第13話 「パワーを金に変えて食っていく」
俺の御立派様を見せろと騒ぐマチネを放置し、話を進めることにした。
「ところで、解体はどれくらいで終わるんだ?」
俺が台の上に出した魔物は、狼の魔物を含めて8体だった。
かなり広い台だが、大部分を占有しているそれらを見て、ドワーフの老人――ガンズはヒゲをしごきながら答えた。
「あー、そうだな……この量だと流石に今日中には終わらんぞ。この札を持って明日また来い。朝までには解体と査定を終わらせておく」
「そうか。分かった」
渡されたのは木製の札で、そこには番号が記されていた。番号札だな。
とりあえず【亜空間収納】に仕舞っておく。
これで用事は終わった。もうすぐ夕方だし、そろそろ宿を探すかと考えていると、マチネがぐいぐい腕を引っ張りながら声をかけてきた。
「ギルガさんギルガさん!」
「何だ? 御立派様なら見せねぇぞ」
「その御立派様……? というのも気になりますが、それは何時か見せてもらうとしてですねー」
「「……」」
俺とガンズは思わず黙った。
ガンズも御立派様が何なのかは気づいているらしく、アホの子を見る目をマチネに向けている。
こいつ、いつか本当に見せてやろうか。
「今日はこの後どうするんですか? さっそくギルドで依頼とか受けちゃいますー?」
「今日はもう遅ぇだろ」
「じゃあ、明日が初仕事です?」
「いや、明日は買い物したり街を見たり、色々する予定だ。あくせく働きたくないからな」
「ええー? ルーキーさんなのにやる気ないですねー?」
「俺はできるだけ働かずに大金を稼いで暮らしたいと思っている」
「それはダメ人間が言いそうなセリフですよ!?」
まあ、そうかもしれない。実際、前世の俺がそんなことを言ったら現実を理解していないダメ人間だと思われることだろう。
しかしながら、今の俺になら十分に可能だと思っている。
俺はドラゴンだ。はっきり言って超強い。人間と比較すれば桁外れのパワーがある。俺はこのパワーを金に変えて食っていくつもりなのだ。
テキトーに魔物を狩ってれば、余裕で暮らせるくらいの金は稼げるはずだ。何だったら兵士たちから回収した武器や防具以外にも、売れる物は色々とあるしな。
「もうっ、ギルガさんはもう少しやる気出してくださいねー! ――ということで、このレスカノール支部の敏腕受付嬢マチネさんが、ギルガさんにちょうど良い依頼を用意して待ってますので、明後日、二の鐘が鳴ったらギルドに顔を出してください!」
「敏腕受付嬢?」
「そこに疑問を持たないでくださいよー! こう見えても私、ギルドでは皆から結構頼りにされちゃってるんですからね!」
ああ、社交辞令を真に受けちまうタイプか。
「っていうか、その依頼は楽して大金稼げる依頼なんだろうな? 面倒臭ぇ依頼なら受けねぇぞ」
「ダメ人間の発言!? 楽して大金稼ぐなんて、世の中そんなに甘くないですよ、ギルガさん! メッ、です! でも報酬はFランクじゃ普通稼げないくらい高いですから、期待していて良いですよ!」
「ふ~ん」
じゃあ、話だけでも聞いてみるか。
「で、二の鐘って何だ?」
「あれれ? キプロス温泉街では鐘が鳴らないんですかね?」
「聞いたことないな」
知らんけど。
「それじゃあ、説明しますね。えっと、この街では毎日時計塔から鐘が鳴らされるんですけどー……」
と、マチネが説明していく。
話が長いので簡単に要約すると、この街では午前6時から午後6時の間まで、3時間置きに計5回、鐘が鳴らされるらしい。朝6時の鐘が一の鐘と呼ばれており、朝9時の鐘を二の鐘と呼ぶのだとか。
意外だったのだが、どうもこの世界、すでに機械式時計が発明されているようだ。
この世界には人間よりも手先の器用なドワーフなんて種族もいるし、すでに時計が作られていてもおかしくはないのか。確か地球でも13世紀には時計塔が発明されたらしいしな。
ちなみに、この世界でも1日は24時間らしい。ジジイの話では1年も365日に4年に一度の閏年で、完全に地球と一致している。
かといって、実はこの星が地球でしたってオチはないだろう。何しろ月が二つあるしな。
「――というわけで、明後日、二の鐘が鳴ったらギルドに来てくださいね? ギルガさん、聞いてましたー?」
「ああ、聞いてた聞いてた。二の鐘の後にギルドに行けば良いんだろ?」
「そうです。お願いしますね?」
「おう」
頷き、俺は解体所を後にした。
●◯●
翌日、宿で一泊した俺は朝食を終え、チェックアウトしてから街へ出た。
ちなみに泊まった宿は「猫の足音亭」という店名の、ちょっとお高い宿屋だった。泊まっている者たちの客層を見るに、明らかに駆け出しではない、装備の整った女冒険者たちが多く泊まっている印象だった。
清潔で料理もそこそこ美味く、何より別料金を取られるが風呂に入ることができ、これまた別料金だが洗濯のサービスもあるらしい。
そんなわけで、そこそこ稼いでいる女冒険者たちには人気の宿なのだろう。
俺も汗くさい野郎どもと雑魚寝の安宿や、治安が悪かったり不衛生だったり飯が不味い宿には泊まりたくなかったので、ここに泊まった。料金は一泊銀貨3枚と、冒険者の登録料と同じだった。
昨日他の宿も少し調べてみたが、安いところでは銅貨5枚以下のところも多く、そこそこ清潔そうなところでも銀貨1枚だったことを思えば、かなり高い値段設定なのだろう。
それから宿を探す過程で、貨幣の価値もさらに判明した。
鉄貨10枚で銅貨1枚。
銅貨10枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚らしい。
ちなみに硬貨は全て合金で、貴金属の量が10枚で上の価値の硬貨とだいたい等価になるよう調整されているっぽいな。ドラゴンの財宝の価値を知る審美眼で判った。
金貨の金の含有量が意外と低かったのは、悪貨というわけではなく調整された結果なのかもしれない。
そして市場でリンゴみたいな果物が売っていたのだが、それが1個鉄貨3枚だった。パン屋もあったので見てみたが、一番安いパンで1個鉄貨2枚。
しかしそう考えると、昨日屋台で買った串肉は結構高い物だったような気がする。銅貨2枚だからな。もしかしなくても、塩や香辛料を贅沢に使っていたからだろうか。
え? いや、だとすると街に入る時に払った税金も結構高くね?
