おままごとする人いなくなっちゃった
我愛你
おままごとする人いなくなっちゃった
いつからおままごとをしなくなったっけ。土曜日の朝に娘がおままごとをしてるのを見ながら僕はふと、そう思った。子供の時は人形を人に見立てていろんなことしてた、戦わせたり、料理を振る舞ったり。今振り返れば、なんであんなことに何時間もやり続けられたか不思議だけれど、子どもの頃はあったのだ、ぬいぐるみが喋って食事をするそんな世界が。
妻が昼食を作ってくれた。家族がいる食卓というのは幸せだと思う。一人で食べる食事よりもずっと楽しくて、ずっと美味しい。
食後テレビを見た。昼のニュースではどこかで一家全員が行方不明になった奇妙な事件についてやっていて世の中いろんなことが起きるんだなーって妻と話していた。少し怖いけど、対岸の火事みたいで不思議な高揚感を感じた。
夜、奇妙だと思った。何故そう感じたかはわからない。野生の本能か、父としての使命か、どちらにせよいつもと変わらないはずの生活が何か変わった気がした。この違和感がいつからなのか寝ながら考えるが、特にこれといった日が思いつかない、次に何か変わったかを考える。横には眠った妻と娘がいる。いつも通りだ。そういえば娘のおままごとが増えた気がする。けれど先月いくつかのぬいぐるみを買ったから、それは自然の摂理だと思うのでそれ以上考えるのをやめた。娘の寝顔を見ると幸せそうで、一生こんな人生が続けばいいなと、そう思った。
朝起きるとすでに娘が起きてお絵描きをしている。妻を起こして朝食の準備をしていると、娘が描いた絵を見せてくれた。
娘と妻と僕、家族全員の絵だった。そこに一つ何かわからない物が描いてあった。娘に尋ねるとどうやら、ぬいぐるみらしい。こんなぬいぐるみ買ったけ。
昼になると僕が昼食を作った。みんなを呼ぶ。娘がテーブルに着くと、彼女はぬいぐるみをテーブルに置いた。ぬいぐるみさんはご飯食べないから元の場所にしまおうね、と優しくそう諭した。娘は、お父さん嘘つき私食べてるの見たもん、そういって言うことを聞かない。妻が娘をなだめてる間にふとぬいぐるみを見る。やっぱり、こんなぬいぐるみ買った気がしない。少し血の気が引くのを感じる。お祓いでもしたほうがいいのだろうか。
娘がどうしても引かないのでぬいぐるみも一緒にご飯を食べることになった。昼食が始まる娘は早々に食事を終え、ぬいぐるみに食事を運びだした。さすがに止めようとおもったが、動けなかった。ぬいぐるみが笑ったからだ。そして「それ」は、僕に向けて一言。
「ひとりでおままごと滑稽だね」
気づいたら、辺りは夕暮れで、カラスの鳴き声がいやに反響している。妻や娘は、昼に僕がいきなり気を失ったのだと言っていた。ぬいぐるみのことを尋ねると最初からそんな物はなかったという。夢だったのだろうか。ちらりと、娘の朝描いた絵が目に入る。そこにはしっかりとぬいぐるみが描いてあった。無機質なその絵を見ると急に人の体温を感じたくなって娘を抱き上げた。手にかかる重量は前よりもずっと手ごたえがなかった。
ああ次は僕か。
おままごとする人いなくなっちゃった 我愛你 @housisyokubutu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます