第12話 好みの女の人がゲロの音と汚い咳払いをする光景

 女たるもの、トイレでゲロを吐く音を聞かれたくはないだろう。また、女たるもの、オヤジ臭い下品な咳払いを他人に聞かれないようにわざわざかわい子ぶって、ケホ♡ とかいう物足らない咳払いしかできないだろう。


 だが内田さんは違う。


 1ヶ月前、内田さんはトイレでゲロを吐こうとした。しかし曰く「出なかった」。さて、トイレのドアは薄いので外に丸聞こえであった。その音を聞いたとき、私は、女が有する一面を新たに発見したと感じた。その新鮮さたるや(最初の2、3秒はきたねぇと思った)!

 内田さんは、よく仕事中にいきなり声を出す。その声が世界最高水準の質ゆえに私はそれを毎日でも聞きたい。しかしそれ以外にもある。内田さんは女であるにも関わらず、何のためらいもなくゲホとかググンなどと、お世辞にも女らしいとは言い難い咳払いすることが可能である。それは、鉄工所勤務の汚らしくてむさ苦しいオッサンが昼休みにタバコを吸っている時に、喉の中が心地悪くなってゲホだのグエだのと咳をする、そういうきったねぇものに喩えられるだろう。


 そんな内田さんが良い。

 何故ならば無防備だからだ。


 無防備な女ほど美味しいものはない。


 *


 この感情を内田さんに知られたら嫌われること間違いなし。よって毎日、マスクの内側で声を押し殺し乍ら笑っている。

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