幸せは突然に

@koharuosero

幸せは突然に


12年前いつもより重たく鈍い雨だった気がする。あまり記憶はない、とにかく悲しくて辛くて胸の中が引き裂けそうな事だけは覚えている。私の母はこの日に心臓病で亡くなった。

そんなぼんやりとした夢をみていた。また涙を流して目を覚ます。

『紗奈ー。おーい!ご飯できたぞー今日は文化祭だろー、早く行かないと遅刻するぞー!』

パパには本当にお世話になっている。仕事もして、ご飯も作ってくれて、お弁当まで用意してくれる。だけど何故か感謝を伝えることはできなく、強く当たってしまう何故なんだろうか。

『紗奈今日、何時からダンス踊るんだ?パパ観に行ってもいいか?』

何か言うべきなんだろう。いや、それ以前に私は朝機嫌がものすごく悪い。自覚はある。

『、、。』

沈黙が続く。パパはそれでも諦めない。

『最後のダンスくらい見てもいいよな?動画撮らしてくれよ』

パパは本当に私の事が好きだ。それだけはわかる。愛はものすごく伝わる。

私はパパを無視したまま、ママの仏壇に手を合わした。

『最後のダンス天国で観ててね、行ってきます!』

パパは若干不服そうな顔をしている。

『薬と、パパの作った弁当持ったか?忘れ物してないか?水筒も忘れずにな?今日は少し熱いからな水分もとってな、頑張ってな』

話が長い。

『あーもうわかったから、パパ。遅刻しちゃう。いい加減にして。』

パパにまた強く当たってしまった。

『いってらっしゃい、天国のママも見守ってるよ紗奈、楽しんでおいで!』

私はパパに冷たい態度をとってしまっているけれど、別にパパのことが嫌いなわけではない。むしろ好きだ。でも素直な気持ちでダンスを観に来てとは言えない。恥ずかしい。

私は文化祭のプログラムの紙をそっと机に置いていった。




夏、ホイッスルと共に俺のサッカー人生は終わった。

あの瞬間今でも鮮明に覚えてる。視界がグラグラと歪んで、いつもはある身体の感覚が突然として

無くなり、灼熱を浴びるかの如く体が奥の奥底から熱くなり意識がなくなった。

サッカーを失った俺は精神病に悩まされた、辛くてただ光を求める生活。朝、吐き気、眩暈、なぜか息苦しい。死にたい。そんな毎日の繰り返し、いつの間にか学校も行かなくなり、いきづらい地獄の生活が始まった。

『翔君、最近の生活はどうですか?ちゃんと寝れてますか?』

カウンセリング、薬、カウンセリング、薬。

時間だけが、どんどん過ぎていき、地獄に1人取り残される。誰もこの辛さはわからない。

担任から一本の電話がかかる。

『狩野、明日は文化祭なんだよ。久しぶりに学校に来てみないか?』

正直どうでもよかった。俺は学校に行った所で友達もいないし楽しくない。

『翔、最後の文化祭だし、気分転換に久しぶりに行ってみたらどうかな?』

俺はふと中学校の時の親友である。野口が受験期間に俺にかけてくれた言葉を思い出した。

『翔、生きてたらさー辛いこともあるけどさ。でも、生きてたらどんな事も思い出話になるんだからさ頑張ろーぜ?』

俺はこの言葉が好きだった。忘れていた。俺の思い込みなのかもしれない。

俺はいつの間にか学校に足を運んでいた。

翌日・・・

桜が咲き乱れ一瞬にして散る春。異常気象のせいで春でも体育館は暑かった。

彼女が俺の前に突然として現れたのはそんな季節だった。

文化祭で彼女初めて彼女のダンスを観た。そのダンスは手の甲から指先、滴る汗全てが輝いて見えていて、まるで地獄の俺に救いの手を差し伸べる女神様に見えた。

『好きだ。』

完全に一目惚れだった。

キレキレなダンス、かっこよさ可愛さ全てを兼ね揃えていた。

ダンスの後。彼女の事を語る一軍男子共に聞き耳を立てて現実を知った。彼女はどうやら高嶺の花らしい、自分だけが特別輝いて見えたのではなく、いわゆるマドンナというやつだ。今までも何人もの男どもが彼女に挑戦したが誰1人として、落とすことはできなかったらしい。女神は女神だった、遠い存在。近くにはいない存在。

