書きたくなかった、でも書こう!

崔 梨遙(再)

1話完結:1800字

 大学の1年生、19歳の時。先輩のおかげで女子大の文化祭に行けることになった。しかも『ねると〇大会』にも出場出来るということだった。


 『ねると〇大会』というのは、当時のTV番組から流行っていたものだが、要するに、男女の出会いを演出する企画だった。男女、フリータイムで自由に会話してアピール、告白タイムで男性が気に入った女性に“僕と付き合ってください! お願いします”と告白するのだ。後は女性が“よろしくお願いします”と言うか? “ごめんなさい”と言うか? で決まる。


 僕は学校ではなく地元の友人達に声をかけた。高卒、高校中退、工業高校卒の社会人1年目、いろいろな人材がいたが、僕は“参加してしまえば、こっちのものだ”と軽く考えていた。友人達も、“女子大の文化祭に行ける!”と喜んでくれた。というよりも浮かれ、はしゃいでいた。喜んでもらえたから僕も嬉しかった。



 当日、みんな上機嫌でその女子大へ。結局、僕を含み8人の大人数になった。


 正門から一歩入ると、そこは女性の多い華やかな空間だった。“これだ! これこそが女子大だ!”僕達のテンションは爆上がりだった。


 そこで、呼び止められた。文化祭の運営委員の女性だった。


「ねると〇大会、出場されますか?」

「はい! 参加させてほしいです」

「では、代表者の方、受付に来てください、5分とか3分で終わりますから」

「僕、行ってくるわ! 5分で終わるらしいから、みんな待っててくれ」


 受付はスグにすんだ。参加者の名前を書くだけだった。何故、聞かれたのか? 参加する女子大生の人数調整のために、男性陣の人数をチェックしたかったとのことだった。なるほど、人数を調整してくれるのか、それはありがたい。


 運営委員の言っていた通り、受付は3分~5分で終わった。


「終わったで-! さあ、ねると〇大会まで学内をまわろうや」


 外に出たら、誰もいなかった。トイレかと思って15分待った。誰1人戻って来ない。僕は悟った。“あいつ等、もう学内を回ってやがる!”1人くらい待っていてくれても良さそうなものだが、全員いないだと、ふざけんな!


 僕は帰った。


 電車に乗ったら、友人の石田から電話がかかって来た。


「なんやねん?」

「崔君、今、どこにおるの?」

「今、電車や。帰り道やで」

「なんで帰ってんの?」

「だって、受付が終わって僕が戻ったら、お前等全員おらんかったやんけ」

「……」

「なんで、5分が待たれへんかったんや? 今日、僕達はねると〇大会に出ることが1番の目的やったやろ? そのねると〇大会の手続きをしていた僕が、なんで置いてきぼりにされなアカンねん?」

「……いや……女子大の文化祭やから、浮かれてしまったんや」

「アカン、許されへん、今頃電話して来て、今まで何をしてたんや? 僕はおらんでもええということやろ? 僕がいなくても楽しいんやろ? ほな、僕がおらんでもええやんか、僕抜きで楽しめや。あ、これだけは言うとくけど、僕がいなくてもねると〇大会には出ろよ、人数調整してもらってるから、参加しなかったら迷惑をかけてしまうねん」

「そんなこと言うなや、戻って来いや、友達やんけ」


 リーダーは石田だ。石田が率先して移動したに決まっている。みんな同罪だと思うが、石田に言われたことで余計に腹が立ったかもしれない。


「うるせー! お前等なんか友達ちゃうわ。ほな、僕は帰るけど、お前等はねると〇大会まで残れよ、ドタキャンして女子大生に迷惑をかけたらアカンで」



 後日、結局、僕がいなかったから彼等はねると〇大会に出ずに帰ったと聞いた。度胸の無い奴等だ。僕を置いていったことだけでも彼等を軽蔑していたのだが、参加しなかったと聞いて、僕は更に彼等を軽蔑した。こんな奴等を友達だと思っていたことが恥ずかしい。この件については不愉快だから書きたくなかったが、“作家は恥をさらしてなんぼ”と思っているので書いてみた。



 その時のメンバーは、僕を置いていった時点で僕の友人ではなくなった。だからただの知人だ。僕の書く物語に、“友人”と表現する者が少なく“知人”と表現する者が多いのはそのためだ。僕は知人が多いが友人は少ない。嫌な話だ。思い出すと、いまだに腹が立つ。本当は彼等を知人と呼ぶのも嫌だ。知人以下の表現は無いのだろうか?







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書きたくなかった、でも書こう! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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