虚空

やと

第1話

私の心の中はいつだって虚空のように死んでいたけれどその虚空に一本の腕が空から伸びてきた、それに手を伸ばしたことによって私の心に少しだけ明るさが照らされた。

高校生活薔薇色と言えなくとも友達はいるし学校に居場所があるのでそれとなく楽しめてる。けれど学校に居場所がない人もいるだろう、それが学校と言う一つの場所だけじゃない家にも居場所がない子もいるそんなこと普段は考えないけどそれを頭の中で考えてしまう事態が起きてしまった。

バイト終わり雨が土砂降りで傘をさすが圧倒的に雨の中で歩くのが面倒くさいそんなバイト終わりの疲れが残りつつ家まで歩いて家に近い公園がふと目に入った。

そこには同じ制服を着た女子高生がベンチに傘もささず座っていた。こんな天気でしかも時間ももう十時を回った時間帯に一人でいるなんて変だと思いつつ立ち去ろうと思った瞬間女子高生の目から涙が流れた、普段こんな面倒くさそうなことに首を突っ込むのはしないし警察がなんとかするだろしなぜだか彼女の涙見過ごすことが出来なかった結果気付けば彼女の前に立っていた。

「何してんの?」

そう言っても彼女が口を開く事はないしこっちを向くどころか目を合わせようともしない

「帰らないの?」

なにも言わない事でもう諦めて帰ろうかと思った時彼女が口を開いた

「帰れない」

そうポツンと一言、もしや家出かなんかと思ったので素直に口に出てしまったが直ぐに後悔することになる

「家出でもしたのか?」

「家がなかった」

言ってる意味が分からなかった。

「家がない?ってどういうこと」

「分からない、でももう帰る家がなくなってた」

今一まだ理解ができないけどこのままじゃまずいだろうこのままだと警察に補導されればいいが変な奴に連れてかれたなんて事になれば味気悪いし素直に寝ることもできないだろう。

「じゃあ俺の家くる?」

そう言うと不安が顔に滲み出てくる顔で僕の方を見てくるのでなんか悪いことしてる気分になる。

「いいの?」

「うん、まあ家は広くて一人じゃ寂しいからな」

一般論で言えば警察の補導に任せるべきなのだろうけど同じ制服で次学校に行って生徒が犯罪に巻き込まれたなんて言われたら面倒で嫌な気分になるのでこれは仕方ないし幸い家に親はいないので都合が良い。しばらく雨のなか歩いて家に着いたのだがその際なにも喋らなかったのでなんだか雰囲気が暗くとてもじゃないが女の子と二人でいると言う状態でも楽しくはないものだった。

「着いたよ」

うちの家のマンションを見た瞬間に彼女が目を輝かして驚いていた

それも彼女の家の状態がどのようなものかは分からないが俺の家は普通よりはお金に余裕があるほうだ。親も今は海外にいるのでみしらぬ誰かが家にいても大丈夫なので都合が良い。

マンションの入り口二は入りエレベーターに乗って階のボタンを押した瞬間に彼女が驚いた様子で声を出した。

「え」

「ん?どうした?」

「いや、こんなマンションで最上階に住んでるんだ」

「まあ親が金持ちなだけで海外に住んでるから殆ど帰ってこないけどね」

羨ましいそうな目で家の中を見回してる。でも住んでる側からすると羨ましくともなんともない広い部屋で一人なんて寂しさが済んでいくものだ。

「適当に座っていて、今タオル持ってくるから」

適当に部屋にあるタオルを持って彼女に渡す。それと梅雨の時期や冬など寒くなるとあるスープを僕は作る、それは僕が風邪を引いたりすると決まって母さんが作ってくれたトマトベースのスープを一緒に彼女に渡す。