圧巻のダンス。表情が頭にこびり付いたまま俺は教室に戻った。

『席替えを今からする。文化祭が終わっていい節目だ!』

ウォーーーーーーーーーーーーーー!!!

教室が一瞬浮いた気がする。

正直俺はどうでも良かった、対して学校も行ってないし、友達もいなければ楽しみもない。

どんどん黒板に席の名前が書かれていく。

『俺はっと一番後ろか。誰にも邪魔されないな。』

爽やかな香り、眩しい光が俺の全てを奪いその光が俺の道を照らす。

『隣の席だねっ、初めまして!安西紗奈です!!』

ゲッ。さっき舞台で見ていた。女神が俺の横に突然現れる。

突然として俺の目の前に現れ俺の心を掻っ攫っていった彼女はまるで桜の花びらを盗む春風のようだった。

『えっとー、お名前聞いてもいいかなっ?』

彼女にボーっと見惚れている俺に質問がくる。

『あ、えっと。狩野翔。よ、よろしく。』

陰気だとか、オタクだとか思われたかもしれない、そんなことを考える間もなく笑顔で俺に更に会話をふっかける。

『かけるくんかー良い名前!狩野翔だからー頭文字をとってカカとかどう??呼んでもいい??』 

ネーミングセンスは絶望的だが、その時の俺はそんなのどうでもよく。ただ彼女と喋れとると言う幸せな時間に浸っていた。

『あ、あの。なんて呼んだらいいかなぁ、。うーんと』

バカだ俺は会話が下手なのか、すぐ下の名前で呼び捨てでいいじゃないか。親しむためにそれで、ってすぐ下の名前で呼べるほどそこまで俺はチャラくない。

『さな!さなって呼んで!!下の名前で呼ぶ方が親しめるしね!!』

どんどん会話が進んでいく、俺はなにも話せてないのにどんどん進展していく。俺はサッカー以外で楽しんでいいのか。色んな感情が頭の中でごっちゃになりながら。

『うん。』

と、とりあえず頷いた。

チャイムと同時に教室は静まり、長い長い先生の話で俺の幸せな時間を奪われた。



次の日、『おっはよー。カカねぇねぇ、授業寝てたら起こしてくんない?椅子蹴ってもいいからさっ。ねっお願いー』

いきなり陰気の俺に喋りかける女神。俺は揶揄われてるのかもしれない。確かに、俺は揶揄われやすい。

陰気だが少し仲良くなると俺は勘違いして調子を乗る。

バンっ。寝ていたから軽く蹴ってみた。

『うわぁーっーーー』

授業中彼女はものすごくおおきな声を出した。視線が一気に彼女に集まる。

『ちょっと、強く蹴りすぎじゃない??』

顔を赤くしていた。照れてるような少し怒ってるような。

『だって、起こしてって言われたから。』

幸いにもこの時間は自習の時間だったので、先生に何か言われるとかはなかった。

そこから俺と彼女は毎日話してどんどん仲良くなっていった。

『ねぇ、カカサッカーやってたのー?私むっちゃ日本代表好きだよ?むっちゃ試合観てる!!』

とにかく趣味があった。

『カカは誰が好きなの?』

突然の質問に驚いた。

『好きな人はいないよ』

と真顔で答えた。

紗奈は俺を馬鹿にしたような顔で笑った。

『ちがうよー。話し聞いてた?サッカー選手で好きな人はいるの?ってこと。いきなり好きな人聞くわけないじゃんっ!』

やってしまった。変に勘づかれたかもしれない。

『お、俺は!ニ留選手が好きかなー』

とりあえず、ありきたりだがドリブルが上手いニ留選手の名前を挙げてみた。

『いいよねー、私も大好き。でも、私は中田選手かなー』

俺は会話が弾んできたので質問する。

『なんで、中田が好きなの?』

堂々とした顔で彼女が答える。

『もちろん!イケメンだからである!!!』

ボソッと呟いてみる。

『結局顔かよ。』

彼女はほっぺたを膨らまして、こっちを少し見つめる。

『ちがーう。上手いじゃんサッカーも!!』

あー、もちろん上手い。俺は叶いもしないが、同じポジションの中田に少し嫉妬した。




夏。周りに付き合ってると疑われるほど仲良くなった、もちろんLINEも交換した。

俺はどんどん彼女の沼に浸かっていた。

落ちていく。どんどん彼女の世界に。その感覚がただただ幸せだった。

『紗奈ー、無理だったらいいんだけどさ、今日の夜電話しない??』

勇気を振り絞ってみた。彼女の回答は。

『もちろん、いいよ!断る理由なんて一つもないしね!』

初めての電話だった。日付けを超えて太陽が昇るまで電話をした。何を話していたのかは正直覚えていない。それだけ長電話だった。でも、その電話はものすごい意味を成していた。

