1.自殺の絶えない世界で【完結済】/@Sainashi

https://kakuyomu.jp/works/16818093078673165872


【私がこの作品を手に取った理由】

 ジャンルは現代ファンタジーとなります。自殺の絶えない世界で自殺志願者Xの正体を突き止め、自殺を阻止するという明確な目的が提示されており、単なるファンタジーにとどまらず、ミステリーやサスペンスの要素も感じさせ、興味を惹かれました。


【私がこの作品から読み取ったあらすじ】

・主人公イシュが神的存在から少しばかりの能力、ガイド的存在を与えられ、現代日本と似ていながらもっと合理的な異世界から、現代日本のような世界の待雪という高校2年生の男の体に憑依する。

・記憶喪失を装いながら待雪の家で暮らし、高校に通うことになるが、元の体の持ち主である待雪は間接的に実の母親を殺害しているため、そのことをひどく父に恨まれており、日々暴行を受けることになる。

・イシュはそのことに理解を示しながらも、原因は元の待雪にあって自分にないものであり、納得が出来ないため、ささやかな抵抗を始めることにする。

・物語の舞台は主に高校生活にシフトし、元の松雪の人格との違いに多少違和感を持たれつつも、周りに溶け込むことに成功する。

・クラスメイトが抱える問題を、神的存在から与えられた少しばかりの能力を使用して解決しつつも、一向に自殺志願者Xの正体の糸口は掴めそうもなかった。


【私がこの作品に感じた良い点】

 プロローグから第1話の導入部にかけては、とてもよく出来ていると思いました。プロローグは『自殺なんて馬鹿のすることだ。果たして本当にそうなのだろうか』と、自殺を正当化する誰かの持論が展開され、誰かが自殺してしまいます。それに続く第1話は『自殺なんて馬鹿のすることだ。少なくとも俺はそう思っている』と主人公が述べるアンチテーゼがあり、この作者さんはなかなか良い作品を書きそうだと安心しました。

 ウェブ小説というのは玉石混交のため、少し見て不穏な気配を感じたら読むのをやめてしまうということが横行していると思われ、冒頭のかなり少ない文字数の段階で作者さんの技巧の程を読者に示すことが出来ていると思います。

 さて、そのような導入から主人公イシュは待雪の体に憑依することになるのですが、周りが全てにおいて胡散臭く感じました。どこか投げやりな神のような存在、事実を隠しているようなガイド的存在、過去の出来事により屈折した感情を待雪に持つ父、心に闇を抱えすぎのクラスメイトたち。信じられるのは自分だけという様相であり、表面的には淡々と物語は進行していきますが、緊迫感を持って読み進めることが出来ました。


【私がこの作品に感じた悪い点】

 細部については主人公や周囲の人物の心の機微をうまく表現されていてよいのですが、俯瞰して物語を見た時、序盤に強烈な印象を残した父親がフェードアウトしてしまう高校生活辺りは少し中弛み感がありバランスを悪く感じました。自殺志願者Xの正体は最後には明らかになるのですが、その人物との関係性に主眼を置いて物語を展開された方がよかったのではないかと感じました。

 また、作品の構成とは全く別次元の話となってしまいますが、第21話と第22話の間の挿話は少し驚きました。本来、作品の通読により得られるはずだった読後感を一気に奪われてしまったと感じたからです。事情もあると思いますが、心の中にしまっておくか、せめて近況ノートに書いておくにとどめておいて欲しかったと思います。書かなければ、潔く幕引きしたという好意的な解釈も存在していたと思います。

 同時にもったいないと思ってしまいました。私の持論ですが、作品は公に投稿した以上、作者だけでなく読者のものになると思っています。読者のことを考えれば、あのような挿話を入れようとは思わないはずです。パワーのある主題、それを言語化する技術があるのですから、どうか自信をもって作品を送り出してください。


【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】

・ひとこと紹介

 誰も信じられない。自殺の阻止を主題にした緊迫感ある展開。

・レビュー本文

『自殺なんて馬鹿のすることだ。果たして本当にそうなのだろうか』 

『自殺なんて馬鹿のすることだ。少なくとも俺はそう思っている』

 現代日本と似ていながらもっと合理的な異世界から、現代日本のような世界の人物の体に憑依した主人公。アンチテーゼが織りなす、少し奇妙な日常の中で、自殺の絶えない世界に塗り潰されていく様がありありと表現されている。


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 レビューは以上となります。全く個人の感想なのですが、このレビューを見られた作者さんは【カクヨムに公式に投稿する場合のレビュー内容】を公式に投稿してよいものか、ご意見をいただければ幸いです。ちなみに私がレビューする時の星は必ず★★★です。

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