「はい。飲むと温かいから飲んでごらん」

「有り難う御座います」

そう一言髪をタオルで吹いて一口飲んだ瞬間に彼女の目から涙が溢れた

「どうした?もしかしてトマトだめだった?」

なんで彼女が泣いてるのか分からずあたふたしていると彼女が口を開いた

「違うの、美味しい。こんなに口に入れるのが美味しいって思えたの初めてだったから」

「そっか、まだあるからゆっくり飲んでね」

「うん」

彼女がそう言う環境で過ごしていたのかは分からないけど思い当たる節はあるだから僕は一つ覚悟を決めた。

「帰る場所ないって言ったよね」

「うん」

「じゃあこれから一緒にここで暮らさない?」

「でもそれじゃあ貴方に迷惑が」

彼女が最後まで言うのをそししても言わなければと思えた

「ここには僕と君以外誰もいない。だから君を縛るのものはなにもないんだ、だから安心して」

「うん」

彼女から溢れんばかりの涙が流れるこれは不安から出るようなものではなく純粋の透明で何の混じりもない綺麗な涙だった。

「まだ名前聞いてなかったね、僕は橘薫」

「私は桜川結衣」

「じゃあお風呂沸かしたから先に入ってきな」

「分かった」

お風呂の場所を教えて今日の夕飯であるカレーを作りながらと言っても昨日の残り物だけどカレーは二日目が美味いって言うしまあいいかと考えながら火を入れて混ぜる、でも桜川って名前どっかで聞いたことがある同じ制服だったし後輩か先輩か同じ学年で交友がない人も普通にいるしそのどれかに当てはまるのだろう。お皿にご飯を盛りカレーを移したその時お風呂の方から声がした。

「あの、すいません」

「どうした?」

「着替えがないんですけど」

「あー、ちょっとまってねなんか持ってくるから」

完全に忘れてた、急いで母さんの部屋に行って何か着る物がないか探したけどなにも無い。多分全部海外に持って行ったのだろう、母さんは服に興味が無く殆ど服なんて持ってなかったしどうしたものかと考えた末にしょうがなく自分の服を適当に持って行く事にした。

「ごめん、僕の服しかなくてこれでよかったら」

「有難う御座います」

扉一枚向こうにお風呂上がりの女性がいる事で少し意識してしまうがそんな感情で彼女を助けた訳ではないと邪な考えを捨ててキッチンに戻る。

しばらくして彼女が僕の服を着て出てきた。やはり少しぶかぶかで着てるがそんなことはどうでも良いと思わせるルックスを彼女は持っていた。これは連れてきて正解だったようだこんな華奢で美人の女子高生なんて変なおじさんに連れてかれたら大変だ。

「あの、なにか変ですか」

「いや、やっぱり服でかいね」

「そうですね、でも有難う御座いますあとゴム借りてます」

「ああ大丈夫だよ」

それから僕もお風呂に入って一緒にカレーを食べた。

「そう言えば学校一緒だよね?」

「そうですよ」

「じゃあ明日休みだし買い物しに行こうか」

そう言うとご飯を食べて顔色が良くなった気がしたけど一気に少し顔が暗くなる

「でも私お金ないです」

「そんな事?」

「そんな事って大切ですよね。今は返せないし何より迷惑が」

「大切だけど迷惑なんて思ってないよそもそも人は人に迷惑掛けないと生きていけないんだから。それに僕バイト以外にも親に生活費貰っててそれが結構あるんだよね」

「お金持ちなんですねでもそれならバイトする必要ないんでは?」

「僕の親心配性だから毎月結構な額振り込まれるんだ。でも人から見たら確かにバイトしなくても良いかもしれないけど結局高校や大学出て働くってなったらバイトしてたかとか大切だと思うんだよ、そこでしか得られないものもあるしね。それに貯金も大事でしょ?いつか此処を出た時親にあの時の生活費だって丸々返してやるって決めてるから」

「立派なんですね」

「そう?」

「はい。それに橘さんはなにも聞かないんですね」

「聞く必要ないって思ってるし、そりゃあんなとこで一人でいて帰る場所がないなんて気になるけど話さないってことは話したくないのかもしれないしそこら辺は桜川さんが話しても良いかなって思えた時に言ってくれればそれでいいよだって人には話したくても話せない事もあるだろうし」

