第8話
「王様、大変であります!」
「……何事じゃ慌ただしい?」
玉座に座り短くなった口髭を寂しく撫でていると、名も知らない兵士が走ってきた。
「そ、それが……」
「何じゃ早く言わんか。儂を待たせるとは何様じゃ」
ちなみに儂は国王様じゃ。がっはははは!
「はっ! 第一騎士団騎士団長イッパツ様が殉死されました!」
「ほぉーイッパツが殉死か。殉死ねぇ~……はぁああああ! ナンジャトオー!」
「ひぃぃ!」
あまりの重大報告に寂しさを忘れて、玉座から勢いよく立ち上がった。
兵士が何故か両腕で顔をガードしておるがどうでもいい。
ドエスダ国でも十本の指に入る強者を倒すとは何者じゃ。
「一体誰にやられたんじゃ!」
「はっ! それは——」
兵士に聞いたが、すぐに聞く必要がなかったと気づいた。
「いやいい! 儂が偽聖女の捜索を命じておったな!」
「はっ! その通りであります!」
「ぐぬぬぬぬぬ、あの小娘め! 国宝だけじゃ足らずに命まで奪うとは! 必ず見つけ出して生まれたことを後悔させてやる!」
温厚な儂をここまで怒らせるとは命知らずな小娘だ。よかろう、懸賞金の額は2倍だ。
捕まえた者には殺す以外なら何をしてもいい権利を与えてやる。
その後は儂直々にこの世の全ての拷問を行なってやる。
二度と国宝を盗むという馬鹿者が現れんようにな。
「父上!」
「ぐっ、ジアルダか。何しに来た! お前には自室謹慎を命じていたはずだ!」
馬鹿者が現れないように願った側から早速現れおった。
盗人を城内に招き入れて、宝物庫まで見学させた馬鹿息子じゃ。
「そのようなことを言っている場合ですか父上! 罰なら後で受けます! 君! アリシアを城下町で見つけたという話は本当か!」
怒っているのは儂だというのに馬鹿息子が逆ギレした。
さらに儂を無視して兵士に聞いておる。
国王様に対して何たる無礼者だ。親の顔が見てみたい。
「はっ! ジアルダ王子! ですが……アリシアには逃げられ、第一騎士団騎士団長のイッパツ様が殉死されました!」
「何だって! イッパツが死んだだと! アリシアがやったのか!」
「はっ! 第一騎士団団員の話ではアリシアの犯行で間違いないそうです!」
「アリシアが、一体どうやって……」
馬鹿息子よ、考えるまでもないだろう。国宝を使った卑怯な手で殺したに決まっておる。
儂なら透明マントで背後から毒塗り短剣でブスリじゃな。どんな武術の達人でもこれでイチコロじゃ。
「団員の話では路地裏をシーツで空まで完全包囲し、さらに煙幕弾を使い、国宝で逃げられないようにしたのちに、イッパツ様が誰にも手出しをしないように命じてから、アリシアを一人で捕縛に向かったそうです」
「それで返り討ちに遭うとは団長として情けない奴め」
兵士の話が本当ならば、女相手だと油断して死んだだけではないか。
しかも完全包囲したのなら団員総出で向かえば捕まえられておる。
そうなっておれば殉死の報告で怒らずに、捕縛の報告で喜びの舞を舞っておった。
愚か者めが。手柄(懸賞金)を独り占めしようとしたな。
「いえ、それがイッパツ様は剣と盾、全身の鎧を外した状態で亡くなっておりました。それも全身に噛み傷と引っ掻き傷を付けた状態で……」
「何だと? それでは無抵抗でなぶり殺されたというわけか!」
懸賞金目当てではないだと。しかも、望んでなぶり殺されるとはまさにドMの所業。
この国の住民がやること、いや、やられることではない。
「はっ! 国王様! それは分かりませんが、地面に『ネロ』と血文字で残されていました!」
「ネロだと? 犯人はアリシアではなく、ネロだということか!」
「いえ、アリシアで間違いありません!」
「では、ネロとは一体何者なんじゃ!」
「さ、さあ……」
兵士の報告を聞けば聞くほどさっぱり分からなくなる。
子供の頃から家庭教師達に神童と褒められまくった儂が分からないとは……。
これはネロは無視してよいな。アリシアと国宝だけに集中するか。
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