孤独
遊星視点・1
※
外見も成績も、運動神経も――何もかもが『平均』で『平凡』。
それが彼、平遊星だった。強いて言えば、名前だけがちょっと珍しいくらいだろうか?
(まあ、苗字の
そんなことを考える辺り、我ながら卑屈なのか図太いのか解らないが。
同級生達とドラマやゲーム、あと可愛い子の話で盛り上がり。かと言って話しかけるのは、ハードルが高すぎる。こっそり眺めるのが、関の山。
ドラマチックな展開はなく、けれど穏やかな日々を遊星は送っていた――中学二年生の、夏までは。
「
夏休み明けの二学期。遊星のクラスに、転校生が来た。
淡い色彩の髪と瞳。けれど外国の血が混じっているということで、チャラい感じはせず自然だった。それは芸能人かと思うような、美形だったせいもあるだろう。漫画かドラマのような展開に、クラス中が思わずざわめいてしまったくらいだ。
……それでも、窓際の遊星の席の後ろには暁の分の机と椅子が置かれていて。
「俺、平遊星。よろしく」
もし教科書がなければ、隣の生徒が見せるだろう。そして学校の案内は、学級委員長がすると思う。
しかし、だからと言って無視することも出来ず――歩いてきた暁に、遊星はそう声をかけた。軽く目を見張られた時は「あ、失敗した」と思ったが、すぐに微笑んでくれたのでホッとした。
そんな感じで、遊星としては何の気なしの行動だったのだが、暁にとっては別だったらしい。
「転校初日で緊張するし、何か騒がれるし……だから、遊星に笑いかけて貰ってすごく安心出来たんだ」
教科書こそ用意が出来るまで、隣の女生徒に見せて貰っていたが――学校の案内に始まり、食堂で給食を食べる時や登下校、あと休みの日も気づけば一緒に行動するようになった。
「遊星といると本当、癒される」
「大げさだって」
「そんなことない! 遊星の傍は、すごく居心地がいいんだ」
力説する暁は、やっぱりり大げさだ。けれど、一方で大人びた見た目に反して『普通』なんだなと思いもした。
(それなのにあんな風に騒がれたり、逆に距離置かれたら)
暁の傍で見ている遊星でもそう思うのだから、当人ともなると相当、きついと言うかしんどいだろう。まあ、一方でそんな暁が懐いている遊星には、疑問や嫉妬の目が痛いくらいに突き刺さるのだが。
(俺も、暁といると楽しいし)
そう結論づけて、気にしないようにしていたのだが――三年になり、暁とクラスが別になった時にそれは起こった。
※
「男同士でベタベタして、気持ち悪い」
「ホモなの?」
「空気読めなすぎ。あんたがいるせいで、向坂君友達いないんだよ……せっかくクラス別になったんだから、遠慮しなさいよ」
「向坂君可哀想~」
「向坂君は優しいから、迷惑だって思ってても言えないの! 身の程をわきまえなさいよねっ」
昼休み、給食の後に遊星は同学年の女子達に体育館裏へと呼び出され、囲まれて口々に責め立てられた。
ベタベタやホモ云々は、特に気にならなかったが――後半の、暁に他の友達がいないこと。そしてそのことで、暁に迷惑をかけていると言われたことにはその通りだと思ってしまった。
(……確かに、暁なら迷惑だと思っても表に出さないよな)
現に暁は周りから騒がれて、困った顔はするがそれ以上の、嫌だという感情は見せないし口にもしない。それに、遊星のような凡人とも仲良くなれたのだから、その気になれば誰とでも仲良くなれるだろう。
(そうだよな、クラスも別れたんだし……来年には、卒業するんだから)
寂しさに胸が痛んだが、遊星は一人残された体育館裏でスマートフォンを取り出した。コミュニケーションアプリとメール、どちらにするか少し悩んだ後――より感情を悟られない為にメールで受験を理由にし、しばらく距離を置きたいと暁に伝えた。
暁からはせめて朝の通学は一緒にと言われたが、それもメールで断って電話には出ず本人を避けまくった結果、遊星への連絡は来なくなった。
暁と一緒にいたのは二年の時の半年間くらいだったが、別のクラスになった遊星は他の同級生から暁とは別の意味で距離を置かれた。
いじめとまでは言わないが、声をかけても無視をされ。次第に周囲が怖くなり遊星はクラスで、そして学校で孤立した。
塾で同じ学校の生徒に会うのも気が引けて、帰宅部なのを良いことに早々に帰宅して勉強をした。朝も、逆にギリギリまで家で勉強をして学校に行く。それは暁を避ける為だけではなく、志望校を変えたからでもあった。
……そんな努力が実り、遊星が通うことになった高校は通学に片道二時間くらいかかるような場所だった。
正直、登下校が大変だし、両親にももう少しの近くの高校ではどうかと気づかわれたが――遊星は、新しい環境で新たな一歩を踏み出したかったのだ。
まさか春休み中に事故で死に、転生した異世界で学校に通うことになるとは思っていなかったが。
(これもある意味、高校デビューになるのかな?)
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