初デートを約束したのだ。俺はテーマパークに行く事を約束した。

俺は約束したものの、テーマパークには慣れていなかった。

『なぁ、紗奈俺さ、全然行った事ねーんだよな。だから任してもいいか?』

紗奈は笑顔で頷いた。

『もちろん!カカって絶叫平気??』

俺は絶叫は全然平気だ。正直バンジージャンプもしてみたいと思うほどだ。


『全然余裕、絶叫全部乗ろうぜっ』

紗奈の顔が青ざめた。

『あのー、一個乗れないのが私ありまして、。』

紗奈が言った一個乗れないのはこのテーマパークの一番と言っていいほどの看板絶叫アトラクションだった。

『え、嘘だろ乗らないのか?まぁ、紗奈に任せるって言ったしな。』

紗奈は申し訳なさそうに言う。

『シングルライダーで乗ってくる?』

俺のツッコミは早かった。

『ノルカー!!誰が、一緒にきててシングルライダー乗るねんっ。』

これには、紗奈は声を出して笑っていた。その笑顔を見れるだけで俺は一万二千円払ってテーマパークに入った価値があったと思う。

待ち時間も、楽しかった。何を話しているかは電話の時と同じよう全く覚えていないのだが、会話がとにかく弾む。お互い携帯を見て時間を潰すことはなかった。

しかし、紗奈はいきなり俺に少し寂しい言葉をかける。

『これが、終わったらバイバイだね。』

バイバイ?どういうこだろうか俺は尋ねる。

『バイバイってどーゆことだ?紗奈』

紗奈は悲しそうにいう。

『だって受験だってあるし。バイバイだねー。』

俺はハッとした。これで最後なのか、いやだ。俺は紗奈が好きだ。絶対に手放したくない。

アトラクションを一つ乗り終わり、休憩広場で休憩した。さっきの話もあり、最初より沈黙が続き会話が無くなった。

『紗奈少し話してもいい?』

紗奈は笑顔でいう。

『なになに?』

俺はなかなか勇気を出せない。

『俺実は好きな人ができたんだ』

紗奈はとぼけながら、質問する。

『誰?誰?』

俺は本当に不器用だ。

『誰だと思う?』

話を拗らせてしまう。好きの2文字を伝えるだけなのに。

『やっぱり、聞かないでおく。聞かないでこれからも友達としてカカの相談に乗るねっ』

少し寂しそうな顔をしていた。どんどん話が遠ざかる。俺は覚悟を決めた。

『紗奈のことが好き。俺は紗奈事が好きだから付き合ってほしい。』

紗夏は頬を赤くした。

恥ずかしそうにしながらハグをして返事を耳に囁いてくれた。

『もちろん。よろしくお願いします。』

幸せの絶頂を俺はこの日に迎えた。このひとときが一生続けばいいのにのとただただ思った。

一緒に腕を組んでテーマパークをその後も夜まで楽しんだ。初めてのキスも経験した。

幸せで仕方がなかった。

後日。電話や2人で勉強や学校から一緒に帰るなどカップルらしいことは全部した。

周りからも認められた。羨ましいとも思われた。

彼女が精神安定剤の薬になっていたのか、俺はいつの間にか薬も飲まず病院に行ってカウンセリン受けないようにもなっていた。

