第42話:子供の壁

 色々諦めて屋敷に戻ればタイミングよく菜摘が出てきていた。顔色は随分と良くなり朝よりも元気そうだった。


「これ...」


 ひよりがエコバックに入った安藤の遺骨を見せれば「あ〜」と思い出したように菜摘が頭を掻いた。


「釜に入れて砕くんだったか。アレ、キモいからやめね?」


 そういう菜摘にコクコクと頷いてみせる。そうすれば菜摘がどこかに電話をかけ始めた。その姿をジッと見ていればすぐに電話を終えた。


「直哉のとこ。傘下の病院が提携してる葬儀屋紹介してくれるってよ。死亡届も出さなきゃなんねえけど、その辺も葬儀屋がやってくれるらしい。良かったな」


 それだけいう菜摘にホッとした。


「私も何かできることある?」


 そういえば「はぁ、」と菜摘は深いため息をつく。


「慣れないことをいくつもしようとするな。落ち着いたら墓参り行ってやればそれでいい。こんな事がある度に深入りしてたら、お前の身が持たない」


「せめて、大人になるまでは周りの助言を聞き入れてくれ」という菜摘に頷いた。暗い顔をするひよりの頭をグシャグシャと撫でれば「飯行ってこい」と微笑む菜摘の姿に少し気分が良くなった。


「ひより様!プリンですよ〜!プリン!」


 そういう奏人に付いて走れば、その場に残ったのは隼人と菜摘。


「腹...擦っちゃいました...」


 土下座で謝る隼人に菜摘は何ともないような顔をする。


「ひよりのブロマイドでも付ければ百万くらい上乗せできんだろ」


 そういう姿にポカンと口を開けたまま固まった。コイツやべぇ、という顔である。


「苦労すると思うけど、耐えてくれ。この屋敷ももう時期売りに出す。贅沢品全部売っぱらって莫大な資金を得たら、真っ先に搾取されてた教徒たちに金を返す。慰謝料も上乗せしてな」


 そういう菜摘に目を見開いた。


「なぜ、そんな事をするんですか?」


 好き勝手動いていた教団に、搾取され困窮していた人間たちを助ける義理なんて魔女にはない。ひよりがいっていたように、本来は教団と魔女は交わらない。お互いが干渉しない関係であり、教団の想いは一方通行。それが当たり前なのに、どうして...


「なぜって。それはひよりに直接聞けばいいだろ」


 それだけいい残して菜摘は屋敷へ戻っていった。その後、ひより達を追い昼食に行くも食べ物が喉を通らず、何も手につかず、早めに帰宅することとなった。


「あ、隼人...ごめんね。ちょっと水を汲みにいくの手伝ってくれない?」


 帰宅すれば、なぜか母親がいる事に驚く。両親共働きで、母親は常にバイトを掛け持ちしていた。にもかかわらず今は家にいた。


「おぉ、隼人。帰ったのか」


 そのすぐ近くから声がして目を向ければ父親の姿もある。二人して一体何事かと隼人は固まっていた。


「なんで、いるの?」


 その問いに両親は困った顔をした。


「お祈りの集会に出られてないでしょう?それで...バイトクビになっちゃってね」


 無理に笑おうとする母親に胸が締め付けられる。父親の方を見ても同じような表情をしていた。


(ー貴方は、何も間違っていなくて...間違ってるのはこの国であり、国民であり、魔女というシステム全て。だから、貴方は間違ってない)


 ひよりの言葉を思い出していた。全てがおかしくて、間違ってる世界でただ家族と幸せに生きたいと必死に働いてきた。努力してきた両親への仕打ちがこれだ。


「水、汲んで来る」


 隼人はそれだけ言い残して家を出る。大きなポリタンクを両手に下げて向かった場所は公園だった。


「はー!やっぱりカルキの効いた水道水は美味しいですね!」

 

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