そう言うと少し顔色が戻って安心したように最後の一口を口にいっぱいにほうばった。

そうして食器を洗って。使って無かった部屋を片付けてそこで寝泊まりするように言ってとても濃い夜が過ぎていく。

「おはよう」

「おはよう御座います」

「早いねまだ六時くらいなのに」

「いつも五時に起きてるので」

「それは早すぎるのでは?」

少し恥ずかしそうに

「久しぶりに布団で寝たので」

「そっか、ふかふかだったでしょ」

「はい」

少しの恥じらいと笑顔が見れただけでとても良い事をしたと思えた

「そう言う橘さんはこんな時間にパソコンでなにやってるんですか?」

「小説書いてるんだ」

「凄いですね、じゃあ先生ですね」

「そう言われると照れるけど小説は中学の頃から書いてるんだ、まだ時間早いし少しゆっくりしてて」

そう言われて彼女はソファーに座っていたがしばらく目を離してまた見るとそわそわしていた、まあみしらぬ家にきて突然ゆっくりしててって言われても無理があるかと思ったのと同時に引っ越ししたての子供のように見えて可愛らしく思えた。

「何か飲む?」

「はい」

「なにが良い?」

「なんでも構いません」

少し考えてじゃあこれって出すことも出来たがやめた

「そうじゃなくてなにが好きなの?ここには基本的には揃ってるしこれから一緒に住むんだから桜川さんの好みも聞きたいし」

「じゃあオレンジジュースで」

「了解」

しばらく僕は執筆に集中しているとテーブルに朝食が並んでいた

「準備してくれたの?」

「はい、勝手にすいませんそれに集中されてて声をかけていいものかと」

「いやありがたいよ」

朝食を済ませて出かける準備をした。

「何処へ行くのでしょうか?」

「んー一番近くてなんでもあるのは渋谷か原宿かなそれに行きたいとこもあるし」

しばらく電車に揺られて渋谷に着いて彼女の服や化粧品などを何度も謝られながらもういいのにっておもいながらも彼女なりの気持ちもあるのだろうとその度に大丈夫だと伝えた。

「じゃあ時間だし行こうか」

「何処へ行くのでしょうか?」

「僕がいつも通ってる美容院」

「そこまでしてもらわなくてももう大丈夫です」

「でも前髪邪魔じゃない?この際イメチェンしようそれに此処の近くにとても美味しいジンギスカンのお店があるんだよ」

「じゃあ」

そう呟いて僕の隣に来て彼女は歩き始めた、彼女とか出来ればこう言うことも出来るのだろうかと思った。

美容院に着いていつも僕を担当してくれる人に頼んで女性の注文とか分かんないしそこは任せて僕は近くのカフェで執筆をして時間を潰した。

一時間くらい経ったくらいにラインが来た。どうやら終わったらしく美容院に行くと店の前で彼女は立っていた。完全に目元まで隠れていた髪は綺麗に整えられていて一層に美人になっていた。

「どうですか?」

「とても似合っているよ」

そこからジンギスカンを食べて家に帰った。そこから彼女の生活品の場所などを決めていたら時間は随分遅くになって明日も学校なので早めに寝る事にした。

次の日は彼女の方が早く起きていてまた朝食を作ってくれた。彼女はいつもの眼鏡ではなく昨日の買ったコンタクトにしてとても楽しそうにしていた。

そして同じ時間に同じ制服で学校まで行き教室まで行くと彼女が自身に満ちた学校生活をしているだろう女子生徒に

「すいません」

と一言言うと教室中に驚きのどよめきが響いた。僕自身も驚きを隠せない、だってつい先週まで誰とも話しているところをみたことがない人間が随分と変わった様子で同じ席に座ったのだ。

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虚空 やと @yato225

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