彼女はいつの間にか学校に来なくなった。受験勉強で体調を崩しているのだろうと距離を少し置いた。しかし、あまりにも学校に来ない彼女を心配して俺はLINEで久しぶりに、連絡を取った。

『紗奈元気か?久々にどこか行かないか。たまには外に出てみるのもいいかもしれないぞ?』

既読がついたのはその一週間後だった。

『最近ちょっと、忙しくてねーごめんね。また行ける日言うねー』

この繰り返しで俺は少し呆れてしまった。今までがきっと幸せすぎたのだろう。そうは思う。

一度幸せになると、もっと幸せを求めるのが人間の悪いところだ。

俺は無理やり約束を迫った。彼女を理解することもなく。それはとても彼女に取って負担だったのだと今考えると思う。

しばらく経った頃彼女から連絡がきた。

『会いたい。』

その一言にどんな意味があったのかこの時はまだ理解していなかった。久しぶりのデートだ。俺はただ何も考えずウキウキしながらデートの日を待った。



雪が降り積もる冬、俺は紗奈との久々のデートに胸を高鳴らせていた。受験を控える俺たちにとってこれが最後のデートかもしれないと思うと、楽しみであり、ちょっピリ哀しさもあった。

『ごめんー。カカ待ったー??ちょっとメイクに時間かかっちゃってさ。』

何か、違和感を感じた。目が赤い?泣いた後??心配になる俺は何の気遣いもなく聞いてしまう。

『紗奈なんか、あったか??目赤くない??泣いた?』

紗奈は首をかしげる。

『ん??そんなことないけど??おっひさー』

いつも通りの紗奈、笑顔の紗奈。ずっと見ていたい。この幸せがずっと続いてほしいと心の奥底から思った。

『カカ、ちゃんとデートプラン考えてきてくれたんでしょーねー?ずっと楽しみにしてるんだからねっ。』

もちろん完璧だ。1ヶ月前から仕込んでいるデート失敗するはずがない。

『完璧、紗奈のためにどれだけ考えたと思ってる??今日は最高の思い出にしような』

そう言って俺は紗奈の手を掴み、恋人繋ぎをした。

紗奈は顔赤くした。

『う、うん楽しみだね』

柔らかくて冷たい小さい手この手を二度と離さないと、決めたはずだった。

『ねぇ、てかさ。カカこの電車乗る電車じゃない??』

クソっやらかした。幸せすぎて何も考えてなくて電車を一つ乗り過ごした。

『ぷっ、ぷぷー。カカぼーっとしすぎ、何?緊張してんのー?』

今度は俺の顔の当たりが熱くなった。

青春だった。記憶がどんどんとーのいていく感覚が辛かった。

『おーい、カカここで降りるんだよね?ここだよねー?おーい!』

まただ、またぼーっとしていた。

『え、なんで、わかかっ』

今日の場所は紗奈には何も言っていなかった。どうやら俺が考えるデートスポットはお見通しらしい。

『ねぇ、プリクラある!プリ撮ろ!ねっいいでしょ!』

ハート、ハグ、恋人繋ぎ。カップルがやりそうなポーズは全部やった。本当に幸せだった。

プリクラを撮った。後1個目のデートスポットの水族館に行った。水族館の中は暖房が効いていていてとてもというほど暑かった。でも、俺は紗奈の手を離すことは決してしなかった。

