第22話:お日様
泰人と二人、隼人達の元へと駆けていく。周りは、先程までとは違う、楽しそうな二人の姿に顔を綻ばせた。
「魔女様、泰人様。今日は1日...我々と家事に挑戦してみませんか?」
隼人は緊張した面持ちで告げた。その言葉に「家事?」といって泰人とひよりは首を傾げる。
「魔女様と泰人様は、きっと家事をされたご経験がないと思ったので。本来は魔女様やそのお弟子様に家事をさせるなんてとんでもない話ですけど...どうでしょう?」
和哉が補足するように言えば納得するように頷く。ひよりは考える素振りは見せるものの、1番に目を輝かせているのは他でもない和哉と隼人であるから、それにつられるように承諾した。
「僕、ちょっとはやったことあるんですよ〜!任せてください!」
少しは経験があると自慢げな泰人。二人の承諾を得た隼人と和哉はとても嬉しそうだった。
「まずは、1日の始まりは洗濯から。今は夏場ですから晴れた日は数時間で洗濯物が乾きますよ」
そう話す和哉に連れられて面々は洗濯場にやってきた。準備に出ていった三人が洗濯機を回してくれていたようで、既に洗濯を終えた衣類がカゴに分けられている。
「今日は濡れた洗濯物を干す体験です。意外とコツが必要ですから頑張りましょうね!」
濡れてる...と洗濯物を指で突っつくひより。泰人は余裕かと思えば「おぉ〜!」と同じように突っついていた。そんな洗濯素人とは違い、隼人が口を開いた。
「乾燥機とかはないの?このお屋敷大きいから必要じゃない?」
そう問えば和哉は首を横に振る。
「乾燥機もたしかに便利です。でも、魔女様がお使いになられるものですから。お日様のいい匂いがしたほうがいいでしょう?」
その言葉に奏人が「いつも服がおひさまの匂いでした!」と声を上げた。ひよりも「いい匂いがした」と頷くのだから、いい匂いの影には、裏で色々考えてくれていた人がいたことを初めて知った。隼人も納得したように「そうだね」と頷き、いよいよ物干し場へ。
「ここが物干し場です。飛ばされないようにしっかり洗濯バサミで止めてくださいね」
和哉や隼人は素早く洗濯物を干していくのに対し、見様見真似だがなんとなく干していく奏人。更にその真似をするようにひよりと硝子は背伸びをしながら手を伸ばしていた。
「届かないね...」
「そうですね。なんでこんなに高い位置に物干し竿付けたんですかね」
傾斜になった部分に手が届かずボーッと二人で雲を見る。
「あれがマシュマロですよ魔女様」
「あれ、マシュマロっていうんだ...」
硝子の比喩を真に受けマシュマロだと誤認したひよりだが、硝子本人は騙すようなつもりは全く無いのでそんな事は知る由もない。
「マシュマロは棒に刺して炙って食べても美味しいですよ」
「硝子は詳しいんだね」とのんびり女子トークを繰り広げれば、ひよりはひらめいてしまった。
「炎で、洗濯物を乾かせないかな?」
自身の手からボッと炎を出して問うひより。これが隼人や和哉相手に行われた会話なら「やめてくださいっ!」とすぐに止めに入っていたことだろう。泰人相手なら「いいですね〜!面白そうです!!」とノリノリで応じただろう。硝子は、というと...
「私が洗濯物の端を持ちますので、ひと思いにどうぞ」
後者のタイプ。顔には出さないがノリノリであった。男性陣は男性陣で、調子にのってブンブン洗濯物を振り回し、遠心力で水を飛ばすと豪語する泰人をオロオロしながら見守っていた。硝子はそれを横目に、遠心力で乾かすのが許されるなら多少洗濯物を炙るのも許されるだろうと軽い気持ちである。
「地を這え」
ひよりが拳を目の前へ伸ばし、言葉と共にパッと手を開く。波の波紋が伝うように、ゆらゆらと広がる炎の海。
「バカ女共なにやってる!!おいお前ら!!女共止めろ!!」
なんか焦げ臭い。書類整理をしていた菜摘が窓の外を見たときに目に入ってきたのが炎の海なのだから生きた心地がしない。叫んで男性陣にそう伝えるが全員が炎の海を見て固まっていた。
「ヤバイなこれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます