緩和

 ティエーラの人間は、多かれ少なかれ必ず魔力を持っている。

 ただその魔力を放出し、魔法として使えるのは全人口の四分の一くらいで。魔法使いや、冒険者の中でも『帝』と呼ばれるくらいの実力者となると、そのうちの一割くらいである。

 しかし、魔力自体はある訳で――放出出来ない魔力を増幅して、火や風を起こすことが出来るのが『魔石』だ。


「うわ、ファンタジー……」


 ギルドでの照明や台所でも使われていたので、カリィが魔石について教えたところ、遊星は謎の言葉を感動したように呟いていた。

 幻想的という意味らしいが、アルバからすると帝レベルで魔法が使える奴が何を言っているのかと呆れたものだ。

 とは言え、魔法学園の魔武器作りで使われる魔石は一般的に流通しているものとは少し違う。

 魔法学園に入学した者だけが貰えるそれは、生徒の魔法に反応して持ち主に相応しい武器になる。魔法使いは勿論だが、冒険者でも上級や帝となると魔法学園の卒業生なのでそれぞれ魔武器を持っている。

 今の状態でも魔物討伐に問題はないのだが、アルバが――『全帝』が、魔法学園の入学を決めたのはその為だ。


(使い魔は、魔法学園ここ以外でも手に入れられるが……魔武器は、な)


 打算的だと、言いたければ言え。年齢の壁ばかりは、アルバでもどうしようもなかったのだ。

心の中でそう締め括ったアルバは、他の生徒達と共に校庭へとやって来た。

 Sクラスだけではなく、一年全員が一斉に行なうのと時折、大型の使い魔が召還される場合があるので天井がない校庭には、召還の為の魔方陣が複数描かれている。


(……そう言えば)


 入学式の後、魔武器作りをすると知った時、寮の部屋で遊星に妙なことを聞かれた。


「あのっ、魔武器に名前をつけたりとかってあるのかな? その、名前をつけないと武器の特性が解らないとか」

「何ですか、それは……自分だけの武器ですから、手に取れば特性は解りますよ」

「やった……厨二病回避! 良かったぁ……」


 寮の部屋で喜ぶ遊星に、流石に気になって何のことかと聞いたら――どうやら異世界の小説で魔法や、更には魔武器作りや使い魔召還について書かれたものがあるらしい。 

 ティエーラと違って、遊星のいた世界では魔法などは使えないらしいので大した想像力だ。

もっとも遊星ほど大げさにはならないが、凝った名前など浮かばないのでそこは違って良かったと思った。


「よし、それでは魔武器作成始め!」


 教師からの指示で我に返り、アルバは他の生徒達同様に受け取った魔石を手にそれぞれのグループへと別れた。

 皇女・アスセーナと同じグループなのでまずは彼女と、そのお付き二人に魔武器作りの順番を譲った。それから細身の片手剣レイピアランスロッドが生成されたのを眺めた後、魔石に己の魔力を注ぎ込んだ。制御具で抑制してはいるが、量ではなく質に応えるので問題はない。


「……剣?」


 そうして光が放たれた後、手の中に収まった魔武器――大剣を見て、アルバはぽつりと呟いた。

 疑問系になったのは、刀身が波打っているからだ。そんなアルバの脳裏に、己の魔武器の特性が浮かぶ。

(波打つ刃に斬られることで、僅かな傷でも血を止め難くする……なかなか、えげつない武器だな)


「えっ!? フランベルジュ!?」


 そんなアルバの魔武器に対して、少し離れたところで魔武器作成をしていた遊星が声を上げる。


「……名前は、つけないんじゃなかったんですか?」

「いや、あのその剣、俺のせ……故郷の言い伝えに、似たようなのが出てきてて!」

「君のは……何ですか、それは?」


 遊星の手にしている魔武器は、アルバが初めて目にするものだった。

 レイピアに少し似ているが、片方にしか刃が無く反りがある。そしてその刀身には、蛇に似た生き物が彫られていた。刃の中を泳いでいるように見えて、変わってはいるがなかなかに美しい。


波遊ぎなみおよぎ兼光。フランベルジュって刀身が炎みたいだってついた名前だけど、これは水かな。龍が、泳いでるみたいだからってついた名前……」


 遊星の様子からすると、アルバや遊星の魔武器は異世界の創作に出てくるものなのだろう。

 そして過剰に反応はするが、この反応を見る限り決して嫌いな訳ではないようだ。


「って、ごめん! いきなり話しかけてっ」


 けれどそこまで語ったところで、遊星はハッと我に返った。そしてアルバに謝ると、逃げるように自分のグループへと戻っていった。

 その背中をしばし見送って、アルバは口を開きかけて止めた。

 そして、何事も無かったかのようにアルバは自分の魔武器を仕舞った。魔力で形成されているので、魔武器は魔法を使うように出し入れ自由なのである。


(君の武器も、十分『ふぁんたじー』ですね)


 言いかけた言葉は、全く自分らしくないとアルバは思った。

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