第43話 「格の違いを教えてやる」
「行くぞ行くぞ真っ直ぐ行くぞぉッ!!」
「真っ直ぐ!? 真っ直ぐとはギルガ殿!?」
「つまり――こういうことだぁッ!!」
俺たちは地下の宝物庫から一階に上がると、姫様を一刻も早くお救いするべく、大勢の人間たちが集まっている場所へ向かって、「真っ直ぐ」に進んでいった。
途中、邪魔になる壁は全て正義キックでぶち抜いていく。
そうして程なく、鎧に身を包んだ騎士どもが整列する訓練場らしき場所に出た。
特に探すまでもなく、なぜかネグリジェ姿の姫様を見つけたので声をかけておく――と。
む!? 何だあの変態は?
姫様のすぐ傍に、なぜか黒のブーメランパンツ一丁のハゲでデブなおっさんを見つけた。
問うまでもなく一目見れば
「さあ! 我がオワタ騎士団よ! あの下郎どもをぶちのめせ!!」
我がオワタ騎士団? まさか騎士団長……なわきゃねぇから、あれがウンコ領の領主、バッド・クソウンコ侯爵か(うろ覚え)。
まあ、何でも良い。
全員ぶちのめして、さっさと姫様を回収後、撤収だ。もうこの城の中に用はねぇ。
侯爵の指示に騎士どもが一斉に武器を抜いたのを見て、とりあえず正義ファイアで骨まで焼いとくかと決めた直後、
「――お前ら待てッ!!」
何か目つきの悪い兄ちゃんが叫んだ。
細身だが引き締まった体格の男だ。
「む? ゼロスよ、なぜ止める!?」
「まあ、落ち着けよ、侯爵サマ。今、全員で突っ込んでたら、たぶん、俺以外の全員が死んでたぜ?」
「なにっ!?」
ざわり、と変態侯爵と騎士どもの間に動揺が走った。
「――ギルガ殿」
と、奴らが動揺している隙に、背後からクレイグが小声で告げてくる。
「お気をつけください。なぜかゼロスと呼ばれていますが、あの男が、以前お話した『血風刃』のゼピュロスです……!! かつて問題を起こさなければSランク確実と言われていた、元凄腕の冒険者ですよ……!!」
「…………」
『血風刃』のゼピュロスか……え、誰? 話って何のこと?(忘却の彼方)
「俺には分かる。そこの赤髪のアンタ、とんでもなく強ぇだろ?」
ゼピュロ――長いな。ゼロスで良いか。ゼロスとやらは一人、前に出てくると、俺と対峙するように向かい合い、言った。
「見たところ、凄腕の大剣使いといったところか。ほう……!! しかも背中のその大剣、まさか竜牙剣か……!? 良いねぇ!! ちょうど探してたんだ、ドラゴンの牙で作られた剣をよぉ!! この国からドラゴンキラーが失われたと聞いてがっかりしてたが……くっくっくっ! 俺は運が良いぜ……!!」
「…………」
この男、どうやら俺が騎士どもを殲滅できるくらい強いとは気づいているようだが……魔力感知はできないタイプか。たぶん、戦士の勘みたいなもので気づいたんだろう。
男自身の魔力は、ほぼ姫様と同程度。うん、普通に雑魚だな。
「おいゼロス! いい加減に説明せんか!! どうするつもりだ!?」
侯爵の詰問に、ゼロスが答える。
「全員でかかっても、無駄に犠牲が出るだけだ。おそらく……あの赤髪と戦えるのは俺だけだろうからな。たぶん、俺とあいつの戦いの余波だけで、近くにいたら全員死ぬぜ? だからまずは、俺が赤髪を倒す。他の奴らの出番は、その後だ」
「ふんっ……なるほどな。しかし、そんなに強いのか、あの男は?」
「くくくっ、俺も今まで会ったことがねぇくらいにはな。どうやら本気を出すはめになりそうだ……!! そういう意味でも、他の奴らが周りにいたんじゃ邪魔だ。巻き込んじまうからな」
「ぬぅ……!! そこまでか……!!」
「つぅわけで――おいアンタ! まずは、俺とアンタの一対一で戦おうや。アンタも余計な犠牲は望んじゃいねぇだろ?」
一対一? いきなり全員燃やしたらダメかな? いやしかし、あんまりあっさり片付けると、俺が救出に来た有り難みが薄れる可能性も……。ここは適度に「働いた感」を演出する方が「目的」のためには得策か……。
実は今回の件において、最後の目的である……「姫様と仲良くなってロイヤルコネクションでキラキラいっぱい集める作戦」のためにも。
そう!
この城の中にあった、レスカノールの宝飾店では置かれていなかったような高品質キラキラを見て、俺は気づいたのだ! 本当に良い物を手に入れるには、金だけでは足りない。コネクションが必要だと!
だが、俺自身がコネクションを築く必要はない。既にあるところから利用させてもらえば良いのだ。
それすなわち、姫様のロイヤルコネクション!
ゆえに俺は、ここで姫様の好感度を稼いでおこうと考えたのだ!
まあ、報酬は報酬で貰うんだけどね。それとは別にってことだよ。
俺は一歩前へ進み出て、ゼロスに答える。
「良いだろう……格の違いを教えてやる」
「くくっ、言うねぇ……!!」
対峙する俺とゼロス。
その周囲から、レオナたちもクレイグたちも騎士どもも変態侯爵も姫も、巻き込まれないように自然と離れていく。
そうして戦いの準備が整ったところで。
「じゃ、始めっか――」
言い終わるかどうかという瞬間、ゼロスの手が素早く動いて腰の剣を引き抜こうとしたので、こちらも行動に移った。
火系統魔術――【ファイア】
「――――っ!!?」
予兆もなく一瞬で発生し、一瞬で飛翔し、一瞬で距離を詰める【ファイア】。
だが、驚くことにゼロスは反応してみせた。
「甘ぇッ!!」
引き抜かれた剣が下から上へ閃き、【ファイア】の火球が真っ二つに両断される。
「――お前がな」
「なッ!!?」
しかし、俺は両断された炎を操り、両側からゼロスへ叩きつけた。
轟っと、激しい火柱が上がり、ゼロスは炎に包まれた。
そして――、
「ゼロスっ!?」
「やったわ!!」
侯爵とエルフが同時に声をあげる。
瞬間、俺はゼロスを仕留め損なったことを理解した。
奴の全身を包んでいた業火はさらに激しく燃え盛ると、しかし、竜巻に巻き上げられるような軌道を描いて、空高く吹き飛んでいく。
そうして炎の中から姿を現したゼロスは、冷や汗を流しているものの無傷だった。
上段に振り上げられたままの剣を見て、俺は奴がなぜ死んでいないのかを理解する。
「魔人剣か……気色の悪い剣を使いやがる」
奴の握る剣は、その剣身にどくんどくんっと明滅する、どこか生物的な青白い光の脈動を張り巡らせていた。
実際見るのは初めてだが、魔人剣のことはジジイから聞いて知っている。
何でもかつて、その使用者が一人でドラゴンを殺した逸話がある剣だとか。
魔人剣を使っていたのは魔族という人類種族で、ドラゴンを倒して調子に乗っていたから何体かのドラゴンたちで、魔人剣とついでに魔族どもを破壊&虐殺して回ったことがあるらしい。
結果、その頃、人族とバチバチの戦争を繰り広げていた魔族は、圧倒的有利な情勢から大敗北へと転じ、一時は絶滅寸前にまで追いやられたとか。
おそらくあの魔人剣は、その時、運良くドラゴンに見つからず残った者なのだろう。
ちなみにこの話、ドラゴンに人類という種族に対して危機感を抱かせることなく終わった。
なぜなら――魔人剣は魔族が作った物ではないからだ。
「なん、だ……っ!? 今の魔術は!? 準備時間なしで高位魔術……いや、それ以上の魔術を発動だと!?」
険しい顔でゼロスがこちらを睨む。
まあ、超高位魔術じゃなくて基礎魔術だからな。それに準備時間も人間形態なら1秒の10分の1くらいはある。
「っていうかてめぇっ、魔術も使えるタイプかよ……!! もしかして、東門を吹き飛ばした術師もお前か!? そっちのエルフがやったのかと思ってたのによ……!!」
「ふっ、だったらどうした? お前ごとき、剣を使うまでもないんだよ」
俺の剣技は強いぜぇ?
何せ……もう4日くらい(1日1時間)は鍛練を積んでいるからな!!
「それに、どうせならハンデをつけてやる。これからも、剣を使わないでやろう……!」
「ぐっ……!! 調子に乗んなよ、このモブがぁッ!!」
唐突にキレるゼロス。
「てめぇの切り札が俺には効かなかったことを忘れてんのかッ!? さっきの魔術で俺を倒せなかった時点で、てめぇの敗北はもう確定してんだよッ!! この俺を舐めてんじゃねぇッ!!」
「…………。確かに、な」
俺は頷いた。
「認めよう。お前は強い。殺すつもりの俺の挨拶を受けて、死ななかった人間はお前が初めてだ」
「当ったり
「喜べ。お前の評価を『
「――――は? ……何、つった? てめぇ……ッ!!」
血走った目を見開き、ビキビキと、額に血管を浮かび上がらせぶちキレるゼロス君。
だが、これは俺からの最大限好意的な評価だ。敵対してきた雑魚に対しては。
地味に初めてのことじゃないか? 人間相手に、ほんのわずかでも「戦い」という意識を持つのは。
「ほら、もう一度、行くぞ?」
微笑み、優しく告げて、俺はもう一度魔術を行使する。
残念ながら、ゼロスに【ファイア】は効かないようだ。ならば、俺が選択すべき手段は一つ。
火系統魔術――【ファイア】×50!!
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