【掌編】俺は姫じゃねぇ!【900字以内】
音雪香林
第1話 俺は姫じゃねぇ!
朝、教室に入るなり奴は着席している俺の元に一直線にやってきて。
「おっはよー! 今日も可愛いね、姫!」
とウィンクした。
スレンダーで女にしては背の高い、いわゆるモデル体型のこいつは女子生徒からは「王子様」と崇められていて、不本意なことに俺とセット扱いされている。
「姫って呼ぶんじゃねぇ! 俺は男だ」
いくら男子高校生の平均より低い身長だろうと、精神までお子様ではないし女でもない。
周囲の期待に応えるように王子様キャラを作っているお前とは違うんだよ。
脳内で毒づいていると。
「でも私より小さいし細いじゃん。あんたならお姫様抱っこできる自信あるよ」
喧嘩売ってるのかお前は。
イラっときた俺は席から立ち上がり、10センチほど上にある「王子様」を見上げて。
「ならやってもらおうじゃん」
と挑発した。
まさかそんな答えが来るとは予想してなかったのだろう。
一瞬目を見開いた奴はすぐにニヤッと面白そうに口角を上げると。
「では、失礼します。姫」
と俺の背中と膝裏に手を添えてひょいっと横抱きした。
一見軽々持ち上げたように見えるだろうが。
「おい、プルプルしてんじゃねぇか。落とすなよ」
奴は悔しそうに「プルプルなんてしてない」と反論するが、してるんだよ。
俺は奴の首に両腕を回して安定を図ろうとする。
俺は小柄だけど、いや、だからこそ筋トレは欠かさない。
筋肉は重いからな。
それに硬いし。
見た目で抱く印象よりはちゃんと男なんだよ。
「お前力み過ぎて顔真っ赤じゃん。もういいだろ。おろせよ」
いつまでも意地を張り続けそうな奴にそう伝えると無言でおろされる。
「これで懲りたろ。もう俺を姫扱いすんじゃねーぞ。バーカ」
奴はなぜか顔を両手で覆って悶絶している。
耳が真っ赤だ。
なんなんだ?
首を傾げていると「マジ無理……」というつぶやきが聞こえてきた。
本当こいつ大丈夫か?
一転して心配になった俺は、今度は逆に奴を姫抱きにして保健室へと走ったのだった。
おわり
【掌編】俺は姫じゃねぇ!【900字以内】 音雪香林 @yukinokaori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。