第37話:共通認識
「車出してほしい」といえば、スローモーションかと思うほど遅い動作で食事をする菜摘にいわれた。まさか、しっかりしていそうな菜摘が免許を持っていない?24歳だぞ??あ、でも元ホームレスだった。とひよりは自己完結していた。
「なんかお前、失礼な事考えただろ?」
懐をガサゴソとあさる姿に絶対にナイフだと思った。急いで首を横に振ったが手遅れで...
「タクシー代はこれで足りるだろ?」
だが思ったものとは違った。ウサギの首掛けポーチを手渡され中を見れば五万円ほど入っていた。
「ゲーム機買える?」
「張っ倒すぞ」
ひよりが目を輝かせながらそういえば手を上げる菜摘。直哉ならひっ叩いていた。しかし、相手がひよりともなるとそうはいかない。
「痛いですよ〜っ!」
代わりに泰人の頭を叩いておいた。
「今渡したのは交通費だ。毎回タクシーや電車を使うときはここから出すように。それから足りなくなりそうだったらその都度いうこと。昼飯の時間には一度帰宅すること。いいか?」
言い聞かせるようにひよりの目を見ていえば、ひよりは頷く。その姿に穏やかな表情で頭を撫でる菜摘だった。
「良い子にしてればゲーム機買ってやるよ」
「直哉がな」なんていう言葉が聞こえたのは気のせいだろう。
「あの。ひより様私が...」
「アレはダメだ。どうせ事故歴聞いたら十件じゃすまない。命が惜しければタクシー使え。さもないと死人が出るぞ」
パンを貪りながら自身が運転すると手を上げる硝子を見て、すかさず釘を刺す。みんなの共通認識で、やはり硝子はヤバイらしい。
「う、ん。いってきます」
引きつり笑顔でそういえばその場にいた硝子と菜摘は手を振って見送ってくれた。
「あ、ひより様おはようございます。お食事はされないんですか?」
部屋を出てすぐに和哉とすれ違う。そう聞かれ「うん...」と気まずそうに返事をした。
「ひより様は和哉が教えてくれたプリンパンを美味しそうに食べてましたよー!」
するとニコニコしながら泰人がそういう。それを聞いた和哉は驚いた顔をしながらも恥ずかしそうに口を開いた。
「泰人様、あれは秘密だっていったじゃないですか...」
「美味しいけど見た目が悪くて」というのだから驚いた。見た目を気にして食べたことがなかった。そういったらきっと、和哉を傷つけてしまいそうなので、いわないことにしたひよりである。
「では、お昼はプリンも用意しておくので、楽しみにしていてくださいね!」
そういう和哉にも見送られ屋敷を出た。しかし問題なのはタクシーに乗るお金ではなかった。タクシーはどこに行けば乗れるのだろうか。まずそこからである。
「タクシー代もったいないですから、俺が送りますよ...」
立ち尽くすひよりと泰人にそう声をかけたのは隼人だった。
「司教や他の教徒の送迎用に、屋敷の裏に車が止まっているんです。これ一台数千万円のスポーツカーですよ。そっちは年代物」
カラフルな色の車が止まっているのを見る。残念ながら数千万といわれたところで普段からお会計をする機会のないひよりにはそれがすごい金額なのかというのは分からない。泰人もよく分かっていないような反応である。
「魔女様は文天堂スイッチってご存知ですか?」
隼人にそういわれ、それなら知ってると大きく頷く。隣の泰人も以前一緒に見ていた動画で紹介されていたのを思い出し頷いた。
「あれが大体三万円と少しなので、一千万円あれば二百八十台くらい買えますよ」
ホントに!?とでもいうような顔でひよりも泰人もポッカリ口を開けた。
「泰人様、モック好きですよね?」
そういわれまた口を開けたまま頷く。
「モックはセットで頼んでも千円しないくらいですが、一回千円だと考えれば、一千万円あれば一万回モックに行けますよ」
信じられないという顔。ひよりと泰人は再度車を見た。こんなどこにでも走っていそうな車が数千万円。ありえない...という顔である。
「魔女が乗ったってことでプレミア付けて売ろうと思ってるからな。隼人、付き合ってくれんなら暫くはひよりの運転手頼めるか?」
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