『ねぇー観て!観て!カカ!鯉だよ鯉!可愛いねー。』

この場所は彼女との1番の思い出と言ってもいいほど記憶に残る場所だった。

日本の和をテーマとした、空間と鯉がマッチしていた。輝いていた。でも、あまり鯉のことは覚えていない。俺が覚えているのは無邪気に餌をあげる彼女の笑顔。

『カカ!鯉すごい寄ってきてる。気持ち悪っ。』

さっきの発言と矛盾しすすぎていて、思わずツッコミそうになったがそれさえもツッコまず受け入れた

楽しすぎた。本当にあっという間で彼女と一緒にいると時間泥棒が時間をせっせと盗むようにに時間が過ぎる。

俺は彼女がトイレに行った時、こっそりと水族館で彼女のイニシャルの文字と自分のイニシャルの文字のキーホルダーを買い。次のデートスポットで渡そうと仕込んだ。

『お待たせー、てか、暗っ。はや!!え、何時?』

『もう19時水族館そろそろ出てもう帰ろうか。』

彼女は少し不満そうな顔をした。

『え、もう終わり?早すぎー。でも、ものすごく楽しかった!』

まぁ、終わるわけがない、俺はサプライズが大好きださっきの道とはちがう道で帰る。

『ねぇ、カカ!!あれ見て!むっちゃ綺麗、あれカミナリエじゃない?』

紗奈は俺が行こうとしてるところにすぐ目をつける。俺は焦ってちがう話にしようとする。

『あ、あれ予約いるらしいなー、また今度一緒に行こうなー。あははっ。』

笑顔で俺が何かを言い出すのを待つ紗奈。

サプライズは好きだが、どうやら嘘はものすごく下手みたいだ。

『あー、わかったわかった、あそこに向かってんだよっ今』

さらに紗奈は笑顔になる。

『えっ、でも予約は?』

自信満々な腹立つ顔して俺は答える。

『ちゃんと取ってるに決まってんだろ?いつからデートプラン考えてると思う??』

紗奈は少し照れながらハグをしてくれた。

『ありがとー、カカ本当に嬉しい。』

その時の紗奈の表情は抱きしめられてわからなかった。でも、きっと笑顔だったのだろう。きっと。

俺と紗奈は手を繋ぎ、光り輝く道カミナリエを歩いた。 

この幸せはどれだけ続くのだろうか、そんなことを考える俺はバカらしかった。

俺はサプライズで用意したキーホルダーをポケットから取り出す。

『なぁ、紗奈渡した今ものがあるんだ。今日水族館行っただろそれで今日の事大切な思い出にしたいからさこれを受け取って欲しい。』

紗奈は今までに見たことのないほど、驚いた顔をしていた。

『えー、カカそんなことできんの??』

でも、1発目に返ってきた言葉は思ってた斜め上の言葉だった、それがとても愛おしかった。

『俺のこと紗奈舐めすぎなー?』

幸せな時間はあっという間で、俺はいつの間にか電車に乗っていた。

『おーい、降りるよ。ぼーっとしてないでお店閉まっちゃうよ。』

そうだ、ハンバーガーを食べたんだ。この日食べたハンバーガーは格別で忘れられない味だった。

幸せはずっと続く、俺はずっと幸せものだと確信した。

