異世界転移おっさん、スキル確定演出でコロシアム無双〜シカ娘の剣闘士主になって人生逆転する〜
鷸ヶ坂ゑる
プロローグ
血と汗が染み込むコロシアムの中、鹿毛色の少女が琥珀色の瞳で敵を睨みつける。彼女の長い髪をまとめていた紐はちぎれ、コロシアムの熱気を含んだ風にたなびく。
耳は長く一見するとエルフにも見えるだろう。しかし、彼女の横長な楕円形の瞳をしていて、明らかに獣人だと言うのが見て取れた。
その体躯は細くしなやかだ。
だからといって華奢というわけではない。
筋肉の密度は人族以上だ。
その細身の体は引き締まり、想像もつかないほどのパワーとスピードを持っていた。
鹿獣人、セレニアン族の女は賭けには向かない。
それがコロシアムで賭け事をするギャンブラーたちの一貫した答えだった。セレニアン族の女には角がなく、強力な角での一撃必殺が使えないのが欠点でもある。
だが、彼女は勝ち残っていた。
武器は手に持たず、武具も白いレザーの胸当てしかしていない。
相対するのはこのコロシアムの歴史の中でも最強と名高い竜人族、ドラゴニュートの男だ。
元々の強靭な鱗を持ちながらもミスリル装備を全身に身にまとっていた。
普通なら勝ち目がないと思うところだろう。
死合を鑑賞している観客たちもセレニアン族の少女を見てせせら笑っている。あるいは同情していた。
そんな中、一人だけセコンド席で勝ちを確信した男がいる。
ボロボロのモスグリーンの外套と伸ばしっぱなしの無精髭。白髪がチラホラ見え始めた彼の黒い髪の毛は短く切りそろえられて逆だっている。そして、左頬には大きな古傷が残っていた。
彼には見えていたのだ。
セレニアン族の少女が虹色に光る光景が。
「勝ったな、風呂入ってくれば良かった」
堂々と腕を組み、セレニアン族の少女の行く末を見守りながらその男は静かに呟く。
──勝負は一瞬でついた。
最後に立っていたのはセレニアン族の少女だ。
大番狂わせの大穴が勝利し、コロシアムの中は悲鳴と絶叫に、あるいは新たなチャンピオンの誕生に沸き立っている。
セレニアン族の少女は観客ににこやかに手を振る。あらかたファンサービスが終わると彼女は主である左頬に傷が残る男のところに走っていく。
「マスターマーリン、勝ちました!」
「ああ、よくやったなシカリーナ。まぁ、俺はお前が勝つことなんて分かりきってたけどな」
「そうですね! マスターはいつも正しいです!」
「ははっ、だって俺、ギャンブルは失敗しねぇもん」
歓声の、あるいは悲鳴の中マーリンはシカリーナを伴って控え室へと向かう。これで、マーリンは約束を果たせたとスキップしながら踊るシカリーナに安堵した目を向けた。
だが、この戦いは彼らにとってまだまだ長い戦いの序章でしかなかったのだ。
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