第30話 鋼砕き【戦闘回】

 衝撃に伏せたタロッキがおそるそおそる顔をあげると、塔の近くの地面は、爆撃でごっそりとなくなってしまっていた。

 彼女は勇気を振り絞って飛び上がった。よく目を凝らして遠くを見る。爆炎の向こう、遥か地平の向こうに、大砲を構えた鉄機兵が2体。焚き木に照らされて発射準備を整えている。

 味方のゼロナナが大慌てで、建物を蹴飛ばすのも構わず向かおうとしていた。


「くそったれ! 予定よりえらい早いっちゅうねん! しかも塔の近くに撃ちよってからに、もろとも死ぬ気か!!?」


「どど、どうする。しゃちょー!?」

「くっ…………遺憾ながら。全力で上に撤退開始や、契約分は連中投げ上げた時点で上乗せ……?」

「雪……?」


 ひらひら、ひらひら。猿鬼が空を見つめると、風に舞う雪のような、白い何かが大量に宙を舞っていた。避難に遅れた住民や子供たちも、驚いてつい手を伸ばしている。


「バカな!? ここは地下やぞ……!?」

「千切れた、紙切れ……?」

「よお、景気はどうだ」


 頭上の声に驚いて、全員顔をあげた。

 空に羽ばたく白い翼、髄から生えるツノ持つ双頭。長くしなやかに伸びる尾。業力を宿す剛腕。


「ド……ラゴン?」


 猿鬼の口から、呆然と飛び出た言葉。双頭のドラクーン。爆炎に照らされ、見るものが居ればそう答えるだろう。異形のドラゴン。


「いいや、あいにくただの千切れかけの紙切れだ」

「か、紙ィいぃ!?」


 炎の照り返しが変わり、マナギの姿が映し出された。生えているドラゴンと思しき身体は、全て今にも崩れそうな、模様を書き込まれたスクロールでできていた。


「時間もねえ、恨むんじゃねえぞ。お前たちが俺たちに、火をつけちまったんだからな!!」

「な、なんなんや、あんさんわぁあ!?」


 猿鬼を始め、全員が呪文を詠唱し始める。驚愕に慄きながらも、歴戦の魔力が膨大に膨れ上がる。


「ただのフィッターだ! 悪いが構ってる暇はねえ!」


 マナギはただ思いっきり地面を踏み抜いた。それだけで猿鬼たちが居る地面が、大きく隆起しだす。

 そのままぐっ……と、彼は地面を猿鬼たちごと持ち上げた。


「あかんっ……!」

「確か空の旅だったなぁ!! 奢ってやらぁ!!」

「んな殺生なぁあああああああ!!?」

「ぎぃいやぁあああああああ!?」


 汚い悲鳴をあげて猿鬼たちは全員、空の旅へと旅立つ事になった。すかさずマナギは千切れかけの翼で、空に飛び上がる。


「頭目、あとどれくらいだ!?」

「もう半分を割りやがった!」


 双頭のツノ持つ紙で出来た、クックの頭部が答える。彼の頭部も半分崩れていて、いつ崩壊してもおかしくない有り様だった。


「下の被害は考えるな! 大砲を狙って全力でやれ! あとはラランがなんとかする!」

「承知ィ!! 技を借りるぞ、頭目!!」


 崩壊を始めた翼を、全力で仰ぎ空を駆ける。空気の壁さえ突破し、全速で空を大きく回転する。

 やがて逆巻く風は回転し、地を巻き上げ、巨大な竜巻になり始めた。千切れた紙は宙を舞い、下のバウルーにまで竜巻は届いている。

 竜巻におののきつつも鉄機兵たちは、巨大な大砲を構え、仰角を制御し、更なる爆撃体制を整えた。


「いけるか!?」

「まかせろ、マナギ。あいつの歌に」


 うたえ、1代の冬。


「届かない世界なんざ、無え!」


 巨大な破壊をもたらす鋼の砲弾が、放たれる。

 同時に、回転、風圧、空気の壁すら踏み台にして、マナギはかつて妖魔に飛びかかった頭目のように、砲弾に向かって真っ向から蹴りかかった。


「うぉおおおおおおおおお!!」

「かぁあああああああああ!!」


 砲弾とマナギの蹴りが、交差する、一瞬。

 細い白光が通り過ぎ、2人は瞬時に凍りついた砲弾を蹴り抜いた。


「「でぁあああああああああ!!」」


 空気の壁すら置き去りにする超高速の蹴撃は、鋼の大砲をまるで薄紙の如く砕き貫いた。余波で瓦礫と大地を壮絶に巻き上げる。

 その一撃は、衝撃波に巻き込まれてしまった鉄機兵たちを、地下世界の彼方まで吹き飛ばしていた。

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