第4話 怪文書
爆発事故のあった頃、帝都軍は王都に向けて進軍していた。そのため、市街地には年寄りや女子どもばかりだったので、避難指示にも素直に従ったのだろう。働き盛りの者がいたら指示に従わない者もいて、被害はさらに広がったと思われる。
「エリクサーが完成する前に帝都軍は進軍を始めたの?」
デリルが不思議そうに言う。「どうして完成を待たなかったのかしら?」
「当時、帝都と王都は緊迫した外交状態だった。一刻も早く王都に攻め入る必要があったのだ」
ミゲイルはその頃を思い出して眉間にしわを寄せた。「エリクサーなんぞ無くても帝都軍は負けんのに余計な事をしおって……」
大臣は万全を期すためにエリクサーの大量生産に乗り出した。しかし、材料費に国費の大半を費やした挙句、爆発事故を起こしてしまった。余計な事をせずきちんと後方支援さえしていれば……。
「えーっと、ミゲイルさんの話を聞いてると、王都に攻め入らなくて済んだのはラッキーだったんじゃないかと思うんだけど……」
デリルは言いにくそうにミゲイルに言う。案の定、それを聞いたミゲイルは青筋を立てて怒り狂う。
「我が帝都軍が負けるとでも言うのか!」
ミゲイルは思わず腰の剣に手を掛けそうになる。
「だって騎馬隊と歩兵部隊でしょ? 武器は剣と槍、それから弓よね?」
デリルは構わず続ける。「どうやって重戦馬車とか爆撃竜に対抗するの?」
「じゅーせんばしゃ? ばくげきりゅー?」
ミゲイルは目が点になる。初めて聞くワードだが、嫌な響きだ。「ふんっ! そんなもの
「王都はね、魔王軍との戦いに備えて兵器を開発しているの」
デリルは時代錯誤なミゲイルを諭すように言う。「人間なんてイチコロよ」
「そ、そこまで戦力の差があったのか……」
ミゲイルはがっくりと肩を落とした。
「あんた、大将軍なのに相手の戦力も分かってなかったのか?」
エリザが呆れた顔をする。
「今はもう、人間同士で争ってる場合じゃないのよ」
デリルが言うと、
「やはり人間は絶滅した方がよさそうじゃのう」
ヴェラが冗談とも言えないトーンで呟いた。
「すっかり長居をしてしまったな。そろそろお暇するとしよう」
ミゲイルは食後のコーヒーも飲み終え、席を立った。
「なんだよ、もう帰るのか? もっと話そうぜ」
エリザが引き留める。
「すまんな、エリザ。今度またゆっくり話そう」
ミゲイルはそう言って部屋から出た。
「あっ、失礼しました」
ちょうど部屋に入ろうとしていたボーイとぶつかりそうになる。ボーイはそのままデリルのところへつかつかと歩いていく。
「デリルさん、お手紙を預かっております」
ボーイはデリルに手紙を渡す。一礼してボーイはそのまま部屋を後にした。
「まぁ、何かしら?」
デリルは封筒を開き、中から紙の束を取り出す。「……、これは!?」
デリルは驚きの声を上げる。
「何だよ? 勿体ぶらずに言えよ」
エリザがデリルを急かす。
「ミゲイルさん、ペディくん、落ち着いて聞いてね。帝都の皇帝陛下がご
デリルが真剣な表情で手紙の内容を告げる。
「馬鹿な! どこの誰がそんな出まかせを!?」
ミゲイルは真っ向から手紙の内容を否定する。
「手紙によると、大臣が各国に向けて正式に発表したとされているわ。3日後には葬儀が執り行われるそうよ」
デリルが言うとミゲイルが手紙を
「お、おのれ、キャスパル! とうとう強硬手段に打って出おったな!」
ミゲイルがワナワナと震えながら手紙を握りしめる。
「おい、ミゲイル。お前も参列しなきゃいけないんじゃないか?」
エリザが言うと、
「馬鹿な事を言うな! こんな茶番に付き合えるか!」
ミゲイルが額に青筋を立てて怒鳴る。
「ペディくん、なんでお父さんはあんなに怒ってるの?」
デリルはペディに尋ねる。
「そ、それは……、あの手紙の内容がデタラメだからです」
ペディはそう言って怒り狂うミゲイルに目配せする。「ミゲイル、この者たちにはちゃんと話した方が良い」
「ミ、ミゲイルってあんた、お父さんに向かって……」
デリルがペディを
「いや、良いんです。ペディは私の息子ではありません」
ミゲイルが突然、ペディウスの前で
「え? ほ、本物!?」
アルが驚いてペディウスを見る。エリザも同様の反応をする。
「なに? 本物ってどういう事?」
デリルたちは突然のカミングアウトに驚いていたが、アルとエリザの反応はデリルたちとは少し違っていた。
「今朝、ミゲイルとアルが立ち会った時、色々あったんだよ」
エリザがざっくりと説明する。「おかしいと思ったんだよ、全然似てないし」
「隠していてすまなかった。いくらエリザが旧知の仲とはいえ、そう簡単に言い出せる話ではないからな」
ミゲイルはゆっくりと立ち上がりながらエリザに詫びた。
「じゃあこの手紙はどういう事なの?」
デリルは困惑して言った。
「おそらく大臣のキャスパルが皇帝を亡き者にしようと画策したのだ!」
ミゲイルはテーブルをどんっと拳の横で叩いた。帝都に各国から要人を集め、大々的に葬儀を行い、皇帝の死を周知の事実にしようとしているのである。
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