街に入るだけで銀貨1枚って舐めてるだろ。冒険者ギルドのカードを提示すれば入市税は取られないとマチネから説明されたが、微妙に納得できない。ギルドカードじゃなくても、身分証か何か提示すれば、もっと安くなったのだろうが。
「まあ、普通に食ってくだけなら、そんなに金は掛からんか?」
宿に泊まっている間に、兵士どもから回収した硬貨を数えてみたのだが、金貨が36枚に銀貨が71枚、大銀貨が8枚、銅貨が102枚に大銅貨が25枚、鉄貨が39枚あった。
とりあえずこれだけあれば、「猫の足音亭」にしばらく泊まっていても、そうそうに金が尽きることはないだろう。
「それに、今日も収入があるからな」
時刻はたぶん、二の鐘とやらが既に鳴っているので、9時過ぎ。
俺は朝の都市内を西門の方へ歩いていき、冒険者ギルド横に建つ、解体所へ入った。
さすがにこんな時間から獲物の解体を頼みに来る者は少ないのか、解体所の中は空いていた。
カウンターまで進み、職員たちに大声で何やら指示をしているガンズを見つけたので、呼ぶ。
「ガンズ! 来たぞ!」
「――ん? おう、何じゃい、来たか!」
ずんずんと筋肉質な体を揺らしてガンズが来たので、預かっていた番号札を返却する。
「んで、解体と査定は終わってんのか?」
「おう、終わっとるぞ。で、ギルガよ、お前さん、素材は全部売却で良いのか?」
「ああ、全部買い取ってくれ。幾らになった?」
「うむ、税金分と解体手数料を差し引いて、全部で金貨12枚に銀貨4枚、銅貨8枚じゃな」
「なに?」
正直、驚いた。
街道で倒した魔物は黒い毛皮の狼3体に、槍の矛先みたいな角が生えた鹿が2体、そして人間の子供くらい大きな蜂の魔物が3体だった。
はっきり言って、俺の縄張りであり火山に生息していた熊や猪などより、かなり弱い魔物ばかりだ。
それがたった8体で金貨10枚超えとは……もしかして冒険者の稼ぎって、俺が思ってるよりも多いのか?
「何じゃ、不満か? 買い取り金額の交渉には応じんぞ」
俺の表情を勘違いしたらしい。不機嫌そうにガンズが言うので、誤解を解く。
「いや、不満はねぇよ。むしろ、ずいぶん簡単に稼げたから驚いてたんだ。冒険者ってのは儲かるんだな」
「ふむ……勘違いしておるようじゃな。普通、こんなに儲からんわい」
「あん? そうなのか? あんまり苦労した感じはしねぇが……」
「いや、そもそも魔物の死骸を8体も運べんじゃろ? 普通は魔物を倒しても自分たちで運べる範囲で、高く売れそうな部位だけその場で解体して持ってくるもんじゃ。1体2体ならともかく、お前さんのように8体も丸々持ってくる奴は、高位冒険者で拡張鞄を持っておる奴くらいじゃわ」
言われてみればそうか。
となると、【亜空間収納】を使える俺は他の冒険者より圧倒的に有利ってわけだな。【亜空間収納】なら素材も痛まないし。
「ふぅ~ん、なるほどな」
「ま、儂らとしても下手に解体された素材を持ち込まれるより、死骸を丸々持って来てもらった方がありがたい。これからも魔物を倒したらそのまま持って来てくれい」
「まあ、ぼちぼちな」
俺はガンズから素材の売却金を受け取り、解体所を後にした。
「さて……色々見て回るか」
日用雑貨とか着替えとか、色々買い物する必要もあるしな。
そのついでに観光とかしよう。観光できるような場所があるか知らんけど。
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