第3章 混迷を極める帝都
第1話 魔女と将軍
「おい、ここに入るのか!?」
ミゲイルはエリザがデリル温泉グランドホテルに入ろうとするのを見て驚いたように言う。
「あん? 当たり前だろ。あたしたちはここに泊まってるんだ」
エリザは振り返ってミゲイルに言う。
「凄い。エリザさんってリッチな冒険者なんですね」
ペディウスが目を輝かせてホテルを見上げている。
「まぁ、あたしじゃなくてあたしの友だちがな」
エリザはちょっと照れくさそうに鼻の頭を掻いた。「さ、入ろうぜ」
エリザとアルの後に続いてミゲイルとペディウスがおずおずと付いて行く。グランドホテルのロビーはミゲイルたちの借りた安宿がすっぽり収まるほどの広さがあった。
「お帰りなさいませ」
深々と頭を下げる従業員に片手を上げて答えるエリザ。従業員はエリザに何やら手渡している。
「さ、行こうぜ」
エリザはそのまま奥の方へ進む。階段の傍に何やら両開きの扉がある。「へへっ、ミゲイル、よく見てろよ。驚くぜ?」
エリザはそう言って先ほど従業員から受け取ったカード状の何かを扉の一部にかざす。
ピッ!
何やらおかしな音がしたと思うと扉が左右にスライドし、小部屋が現れた。
「!? 何だ、この仕掛けは?」
「へへ、あたしも最初はびっくりしたよ、エレベーターって言うんだぜ」
「えべれた?」
驚いているミゲイルとペディウスを置いてエリザとアルが小部屋に入る。
「お前らも乗れよ」
エリザが手招きするのでミゲイルたちも小部屋に入る。ミゲイルは小部屋に入ってからふと、エリザが乗れよと言った事を思い出す。
「エリザ、乗れって……」
ミゲイルが言いかけた時、両開きの扉が勝手に閉じた。「罠か!?」
「ばか、黙って立ってろ」
エリザは扉の傍にある無数のボタンの一番上のボタンを押す。するとそのボタンが明るく光り始めた。その後、小部屋は異音を出し始めた。
ウィーン……。
ミゲイルとペディウスは自分の身体が急に重くなったような妙な感覚に戸惑う。一瞬の事だったが、何が起こっているのか全く分からない。しばらくすると異音が収まった。
再び扉が開くと、周囲の様子が変わっていた。
「どうなっているんだ?」
ミゲイルは目の前で起こった事が理解しきれずうろたえるばかりだった。
「ここは10階のロイヤルスイートルームのフロアさ」
エリザがエレベーターから降りながらミゲイルに言う。
「10階? 私たちは階段を昇っておらんぞ」
「だからこのエレベーターってのが10階まで運んでくれたのさ」
エリザはエレベーターから降りてくるミゲイルに説明をする。王都領でも首都である王都とこのデリル温泉グランドホテルにしか存在しない魔動エレベーターである。魔力を動力として動く以外は我々の世界のエレベーターと変わりはない。
「まったく、お前には驚かされっぱなしだな」
ミゲイルは両手を広げておどけて見せた。
「さ、ここだ」
エリザは目の前の豪華な扉の前に立ち、先ほどのようにカードを扉の一部に当てた。
ピッ!
と言う音と共にガチャリと鍵の開く音が聞こえる。そしてエリザはノブを掴んで扉を開く。
「お? 起きてたのか。おはよう、ネロ」
「おはようございます。朝のお散歩ですか?」
ネロはエリザに笑顔で挨拶する。「あれ? その人たちは?」
「ああ、こいつはあたしの元カレ兼師匠のミゲイル、そしてその息子のペディだ」
エリザが言うと、ミゲイルがまたエリザを小突く。
「私は別に気にせんが、フィッツの息子が見てるぞ」
ミゲイルに言われてアルの方を見るとジト目のアルと目が合った。
「ば、馬鹿だなぁ、元カレって言ってるじゃねぇか。今はもちろんアルが一番だぞ」
「ちょっと、朝から騒がしいわね」
寝室の方からデリルが目を擦りながら現れる。
「おはよう、デリル。紹介するよ、あたしの……ごほん、師匠のミゲイル」
エリザはアルを気にして紹介を
「朝早くにお邪魔して申し訳ない。ミゲイルと申します」
「息子のペディです」
ミゲイルたちはデリルに頭を下げる。
「初めまして、ミゲイルさんとペディくんね。私は魔女のデリル。この子は弟子のネロくんよ」
デリルはネロを自分の隣に立たせて自己紹介をする。
「ネロです。よろしくお願いします」
ネロもミゲイルたちに頭を下げる。
「ん? ヴェラはまだ寝てるのか?」
エリザが言うとデリルが、口の前で人差し指を立ててしーっというゼスチャーをした。
「彼女は寝起きが悪いんだから、そっとしておきなさいよ」
デリルが小声でエリザに言う。今でこそ寝ている時も人間の姿だが、竜の姿の時は百年以上も眠って、目を覚ますと大暴れしていた伝説の臥竜である。
「そ、そうだな。すまん」
エリザはデリルの意見に納得して両手を合わせて申し訳なさそうにした。
「心配するな、人間の姿の時は毎朝ちゃんと目が覚める」
寝室で話を聞いていたヴェラが顔を出す。どこから聞いていたのか分からないが不機嫌そうである。まぁ、人間化してからのヴェラはいつも不機嫌そうなのだが。
「それじゃ、朝ご飯にしましょう」
デリルはそう言って近くにある受話器を手に取った。「デリルだけど、7人分のモーニングをお願いね」
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