しかし、そんな一生続くということはないものだ。現実は自分が思ってるほど自分に味方せず残酷だ。

『ねぇ、カカ、今日は本当に楽しかった。ありがう。』

いい空気だった。俺は紗奈を抱きしめようとした。

『カカ、待って、話さなきゃいけないことがある。』

良い空気が一瞬にして変わった。

『別れたい』

俺は頭の中が真っ白だった。

『え、なんで。俺、なんか紗奈の嫌がることしたか?』

紗奈は目をうるうるさせながら話を返事をする。

『そんな事はないの、、これは私の問題。カカは悪くない。でも友達に戻って欲しい。』

意味がわからなかった。

『え、いや。その、』

紗奈は笑顔を崩さなかった。

『カカのこと好きな子はいるから切り替えて。』

俺はそんな他の女の事なんてどうでもよかった。

『俺はそんな、他の人なんてどうでもよくてただ、紗奈のことが、。』

被せて紗奈が言う。

『そんな事言わないのっ!これからはちょーフレンドでよろしくね。それじゃあねバイバイ。』

俺から遠ざかっていく。紗奈の後ろ姿。

言えなかった。好きだと、別れたくないとしっかり伝えれなかった。これが最後になるなら。

好きの2文字くらい言えばよかったと後悔をしている。

俺は紗夏紗奈にも捨てられこの日、俺の幸せはまた一つ終わった。

 

 




あの日私は、告白を断るべきだった。幸せに浸りすぎた。いや、違う本当は。





俺は切り替えた。受験、そうだ俺には受験がある。恋人なんていらない。壊れたロボっトのように休み時間も誰とも連まずただひたすらに勉強した。勉強だけして周りが俺は見えなくなっていたらしい。合格通知。嬉しさは何故かなかった。何かを失った喪失感。何かに気づいたのは卒業が迫っていた頃だった。一つポツンと空白の席がある。そうだ、紗奈がクラスにいないのだ。その事に気づいた時にはどうやら遅かったらしい。先生は暗い表情でホームルームを行った。

『皆んな、話がある。うちのクラスの安西紗奈さん、最近来ていなかったな。実は、彼女はな心臓が悪くてな急逝された。』

信じられなかった。俺が知ってる紗奈は元気な紗奈でそんな素ぶりも一切なかった。

周りを見ていると、男女関係なく皆んな泣いていた。彼女はそれだけ色々な人に慕われていたのだ。何故そんな人が死ななければならなかったのだろうか。

俺が代わりに死ねば。そうも思った。後日、俺は紗奈の葬式に参列した。



年が明けて卒業が迫る頃。

『パパー、私さ伝えたいことあるんだっ。』

パパは笑っていなかった。そりゃそうだろう。私がいなくなっちゃったら、もう家族はいなくなるからだ。

『パパ、自分勝手かもしれないけどさ。笑顔で話しを聞いてね。今までさ、強く当たったりしちゃってたけどさ。本当はパパの事大好きなんだー私。毎日ご飯もお弁当も作ってくれて、私幸せものだよね本当、。文化祭の時陰でコソッと動画回しながら必死に背伸びしてるの見えてたよ。嬉しかった。パパ本当にありがとうねっ。本当に大好きだよ。私の分も長生きしてよね。』

