第一章エピローグ・2


「皆さん! お帰りなさい! 無事に帰ってきてくれて、私は嬉しいですよー!!」


「ああ、マチネ。ただいま戻った」

「私たちなら当然無事に決まってるでしょ。心配性ね」

「マチネ殿、ただいまでござる」


 ティアたちと別れた後、俺たちは冒険者ギルドへ行き、久しぶりにマチネのたわわと再会した。


 屈託のない笑顔で帰還を祝うマチネと共に別室へ移動し、今回あったことのあらましを説明する。


 説明はほとんどレオナに任せたので、詳細は省くが。


 え? 変態侯爵の屋敷で手に入れた財宝について?


 あれは依頼中に落ちていた物を拾っただけだからなぁ。別に報告する義務はないだろ。要はゴブリンの巣でちょっと物を拾ったのと同じことだ。


 レオナたちも特に報告していなかったしな。


「むむっ!? レオナさんたち、何か隠していますね!? それは嘘つきの顔です!! 私のセンサーにビビッと来ているんですよ! さあ! 怒らないので白状してくださいー!!」


「わ、わ、私たちを疑うのかマチネ!? 私たちはなな何も隠してなどいにゃいぞ!?」


 いや、本当はマチネの執拗な追求に対して、レオナは口を割りそうになっていた。めっちゃ目が泳いでいるし。雑魚である。


 レオナが口を割ってしまうと俺の方にもとばっちりが来るので、仕方なく助け船を出してやった。


「そういやマチネ、明日の夜空いてるか?」


「え? ギルガさん、いきなり何です? お仕事はいつも夕方で上がりですから、空いてますがー」


「そうか。じゃあ、約束通り飯食いに行くか」


「ほえっ!? そんな約束しましたっけ!?」


「俺がギルドに登録した日にしただろ。白銀亭だったか? 奢ってやるよ」


「ハッ!! そういえば! っていうか本当に奢ってくれるとは思ってませんでしたよー!?」


「……奢らなくて良いのか?」


「いえいえ!! 奢ってください! 絶対奢ってくださいー!! やったぁーっ!!」


 ――とまあ、こんな感じでマチネからの追求は躱すことができた。


 その後は、俺の【亜空間収納】の中に入っている大量のオークやその他の魔物(依頼の移動中や野営中に襲ってきた魔物だ)を売却するべく、ギルド隣の解体場へ移動した。


 その途中、なぜかじとっとした目をしたエルフが、意味の分からんことを聞いてくる。


「っていうかアンタ、さっきの何よ? 王女様だけじゃなくて、マチネも狙ってるわけ?」


「狙ってる……?」


 俺がティアやマチネの命を狙っている事実などないはずだが……と考えて、エルフが何を言わんとしているのか、すぐに理解した。


「もしかして色恋的な意味で言ってるのか、それは」


「違うっての?」


 むしろそんな要素なかっただろ、と呆れる。


「おいおい、何でもかんでもそういうのに結びつけるなよ」


 思春期のガキかよ。いや……そういや処女だったな、こいつ。エルフ的にはまだ子供なのかもしれん。


「違うの?」


「しつこい。違う」


「ふぅ~ん……なら、別に良いけど」


 どういう立場で言ってんだ、そのセリフ。


「何だお前、もしかして、俺のことが好きなのか?」


「……。っ!? はぁあああああああッ!!?」


 エルフの反応から予想してそう聞いてみたのだが、


「なっ、何で私があんたみたいなのを好きになるってのよっ!!? ふ、ふじゃけないでっ!! う、自惚れも大概にしてよねっ!!」


 顔を真っ赤にして否定された。


 だが、その後すぐにシズが何でもなさそうに言う。


「拙者はギルガ殿のこと、好きでござるが」


「そうか。ありがとよ。俺も好きだぜ」


 貴重な日本食を作ってくれるからな、シズは。


「んふふーっ!! そうかそうか! 拙者とギルガ殿は相思相愛でござったか!!」


「わ、わ、私も……っ、その、ギルガ殿のことは、そのっ…………くっ、な、何でもない!!」


 レオナは俺のことは何でもないそうだ。改めて言うことでもないだろ、それは。


 とにもかくにも、解体場へ移動し、相変わらず閑散としている受付前でガンズを呼ぶ。


「おいガンズ! 仕事だ!」


「んおっ!? 何じゃい!? って、ギルガか。久しぶりじゃのう。それに『ヴァルキリー』の娘っこどもも一緒かい」


「ああ、久しぶりだな。魔物狩って来たから、解体と査定を頼む」


