しないと、ソルト君から報告があってね」
「ソルト! お前、告げ口していたの?」
「いや、そりゃ、俺はAIだぜ? 報告は、逐一中央にあげるだろうよ」
そりゃそうだ。獣医の知識なんて、膨大な量がある。それをタブレット一個に搭載して、さらにAIロボとしての機能までつける……そんなことが出来るのならば、松子なんて雇う必要はないのだ。
データが外部にあって、それにアクセスしてソルト君が機能しているということは、つまり、外部データを管理している部署があって、そこが中央の岩太郎へ報告していると考えるのが自然なのである。
つまり、松子の記憶力なさを赤裸々にしたあのテストも、ソルト君が一瞬匙をなげようかと迷うレベルの理解力のなさも、全部報告されていたのである。
「そんな……」
「ともかく、それは由々しき問題。学習が進まなければ、崇高なる計画も遅々として進まない」
崇高なる計画=あざらし幼稚園をつくっちゃおう計画。
崇高だと考えているのは、今のところ岩太郎だけだろうとは思うが。(神の声談)
「それで、新しい人雇ったっての?」
「そう。松子さん、君の仕事環境を整えるためでもある。何かあった時に同じ立場で協力できる人間は必要だろう?」
「私のため……」
絶っっっ対、嘘! 松子の本能は、そう叫ぶ。いつだってそうだ。上司の言う、それが従業員のためでもあるは、かなりの確率で上層部のため、会社の利益のためなのだ。今までの人生で味わった辛酸が、松子の心をひねくれさせる。用心深くさせる。
「ともかく、今、そんなことをとやかく言っている場合ではないだろう? しゅがーたんは、なんて言っていた?」
「え……あざらしを捕まえたって……」
「そう! 可哀想なあざちゃんが、松子さんを待っているのだよ! さあ、仕事に取り掛かってくれたまえ! 君の仕事場は、ここではないのだよ!」
パンパンと二つ、岩太郎が手を叩けば、例のガスマスク迷彩服集団が現れる。
「え、あ、ちょっと!!」
「詳しくは、ソルト君に聞くがいい!」
「聞くが良いって! ちょっと、そんな無責任な!」
強制終了した岩太郎との会見。
松子は、記念すべき第一号保護あざらしちゃんの元へと連れ去られたのであった。
アザラシ幼稚園の園長さん! ねこ沢ふたよ@書籍発売中 @futayo
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