第一章エピローグ・1

 ―――――まえがき―――――

 エピローグが長くなってしまったので、三分割しました。

 今日中に三話、更新します。

 ―――――以下、本文―――――




「貴様らッ、クゾォーリからの使者か!? 姫殿下をどうするつもりだ痴れ者めッ!!」


「待ってください!!」


 騎馬で駆けてきた騎士たちが怒鳴るのに、ティアが馬車の外に飛び出し、制止した。


 俺たちもそれを追って馬車を降りる。


「姫殿下!? ご無事でしたか!!」


 ガタイの良いおっさん騎士がティアの姿に驚き、馬から飛び降りると駆け寄ってきた。他の騎士どもも同様だ。すぐにティアはむさい男どもに囲まれた。


「はい、私は無事です。アナベルやクレイグ、それとこちらの方たちに助けられて……」


 と、騎士たちに助けられた経緯を説明していくティア。


 しばらく、かくかくしかじかと会話の時間が続く。


 おおよその話を聞き終えて、おっさん騎士が頷いた。


「なるほど。それは大変でしたな、姫殿下……。いやしかし、殿下がご無事で何よりです。それと、『ヴァルキリー』の者たちはレスカノールで活躍している冒険者なので聞き知っていましたが……貴殿と会うのは初めてですな、ギルガ殿」


 と言って、おっさん騎士が俺の方に向き直る。


 意外にも、レオナたちは騎士にも名を知られていたらしい。まあ、一応Aランクだしな。


「モーブオから話は聞いていますぞ。何でも、クゾォーリの兵どもに囲まれ、危ないところを信じられないような圧倒的な力で助けてくれたと……。加えて此度の活躍……まさか城を落とした上に、あのゼピュロスをも一人で倒してしまうとは……」


 何やら熱い視線を送ってくるおっさん。


 そんな目で見ないでほしいんだが。寒気がするぜ。


 ってかモーブオ? 誰だそれ。何か知らない奴が知らない奴に俺の話をしてるんだが。こわい。


「それで、バルク騎士長、あなた方はなぜここに軍を敷いているのですか?」


 ティアがおっさんに質問する。


「ああ、それなのですが、モーブオからはギルガ殿のご慧眼により、クゾォーリ領に兵を派遣するのは危険と聞いていたのですが、姫殿下の一大事に、我が身可愛さに領地に引きこもっているなど臣下としてありえん、と。領主様が殿下奪還のために軍の派遣を決めたのです。とはいえ、まずは間者を放ち殿下の居場所を確定してから、一気に動くためにここに軍を駐留させていたのですが……その必要もなくなってしまいましたな」


「ああ、いえ……ですが、ちょうど良かったです」


 ティアの言葉に、おっさんが「ふむ?」と不思議そうに首を傾げる。


「バルク騎士長、お願いがあるのですが……」


「ふむ、何でしょうか? 姫殿下のお願いとあれば、できる限り叶えましょうぞ」


「ありがとうございます。では、このまま軍を率いてクゾォーリ領の領都オワタまで行ってもらえませんか? 先に説明したように、今はクレイグが領主代理のような形で街を治めつつ、侯爵たち反逆者の管理をしていますが、どう考えても手が足りないと思うので……」


「ふむ……それもそうですな。クゾォーリ家はこれで確実に取り潰しとなるでしょうし、今の内に領内を掌握しておく必要もありますか。――承知しました。では、我らはこのままオワタを目指し、クレイグ殿の指揮下に入りましょう」


「ええ、ありがとうございます。リーンフェルト伯には、私からも説明しておきますので」


 ――というわけで。


 草原に駐留していた軍隊は、このままオワタを目指すことになったらしい。


 俺たちはおっさん騎士たちに別れを告げ、再び馬車での移動を再開する。


 そしてその日の内に、レスカノールへ帰還した。


 ティアたちとは、西門で別れることになった。この後、俺たちもギルドに色々と説明することがあるしな。


 門の前で馬車から降り、何やら目を潤ませたティアと向かい合う。


「ギルガ様、しばらくのお別れですね……」


「そうだな」


「私たちは、しばらくの間、リーンフェルト伯の屋敷に滞在することになると思います」


「そうか」


「ギルガ様たちも、じきにリーンフェルト伯から、話を聞きたいと呼ばれることになるかと思います。その時に、私たちの将来について、詳しい話もいたしましょう」


 領主と話? 面倒だ。


「まあ、詳しい説明はレオナにさせるわ」


「え!? 私か!?」


「ああ。だから俺が行く必要はないだろう」


「い、いえっ!! あの、リーンフェルト伯から褒美も出ると思いますので……!! それに、伯爵は絶対にギルガ様にお会いになりたいと思うかと……」


 え、マジ? これ断れない感じか?


 俺は嫌々ながら、仕方なく頷いた。


「そうか。なら、最初に領主に言っといてくれ。俺は一身上の都合でへりくだった態度は取れねぇが、それでも良ければ会ってやるとな」


 こっちの領主は人格者らしいが、俺が貴族じゃないからと舐めた態度取られたら……少なくとも、領主は代替わりすることになるだろう。


「一身上の都合……(やはり、ご自身が竜人の王族であるから、他国の、それも人族の貴族程度には、たとえ挨拶でも頭は下げられない……そういうことですね)。ええ、分かっています。ギルガ様のお立場については、それとなく伯爵に説明しておきますので……むしろ、伯爵の方が気を遣う立場ですわ」


 俺の立場について説明しておく?


 俺の立場って何、と思ったが、「伯爵の方が気を遣う」という言葉で全てを察した。


 なるほど。俺が一人で容易く侯爵さえ滅ぼせる暴力の持ち主だと、伯爵に説明しておくってことか。地位や権力でどうにもならない相手だから、伯爵も大人しくなるだろう、と。


「ああ、そうしてくれ」


 俺は頷き、そしてティアとアナベルと別れた。


「はい。名残惜しいですが、しばしの間、お元気で、ギルガ様」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る