パパは笑顔で私にいう。

『そんな事わかってるよ。パパも紗奈が大好きだ。世界一の宝物さっ。』

私は全てを伝えれて嬉しかった。幸せだった。

『最後に、一つわがまま言ってもいい?』

パパはもちろん。と頷いてくれた。




いつもより重たく鈍い雨だった。俺は紗奈の死をまだ簡単には受け入れられなかった。

友達に戻ろうと言ったのも、俺に気を遣わせないためだったのだろう。

俺は死にたくなった。また、大切なものを失ったのだ。幸せは突然として消えさった。

『君、ちょっといいかい??』

自暴自棄になっている俺に笑顔で話しかける。

『もしかしてだけど、君が翔くんかな?紗奈と仲良くしてくれていた。』

全く記憶にないおじさん。俺は誰とも喋りたいそんな気分ではなかった。その上紗奈が亡くなったのに、笑顔で葬式に参列してるなんてもってのほかだ。

『、。誰ですか、何で笑顔でいられるんですか、紗奈はもうこの世には、。』

おじさんの顔をもう一度見た、笑顔が緩んで今にも泣きそうな表情だった。

『すまないねー。いきなり知らないおじさんが話しかけて、僕は紗奈父なのだよ。』

俺は後悔した、一番強く当たってはいけない人にあたってしまった。謝ろうとはした、でも謝れなかった。

『翔くん、君に渡したいものがあってねー。この箱を預かってほしい。家で開けて見てくれないかな。今は心が落ち着かないと思う。落ち着いてからでいい僕からの頼み、いや紗奈からの頼みさ。受け取ってくれないかな?』

俺はハッとした。絶対にお礼は言うべきだし、強く言った事を今では謝るべきだったと思う。

だけど、そんな事を考える以前に体は勝手に動いていて走っていた。雨はいっそう強くなる。

涙も汗も思い出もで全部雨流れていくと一緒に流れていく。だけど紗奈箱だけは守り抜いた。

家に着くとびしょびしょになりながら玄関で箱を開けた。箱の中には一つ小箱と、DVDが入っていた。俺は急いでテレビにそのDVDを入れて再生した。

『あー。あー。聞こえてるかな、カカ!やっほーー元気かな??』

いつもより痩せ細った身体。でも、笑顔の紗奈には変わりなかった。

『なんか、恥ずかしいなー。カカ今から言うことを聞いて欲しい。今このビデオを観てるって事は私、死んじゃったって事だよねー、。でも、笑顔で話聞いてね!』

俺にはわかる、笑顔の奥底で少し震えて目が潤んでいた。怖いのだろう。

『あのね、付き合ってる時1回もカカに好きって言えなく、それはもしかしたら好きって言って死んじゃったらカカにとって呪いの言葉になって今後幸せになれないと思って言えなかった。

でも、やっぱり。自分勝手なのはわかってるけど。私さー後悔したくなくて、。』

俺も、もう伝わらないとわかりながらテレビ画面の過去の紗奈に重ねて呟いていた。

『大好きだよ』

紗奈は何故かわからないが顔を少し赤くしてるように見えた。

『あっ。聞こえてきたなー。カカの大好きって言ったでしょー。いや、カカはどうせ号泣大泣きでそんな事言ってないのかっ。あ、それとカカから貰った大切なキーホルダーね。1年後、そのキーホルダーを貰った日にね。』

辛い、もう会えない、大好きと言えないと思うと。涙が今日の雨のように止まらない。

『それまで預かっていて欲しい。』

会いたい。今すぐに。

『紗奈さーん、お食事のじかんですよー。』

紗奈は少し不機嫌な声で返事をした。

『もー、ごめんね。あーあもう時間みたい、最後に一つだけ聞いて欲しい。幸せってね、絶対いつか終わる時がくるの。でもね、幸せって突然に現れるものなの。うーんと何で言えばいいんだろうなー。私が言いたいのはね翔。生きて。辛いことも楽しいことも生きていれば必ず訪れる。

幸せは突然にやってくるからね。私の分も絶対生きて。翔今までありがとう。大好きだよっ』

そこでビデオは終わった。

2年後。

『紗奈、俺はね今大学で、サッカーやってんだ。そんな本気のサッカーとかじゃないんだけど、

楽しく同好会でやってる。それでさ、鬱病もいい感じで完治に近いてる。今ものすごく楽しい。紗奈、生きててよかった。君に出会えて本当によかった。あのビデオを観てまた、紗奈の分も更に生きようと思えた。本当にありがとう、俺紗奈分も長生きして幸せになるね。』

空は笑っていた。快晴だった。心は澄んでいた。

俺は、紗奈のお墓にそっとベゴニアの花と水族館で買ったお揃いのキーホルダーを供えた。




               完

 

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