第28話 蹂躙【戦闘回】
爆炎と轟音が響く中、鬼の恐ろしく歓喜あふれる哄笑が響く。虎視眈々と影から様子を窺っていた3人の娘たちも、彼の前に姿を現した。
「やったでぇええええ!! これで報酬アップ間違い無しや!!」
「しゃちょー!! ちょっとハデじゃないー!? 下手するとお姫ちゃん逃げちゃうか、死んじゃうよぉー!!」
「いかん! そうやった!!? とと、こっちに来よるな……!!」
白い鉄機兵に乗り込み勝ち誇っていた猿鬼は、部下の一声で冷静に立ち返った。同時に他の白い鉄機兵が、苦戦してこっちに吹き飛ばされて来た。
「よし、ゴブ共は全員上手く引きい!! ミザ、ポー、ナザリは姫探し!! そろそろ第2射が来る!! ケツ捲くる準備じゃあ!!」
「アイサー♡」
「ゴブ!!」
猿鬼は襲いかかってくるゼロナナに視界を塞ぐような、広範囲の炎呪文による攻撃を加えると、白い鉄機兵たちは逃げ始めた。
「弾みで殺すでねえぞぉ!! ドサクサの土産も無しじゃ!!」
「チッ……」
ナザリと呼ばれた表情に乏しい少女は、猿鬼の1言にあからさまに舌打ちすると、目を閉じて魔力を集中した。
呪文も唱えず彼女の背後で光がまたたいたかと思うと、背後の方向を彼女は指さした。
「んっ……あっち」
「じゃあ、姫狩りスタートだぁ!」
「ボクが一番乗りデース!!」
「「いや、それはマジ可哀想だから、絶対止めて」」
「えぇー!?」
◇
ミュレーナたちは全員分の貴重品を素早く整えると、最低限の荷物だけ持って外に出た。街のあちこちで炎が揺らめいている。
白い鉄機兵たちは背を向けて逃走を開始していた。ゼロナナたちが追いかけている。小さな影に魔法を応射されて、彼らは苦戦していた。
「ドゥエドゥ!?」
「急ぎましょう!!」
「ああ。……いや、マズいかもしれん」
「え!?」
「引き際が良すぎる。おそらく……」
「見つけた♡」
「っ……!?」
鋭く黒い切っ先が迫り、金属音を響かせた。クリスが奇襲を防げたのはほぼ勘働きで、偶然だった。
即座に神力を込めて、全力で押し返す。攻撃を仕掛けてきたのは栗毛の少女だった。
一見どこにでも居そうな場違いな容姿に、火石が黒く固まったような、不気味な2対の剣を構えている。
「おー……、やるじゃん。でも爆撃来るからさぁ、さっさと逃げよ?」
「え……?」
「やはりか」
「あ、そっちのお兄さんはわかってる感じ? ならついて来なよ。危ないでしょ?」
「行くと思うか?」
「ぜんぜん!!」
下段。それも地を這うヘビのような2連撃を、盾を地面に突き立てるように防ぐ。そのまま盾でもう一度押し返した。
「行け!!」
「でも!?」
「神の加護がある。不足無い。……マナギを、頼む」
「…………はい!」
「いや、逃さないデース」
「グルッ!?」
「きゃあぁ!?」
ミュレーナを抱えて飛び上がろうとしたタロッキが、棒状の物に吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。攻撃したのは作り物のような少女だった。
繊細な長い金髪を完璧にコントロールして振り回し、ポール・ロッドを巧みに操り、躍るように倒れ込むミュレーナの側に着地した。
「ポーちゃんナーイス。でもさっさと攫わないとヤバくね?」
「ヤバいな。まあ巻き込まれたら、それまでデース」
ガズンッ!! と足蹴に押さえつけたミュレーナの耳元に、ポール・ロッドを激しく突き立てて、彼女はミュレーナを人質に取った。
「姫!!」
「動かない」
ポーと呼ばれた少女の傍らから、影のように現れたのは、ボッサボサな前髪とショートカットの捨てられた犬のような少女だった。
やる気なさそうにクリスを一瞥すると、何故か場違いに彼女は手を振った。愛想もなく仏頂面なのでクリスは少し脱力した。
「グ……ルルッ……」
「はいはい血ィ出てるんだから、キミも動かないの。ポーも危険に興奮しない。ナザも手やめて。で、お兄さんどうする? 盾、手放してくれる? 時間は押してるよぉ〜?」
「彼女を、殺すのか?」
「あ、それはクライアント含めて無し。貞操の保証までは、できないけどねぇ〜」
「クライアントとは?」
「えー……、我が社にもいちおー、雇い主への守秘義務と言うものがありまして……」
「なに? 白紙の教団……」
「あぁん!?」
白紙の教団の名を出した途端。全員の顔つきが急変した。先程まで冷淡な目で一見愛想よく笑ってこそいたが、今は触れれば切れる切っ先のようで、冷えた血のように殺意を滴らせている。
ゴリッっとポール・ロッドの先端から嫌な音が響く。僅かでも身じろぎすれば、即座にミュレーナの頭蓋を簡単に砕くとでも言いたげに。
「………すまない。気に、ぐ、ぅあぁー!!?」
クリスが油断した瞬間を見逃さず。ナザリは呪文を唱え、衝撃光で建物の向こうに彼を吹き飛ばした。
「手加減した?」
「すぐ謝ってくれたし、イイ男だったから」
「じゃ、しゃあないか。あの子も」
「ん」
ナザリこと、ナザリムはタロッキに手加減する気が無かった。呪文を唱え、全力で魔力を回し、禍々しい大きな光が彼女の両手に渦巻く。
タロッキはようやくふらつく視界が定まり、最悪の状況である事を即座に感じた。戦える者が誰もいなくなった恐怖でどうすれば良いか判断できず、泣き出してしまった。
「タロッキちゃん……、逃げてぇ……!」
「あ、あぁぁ……アンルプ トゥン、アンルプ トゥン 、トゥエユイディ〜!!!」
「死んだら、ごめんね」
一か八か泣きじゃくりながら突っ込むタロッキに、光が迫る。彼女は魔法の衝撃で、建物を貫通して吹き飛んだ。
そのはず、だった。
「は?」
巨大な鉄の腕が、泣き叫ぶ彼女を輝く衝撃波の魔法から、守っていた。
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