迎撃

 アルバの言葉通り、猪をさばいていると魔物・アダンダラが現れた。

 猫型の魔物だった為、猫の獣人であるミーネが出ようとしたところをグレルが止める。


「別に平気、よ? それに確か、男性の方が危ない」


 そう、アダンダラはその姿を見ると死ぬとも言われるが、男性に対しては生きたまま森から出られないようにし、死後も魂をさ迷わせると言う。とりあえず今、遭遇して即死亡ではなかったが、あまり長引かせるのは危険だ。

 そんなミーネの言葉に、一瞬、グッと詰まったグレルだったが――半ば、自棄になったように声を上げる。


「ボク、見た目こんなんだから平気だよ! 他の魔物とか、生徒の時は任せるからっ」


 確かに小柄な上、柔らかそうな亜麻色の髪と大きな水色の瞳のグレルを見て、いや、喋っていても男にしては高い声なので、男だと解る者はいないだろう。

 それにしても、とアルバが思っているとミーネがいつもの無表情のまま、けれどポン、と自分の胸を叩いていった。


「任せる。そして任され、た」

「うんっ」


 そんなミーネに、笑顔で頷くと――グレルはアダンダラへと向き直り、キッと頬を引き締めて口を開いた。


「……我が手に集え、流水ウォーター!」


 それは先程、アルバが教えた『コツ』の通りに詠唱の前半を省略し簡略化したものだった。

 初級の魔法にしたのも、良かったらしい。刹那、詠唱を唱えた時同様の水流が放たれ、アダンダラへと襲い掛かったのである。



 サバイバルでは生徒自身の魔法と、召還した魔武器の使用が許可されている。


 フェルスの魔武器は、剣。

 イグレットは、弓。

 ミーネは、鉤爪。

 そして、グレルは杖だ。


 体術より、魔法に適していると杖を手に入れる場合がある。現に、皇室魔法使いの息子も杖を手にしていた。

 もっとも、アルバとしては杖も十分、武器だと思う。杖そのものに寸鉄は帯びてないとしても、打撃や突きに使えるので立派な攻撃手段だからだ。


「……グレルだと、何か魔法少女みがあるけど」

「少女? 女性魔法使いの別称である、魔女じゃないんですか?」

「ごめん、アルバ忘れて!」


 そんな会話を、遊星と交わした――のは、余談として。

 三日間と時間が限られている為、アルバは遊星以外のメンバーに魔武器を使う時に詠唱を簡略化した魔法を使うことを提案した。うまくいけば物理的攻撃と魔法が両方出来るし、駄目でも物理的攻撃は放てるからである。


「逆に遊星は、魔武器のみ利用にしませんか? 防御は、僕がしますから」

「アルバさんスパルタ!?」

「? よく解らないですけど、今は主張の激しい使い魔達がいないから魔武器に慣れる好機じゃないですか?」

「……それなー」


 ガックリと肩を落としながらも頷いたのは、アルバの言葉が正論だったからだろう。そして一つ息をつくと、顔を上げて。


「んじゃ、行くな」


 そう言うと、遊星はおもむろに自らの魔武器を出現させた。

 魔武器には基本、鞘はない。使い終わると己の中に戻るのである意味、鞘は持ち主自身と言えるだろう。

 そして片刃の剣を構え、一気に少し離れた茂みに向かって走り出す!


「「「「え」」」」

聖光防壁シャインガーディアン聖防御光陣シャインバリア


 突然の遊星の行動に、フェルス達が声を上げる中――アルバは一人、遊星の行動に応えるように魔法を使った。前半は光のヴェールを纏い(今回の場合は遊星に纏わせ)攻撃を退けるもの。後半は以前も使った、光魔法の防壁だ。今回は、自分達を守る為に使っている。


「き、来たぞ!」

「焦るな、相手は一人だ……やるぞっ」


 そんなアルバ達の耳に、茂みの向こうからの声が届く。

 ……そして、声の主である生徒達が放ったと思われる矢が遊星を襲い。


「アルバ、ありがとな!」


 アルバの魔法により、弓矢に当たらずに済んだ遊星は――律儀にお礼を言いながらも足は止めず、まずは剣で茂みをなぎ払った。


「「「えっ!?」」」


 刹那、刃から迸った水しぶきが姿を現した生徒達と、同様に驚きの声を上げた遊星へと降りかかる。


「ユーセイ、水魔法も使えるの!?」

「いえ。おそらく、あの魔武器の仕様かと」


 隣のフェルスが声を上げるのに、アルバは答えた。

 いや、実際は遊星も全属性なので使えるのだが、遊星の生真面目と言うか馬鹿正直の性格だとアルバとの『約束』は破らないだろう。


(刃に水が滴るなら、血も洗い流されて便利だな)


 そんな物騒なことを考えるうちに遊星は生徒達を傷つけず、器用に剣圧で吹き飛ばすことで転移用のペンダントに衝撃を与えたらしい。

 アルバ達が見守る中、攻撃してきた生徒達は学校へと強制的に戻されて――一人、その場に残った遊星は振り返り、笑顔でグッと親指を立てた。

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