煽動

 元々、使い魔契約をするとその力を『使う』ことが出来ると、アルバは遊星に教えたことがあった。それから、ガブリエルの説明で『魂の誓約』を交わすことで互いの力を分け合えるとも知った。

 そのことから、遊星はある答えを導き出したのだ。


「だったら、俺が暁を使い魔にすれば……暁への負担が、減らせるだろう? それで暁が魔力に引きずられなければ、世界が滅びることもない」

「簡単に言うな! 俺が死んだら、お前も死ぬんだぞっ!?」

「それくらいしないとお前、簡単に死のうとするじゃないか!?」

「それ、は……」


『魂の誓約』については、暁も創世神から得ていたらしい。

 それ故、玉座から立ち上がって怒鳴ったが、そんな暁に遊星も負けじと怒鳴り返した。一瞬、言葉に詰まるがすぐに暁も気を取り直して言う。


「世界を滅ぼす程の魔力だぞ? 今そうしても、いずれ呑み込まれたら? 少しくらい先延ばししても、結果は変わらない……それなら、俺が正気を保っている今のうちに」

「……そうなったら、俺が死ぬ」

「なっ!?」


 言い募る暁に、そう答えた遊星の手は震えていた。

 けれど声には出さず、決意を固めるようにアルバの手を握るのに力を込めて、遊星は静かに言葉を続けた。


「お前が言う通り、結果は変わらないかもしれない。それに、間接的には俺がお前を殺すことにも変わりないけど……俺がアルバに殺されれば、暁も死ぬ。そうすれば、世界を滅ぼすことはない」

「冗談じゃないっ」

「冗談で、ンなこと言えるか! 俺は、腹括ったんだ……だからお前も、観念して長生きしやがれっ」


 遊星の話に動揺した暁が声を荒げると、遊星はこみ上げる気持ちのままに一喝した。同様に、堪え切れなかったのかその瞳からボロボロと涙が零れる。

 そんな遊星を、放っておける訳は無く――アルバは背後から遊星を抱きしめ、キッと暁を睨みつけて言った。


「遊星を、泣かせないで下さい」

「そんなつもりは……そもそも、遊星を殺そうとしているお前が偉そうに!」

「あなたが暴走したら、ですよね。遊星を愛していると言うのなら、弱音など吐かないで下さい」

「っ!」

「僕は、遊星に誓いました。世界を滅ぼす前に、彼を殺すと……愛しているからこそ、遊星の望みを叶えることにしました」

「ひゃっ!?」


 アルバの反論に、暁が息を呑み。

 次いでの言葉ではなく、頬に唇を押し当てたのに遊星が驚いて声を上げる。そして遊星を抱きしめたまま、更に暁を挑発するようにアルバは言った。


「誓いの見返りとして、僕は遊星と口づけました」

「はっ!?」

「悔しかったら、あなたも四の五の喚いていないで遊星の使い魔になって下さい」


 アルバの言葉に驚き、立ち尽くす暁を見据えながら――アルバはここに来る前、じゃんけんの後に交わした遊星とのやり取りを思い出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る