僕ファイナル

@kanna0821

第1話

気がつくと真っ暗闇の中にいた。

僕は近所の学校に通う高校3年生だ。夏もそろそろ終わりに近づき、ダンス部の仲間たちと最後のステージに向けて頑張っている。昨日は練習が早く終わり、仲間とコンビニで買ったアイスを食べながら帰ってきた。

昨日もそんな、いつも通りの1日だった。はずなのに、どうして目を覚ましても何も見えないんだろう。

いやいや。一旦落ち着こう。まずは状況を把握しなくちゃ。そう思って周囲を見渡してみたが、本当に何も見えず、何も感じない。半分パニックに陥っていると、どこかから声が聞こえた。

「17歳の誕生日を迎えたら、光の差す方へ進みなさい。そして運命の人を見つけるの。そのために今やるべきことは一つだけ。分かるわよね。」

全く分からない。それに僕はもう既に18歳のはずだ。一体これは何なんだ。



突然暗闇の中に放り込まれたあの日から17年が経った。「やるべきこと」というのは分からないままだけどこの17年間とにかく叫び続けた。誰かに気づいて欲しくて、毎日毎日、僕はここだよ、と。誰も気づいてくれる人はいなかったけど。

でもついにこの日がやってきた。光を探し求める時がやってきたんだ。

僕は歩き始めた。すると、今まではどれだけ走り回っても見つけられなかった、光の差す場所がある。やっと、やっとだ。溢れそうになる涙を堪えながら、必死で光を追い求めた。


ついに僕は光に包まれた。ここはどこだろう。まだ目がチカチカしていてよく分からないが、それでもとにかく運命の人を見つけなきゃという使命感に駆られている。

でもどうすれば良いのだろうか。17年間も暗闇にひとりぼっちでいた僕に運命の人を見つける方法なんて分かるはずもない。僕は悩んだ。ものすごく悩んだ挙句、決心した。僕にできることはひとつだけ。それは暗闇で何度も何度も繰り返したあの言葉を叫ぶことだ。


「僕はここだよ!ここにいるよ!」

僕は毎日叫び続けた。声が枯れても叫び続けた。

暗闇の中あてもなく叫んでいたあの時の僕とは違う。どこかに必ずいる運命の人を見つけるんだという強い意志を持った僕が叫ぶ言葉は、どこまでも強く高く響きわたっていた。


僕の声がうるさいからと酷いことをして体を傷つけようとする者もいた。必死で声を上げる僕を指差して笑う者や、追いかけ回してくる者もいた。

でも、どんなに傷ついても馬鹿にされても、僕は叫ぶことをやめなかった。


「もう叫ばなくていいの。もう頑張らなくていいのよ。」

それは突然だった。

傷だらけの僕を抱きしめてそう言う彼女に僕は答えた。

「でも探さなくちゃ、僕の運命の人を。それまで止めるわけにはいかないんだ。」

「だから、もういいのよ。ここにいるんだから。」

優しい微笑みを浮かべた彼女は言った。


必死だった僕の気持ちが神様に届いたのだろうか。ついに目の前に運命の人が現れたんだ。

運命的に出会った僕と彼女はすぐに恋に落ちた。


それからの日々はとても幸せだった。寝ても覚めても彼女と一緒。僕らは歌声を重ね、手を取り合って踊り、愛し合っていた。輝く光の中、彼女と踊ったあのダンスは、一生忘れられないだろう。

こんな時間が一生続けばいいのに。僕と彼女の心からの願いだった。

しかし、やっと掴んだ幸せも長くは続かず、僕らの日常が崩れ落ちたのはすぐのことだった。


辺りが暗くなってきた頃、彼女と一休みしていると、突然彼女の周りに白い檻が降ってきた。あっと声を出す間もなく彼女は檻に入れられて引っ張られる。檻越しに目があった。

「助けて!!」

彼女が叫んだが、僕は身動き一つとれない。驚きと恐怖で体が固まり、命より大切な彼女が目の前で攫われているというのに何もできなかった。そして、彼女は攫われた。僕の目の前で。

僕を呼ぶ彼女の声だけが辺りに響き渡っていた。


僕のせいだ。僕が何もできなかったせいで彼女は攫われたんだ。そんな後悔と自責の念だけが頭の中をぐるぐる巡り、僕はもうしばらく何も食べていなかった。

「いい加減にしなさい。あなたが死んでどうするの。彼女のために、今できることをやるしかないじゃない。」

突然頭の中に声が響いた。17年前に彼女を探すように言った、あの時の声だった。

そうだ。その通りだ。いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。僕が彼女を見つけて助け出さなくちゃ。僕はそう決意した。


それから、僕は彼女を探す旅に出た。その旅はとても過酷で果てしない道のりだったが、僕は歩き続けた。彼女と歌ったあの思い出の歌を口ずさみながら、来る日も来る日も彼女を探し続けた。


彼女を探し求めてどれほど経ったのだろうか。

彼女の姿はおろか、彼女の匂いや痕跡、気配さえも感じられない。彼女は本当にこの世からいなくなってしまったのだろうか。そう思った瞬間、体から力が抜け、その場に倒れ込んでしまった。


僕は目を閉じて、あの幸せな日々を思い出していた。もう一度。もう一度だけでいいから、彼女に会いたい。彼女とあの情熱のダンスを踊りたい。


薄れゆく意識の中、僕はドシンドシンという大きな音を聞いた。身の危険を感じ逃げようと目を開けると、目の前にはずっと探し求めていた彼女がいた。


信じられない。どんなに探しても見つからなかった彼女が、今僕の目の前にいるだなんて。

限界だった僕の体も、彼女と目が合った瞬間、嘘のように軽く動き出した。

僕と彼女はあのダンスを踊った。僕たちの思い出がつまった、何度も踊ったあの情熱のダンス。

幸せな日々が帰ってきた。

そう思ったのに。


グシャ

なんだ。思わず目を閉じた。次に目を開けると、彼女はいなかった。さっきまで手を取り合って踊っていたのに。

おかしいな、そう思いながら辺りを見回そうとするが、体が動かない。なんでだろう。

ふと自分の体を見ると、至る所がちぎれている。

この破れた羽はなんなんだ。もう片方しかついていない僕の腕は針のように細い。

自分の体が潰されて初めて気がついた。

今見ていた彼女はただの幻で、僕を踏んだのは人間で、僕は蝉になっていたのだと。



グシャ

うわ、最悪だ。

これだから蝉は嫌いなのよ。もう死んでると思って近づくと、急に動き出して私を驚かせてくる。セミファイナルっていうやつね。

それだけでも嫌なのにまさか踏んでしまうなんて。ああもう本当に嫌だ。

次の日、

気がつくと真っ暗闇の中にいた。

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