第29話:帰る場所


 菜摘とひより、双方の肩をトントンと叩く。叩かれた方を振り返れば空気の読めない男...直哉が立っていた。


 「元気に見えるなら眼科にいけ。怪我してんだよ」


 「えぇっ!!それ大変じゃん!救急車!!誰か〜!この中にお医者様はいませんかー?」


 「お前が医者だ!」


 素晴らしい連携で繰り広げられるコントに「これが噂の夫婦漫才」と感嘆の声を上げる。ひよりは、最近動画サーフィンを覚え、ハマっている芸人のコントを思い出したのだ。ちなみに、いわずとも夫婦漫才ではないことは誰の目にもお分かりいただけるだろう。


 「さっさと治せよ」


 相当痛い様子。顔を歪め、余裕のない表情の菜摘。苦渋だとでもいいたげな態度でそれだけいえば、そっぽ向く。直哉は直哉で目を見開いていた。


 「デレ?デレ期、、、なの?」


 「うるせえ!!」


あまりにも場違いな直哉の反応にブチ切れ、どこからか取り出したナイフをブンブンと振りまわす。ひよりにはデレが何かは分からないが、菜摘がなんだか恥ずかしそうにしているのは分かる。余裕ないのによくナイフを振り回す元気があるなと、感心して見ていた。


 「なーんてね。肩トントンした時にとっくに治してあるよーん」


 「いえーい!ピースピース!」とピースして跳ねる直哉を菜摘が蹴っ飛ばした。


「治ってるのに気づいてなかったの?痛いような気がするって痛がってた?」


そういうひよりの事もギロリと睨みつける。まずい、これは、いってはいけないことをいってしまったのかもしれない。ひよりはビビっていた。


「ふっ!!」


蹴られると思い懸命にお腹のあたりを守ってうずくまる。流石にそんなひよりの姿を見て、16歳を蹴っ飛ばす24歳はヤバイだろと冷静になった。


 「ほら、帰るぞ」


労いの意味も込めて、代わりに頭をポンポンと叩けば驚いた顔をしていた。


「直哉、そんなに強く蹴ってないだろ」


蹴っ飛ばしたはいいが、完全に目を回して倒れている直哉。これは自分では歩けないだろうとため息をつく。直哉を小脇に抱えれば、空いた片方の手をひよりに差し出した。そんな菜摘に、ひよりはポカンと口を開けている。


 「私も、帰っていいの?」


 そう問えば吹き出すように笑われた。


 「お前ん家だろ」


よかった。ちゃんと証明できてたんだ。私にも見込みがあるんだ。そう嬉しそうに笑いながら、差し出された手を握る。三人みんなで帰宅した。


 「ひより様〜!聞いてください!硝子がスマホをトイレに落として壊しちゃったんですよ〜!!」


帰宅してすぐに、プンスカ怒る泰人の姿。怒っているにしては軽い口調だが多分怒っている。帰宅早々、硝子のやらかしを聞かされる菜摘はため息しか出ない。


「あ!!菜摘さんとひより様、なんだかそうしてると兄弟みたいです!」


 手を引かれるまま帰宅すればそういわれる。満更ではないのか、ひよりはムフフと嬉しそうに笑った。


 「まって!!実の兄を差し置いてそれはないよ菜摘!!」


すると、泰人の言葉に直哉が飛び起きる。小脇に抱えられているためジタバタと暴れれば、落とされた。


 「妄想は程々にしないと警察呼ぶぞ」


 「酷い!!さっき怪我治してあげたじゃん!!」


 菜摘は心底蔑んだ目を向けて忠告する。そして、小脇から落とされた直哉を見て「あっ、塩屋さん!おかえりなさーい」と付け加える奏人である。


 「魔女様達。お食事の準備が...」


 「かずやぁぁぁ〜ん!!」

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