第7話 王城へ
馬車の窓から見える、美しい建物に街を歩く綺麗な格好をした生き生きとした人々。
……これがレイラが王都の街を見て感じた第一印象だった。
王都に来るのが初めてで完全なおのぼりさんであるレイラは窓から見える目まぐるしく変わる景色を窓ガラスに張り付くようにして眺めていた。夕方の王都は人々が帰宅途中に夕食などの買い物をして帰るようで結構な賑わいだった。
すると前からクスリと笑い声が聞こえた。
「……ここまで食い入るように街を見ている人を初めて見るよ。王都が初めての者でも他所者と気取られぬように知ったかぶりをする事も多いようだからね。……依頼が済めば私が街を案内しよう」
「……少し、珍しいだけです。お気になさらず。ご依頼は到着して直ぐに、ですか?」
レイラはこの油断ならない貴族とこれ以上一緒にいる気はない。確かに初めての街は1人では危険かもしれないが、公爵家嫡男であり自分の住む街の領主であるこの男に街を案内させるなどとんでもない。
アルフォンスが自分を気に入ったようなのはこの2日で肌で感じている。そしてレイラは自分がそれなりに人から気に入られるような外見をしているのも分かっている。
今まで学園時代などでもレイラと付き合いたい、もしくは愛人になどと考える男性は多くいた。
外見だけでそういう目で見られるのは本当に嫌で、そんなのも真っ平御免だった。そして大概そういう男性はレイラの性格を知ると思っていたのと違うと言ってくるのだが。
……知らんがな。自分の理想を勝手にこちらに押し付けないで欲しいと心から思う。
そんな事を考えながら冷めた目でレイラが言うと、アルフォンスは少し残念そうにした。
「……そう? 気が変わったらいつでも言って。
それから到着したら身なりを整えてすぐに依頼者と会って欲しい。あの方があの状況になられてから既に2週間以上経っている。……本当に藁にもすがる気持ちなのだよ」
最後の真剣な様子に、公爵家の方もそれ程心を砕く相手なのかと少し意外に思った。
……そして、2人が乗った馬車は王城の門の前に到着した。
公爵家の馬車は誰何すいかされる事なく王城の正式な入り口に入った。そしてレイラはアルフォンスに手を取られ馬車から降り、王城の中に入る。
レイラの大きな薄紫の瞳はこの壮大な王宮を映し出した。
……デカイ、広い、凄い、ムダに豪華過ぎるだろう。
レイラは出来るだけ平然とした様子を取り繕ってはいたが、内心自分の身に起こっているこのあり得ない状況に焦りまくっていた。
そしてアルフォンスととある一室に入るとそこには数人の女官達が2人を出迎えた。
「……それではここで軽く身だしなみを整えて。30分程したら迎えに来る。
……後は頼む」
最後の一言は案内されたこの部屋にいる女官達に言ったようだ。
……というか、ブレドナー様は30分好きだな!
なんてレイラが考えているうちに、あれやこれやとそこそこ小綺麗な貴族令嬢のように仕立てられたのだった。
まあ一泊した先でも綺麗にしてもらっていたので、それを更に王族に会うに相応しく仕上げてもらった感じだ。
そしてほぼ30分後、アルフォンス ブレドナーは部屋にやって来た。彼も貴族としての正装をしている。
アルフォンスはレイラを見て嬉しそうに微笑む。
「……うん。とても綺麗だ。これなら私の隣に並んでも全く見劣りしないね」
……何故、ブレドナー様の隣にいる事が前提なんだ。そして見劣りってなんだ。
レイラが不服そうにアルフォンスを軽く睨むと彼は苦笑しつつ腕を差し出した。腕を組め、という事らしい。
「……腕、組む必要ありますか? そもそもが並んで行く必要性も全く感じないのですが……」
レイラがそう言うと、可笑しそうにアルフォンスは笑った。
「そんな風に言われるのは初めてだよ。レイラ、貴女はとても愉快な女性だね」
「愉快? ですか?」
レイラのこんな対応に『不快だ』とは言われた事はあるが、『愉快』だなんて言われるのはこちらも初めてだ。
「……私も、そんな風に言われるのは初めてですよ。ブレドナー様は不思議なお方ですね」
そう言うと、アルフォンスは更に楽しそうに笑った。
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