未来の嫁に会いにきた
「魔法学院一年生、名前はウェンディ、16才。孤児院出身。当院入学に必須の魔力は驚くほど微々たるもので、コネ推薦での入学を噂されている。魔法の実技ではかろうじて合格点スレスレ、しかし反面で学力は常にトップ。その特異さから一目置かれる存在となっている」
「調べたんですか」
翌日、私の前に現れた先生は暗記してきたらしい私の情報を読み上げた。
一目置かれる、というよりは庶民で孤児のくせにと悪目立ちしてるんですけどね。そこの所を理解していない先生は「どうりでやっかまれるわけだよなぁ」と眉を下げて私に同情した。
同情するなら私に絡まないでほしいのだが、どこかに行ってくれそうな気配がないので仕方なく私も返す。
「……クウェレディズ先生。魔法学院では右に出る者がいないほど天才的な魔法の使い手。本来であれば国の重要ポジションに就けるほどの実力を持っているけれど、あまりに怠惰で自分勝手なせいでその道を断たれてしまったかわいそうな人。名前の始まりと終わりの文字から『クズ』の愛称で呼ばれている」
「えーなに俺のこと調べたの? 可愛いことするじゃん」
「先生、これは学院の誰もが知る先生の
「
銀髪碧眼は黙っていれば整った顔をしているのに、というのは省いて。
ちなみに『クズ』は愛称以外に人となりを表した呼び名であるが、そんなわかりきった説明は悪評からとっくに省かれていた。
そこの所も理解していないらしい先生は、私が先生の悪評……恐らく耳に入った都合のいい部分のみのプロフィールを知っていることにご満悦な様子だった。
私の下ろした黒髪に指を絡めるほどご機嫌になった先生の、その手を払い落として私は小さく息を吐いた。
「先生、あの……」
「うん?」
「もういいですか? 先生と一緒にいると目立つので、やっかみの種が増えそうで困ります……。教室までやってきて、何か用があったんじゃないんですか?」
助けてくれた恩人に対する物言いではないが、ちょっと本当に困るので、正直に伝えたつもりだった。その正直さが、また間違いだった。
「用は今済ませてるよ。未来の嫁に会いにきた」
「せ、先生! 先日もですが、そういう冗談はやめて下さい……!」
「別に冗談じゃないけど」
慌てふためく私に、先生は堂々と持論を展開する。
「こういうのはさ、先手必勝なんだよ。いいなと思ったらすぐに声かけて、周りには牽制しとかないと」
あまりに堂々とした肉食系だが、ざわざわと周りの視線が集まりつつある中で私は現実問題を憂いた。
「その前に、教師生命が絶たれそうです」
「大丈夫。俺、そこんとこ微妙な立ち位置だから」
天才をクビにするのは簡単じゃないんだよ、と。
つまり、上の頭を抱えさせる問題児ということではないですか。私は冷ややかな視線を送った。
「先生、一ついいですか」
「ん?」
「私、冗談にしろですけど、承諾してないです」
「えっ?」
「承諾してないです」
結婚しよ、に対しての返事を。
愕然とする先生に、周囲の視線が痛くて私はもうどうでもよくなっていた。
「迷惑なんで、もうどっかいってください……」
とにかく、本当に迷惑だった。
しょんぼりと肩を落とした先生は、私のことをちらちらと振り返りながら教室を出ていった。
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