「おお、聞いておるぞ。4人でオークやら盗賊やらの討伐に行っていたらしいの? すると、モノはオークか?」


「オークもだが、途中で襲ってきた別の魔物も混じってるな」


「ふむ……それは結構な数になりそうじゃの。分かった、ここに出してくれい」


 俺は言われた通りに、台の上にポケットから取り出した魔物を積み上げていくが……すぐに台の上はいっぱいになった。


「ま、まだあるのか……?」


「まだまだある」


「そ、そうか……。それじゃあ、もうあとは床に置いてくれい」


 と言われたので、俺はどんどんと残りの魔物を取り出していく。


 ――取り出していく。


 ――取り出していく。


 ――取り出してい


「って待て待ていっ!! さすがにこの量は無理じゃぞ!?」


「それは困るな。まだ半分くらいしか出してないんだが」


「すでに出ておる分だけでも数日仕事じゃぞ! これ以上は解体が間に合わなくて腐らせてしまうわい!!」


「そうか……。それじゃあ、今出した分が終わったら、残りを出すわ」


「おいおい、残りを出すっつーても、拡張鞄の中で腐るのは同じじゃろ……って」


 何かに気づいたように、ガンズが目を剥く。


「まさかお主の拡張鞄、腐らんのか……?」


 ふむ……まあ、いちいち言い訳を考えるのも面倒だし、俺も隠す気はなかったからな。俺の拡張鞄(亜空間収納)が、時間停止機能付きだとさすがに察するか。


「まあ、そこは想像に任せる」


「想像に任せるって……そんなモン、国宝級すら超えておるぞ。……っていや待てい!! 以前来た時とズボンが違わんかそれ!?」


 と、ガンズは俺のズボン型拡張鞄を凝視する。


「ああ、気分で変えることができるんだ」


「そんなアホな……!! もしやお主…………いや、儂は何も見ておらん。知らん」


 遂にガンズも何かに気づいてしまったようだな。


 まあ、リリーベルも気づいているっぽいしな。もう一週間以上も前に収納したオークを、ほぼ新鮮な状態で取り出しているのを見せてしまったし。今もジト目でこっちを見ながらも、何も言わないところを見ると、どうやら黙っておくようだ。


 ガンズは目をぎゅっと閉じ、目頭を揉みほぐしながら、俺のズボンの秘密に言及するのは止めることにしたみたいだ。


「あー、じゃあ、あれじゃ。3日後の朝に残りの分を持ってこい」


「分かった。頼んだぜ」


 くたびれた表情で「うむ」と頷き、ガンズは解体場の奥にいる職人たちに向き直る。


「お前ら! 見ての通りじゃ!! 今日は帰れんぞ!!」


 職人たちの悲鳴があがった。


 ……俺の依頼でデスマーチに突入することになったらしい。前世の記憶が疼いて悪いことをした気分になったので、後で何か差し入れてやるか。


 とにもかくにも、こうして報告と解体の依頼も終わり、それから俺たちは数日の休みを取ることなった。


 レスカノールで久々の休日を満喫する。


 そういえば服と靴を注文したきりだったので、休日中にそれらを取りに行った。後は消耗した食料やらを多めに買い込んだり、野営時に使える椅子やテーブルなど、今回の討伐依頼で足りないと気づいた諸々を買い足したり、宝飾店に足繁く通ったり、歓楽街で豪遊してみたりなど、色々した。


 他にも約束通りマチネを白銀亭に連れていき飯を奢ったり、ガンズに残りの魔物を渡すついでに、解体場の職人たちに飯と酒の差し入れをしたりした。


 そうこうしている内に、あっという間に休日は終わり、俺と三人娘はことになった。


 ――というのも、ゴブリンとオークの巣、そして盗賊どもの討伐依頼のことだ。


 途中でアナベルたちと遭遇したせいで、結局レスカノール北側の討伐はやっていないままだったからな。


 俺は事前に約束していた通りに、朝早く、北門前へ向かった。


 すると、すでに三人娘たちは門前の広場で待機していた。


「おはよう、ギルガ殿。今日もよろしく頼む」

「おはようでござる、ギルガ殿!」

「ふふんっ、これを見なさい!!」


 三人娘と合流すると、朝の挨拶に混じって、エルフがやたら上機嫌で杖を俺の目の前に突き出してきた。


 何かテンション高いな、こいつ。



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