召喚魔は自己紹介をしてみる

「じゃ、じゃあとりあえず自己紹介でもしよっか?」


 ユリエラさんが、5人に救世主の事や、限定召喚の事、そして世界に危機が迫っている事を説明してくれた。


 勿論…分かった!協力する!…と、なるわけもなく。


 気づけば私達はメイドさんの魔法によってユリエラさんから離れたところに拉致されていた。


 メイドさん曰く、まずは状況整理ができるまでは、出来るだけ外部に情報を漏らしたくないらしい。


 そこで先の私の発言。空気を和ませたくて発したジャパニーズ式挨拶。


 けど、よくわからないけど、多分これは殺気というやつだ。


 私の言葉を聞いたメイド服の子以外の四人が、一斉に私を睨んできてるし。


 完全に逆効果だった。更に空気が重くなったよ、


 私はメイド服の子の背後に隠れるように抱きつく。暫くはここが私の定位置になりそうだ。


「ご主人様の命令です。とりあえずお互いの名前の確認と、我々の方針を決めましょう。」


 め、命令とは言ってないよ!?


 メイド服の子がそんな強い言葉を使うから、他の子の殺気がより強くなる。


「…どうでもいいけどさ、なんでアンタが仕切ってるわけ?」


「そうですわね。救世主がどうとかはどうでもいいのですが、貴女やけに上から発言してきますわよね?」


 しかしどうやら、ツインテの子とゴスロリの子が気に食わないのは、私ではなくメイドさんらしい。


「?この中で一番強いわたくしが仕切るというのは何も不自然じゃありませんよね?」


 淡々とそう言い切ったメイドさん。


 目の前には、いつの間にかツインテールの子とゴスロリの子が倒されていて、メイドの子がやったのか、二人とも無数のナイフで器用に洋服だけを刺され、地面に縫い付けられていた。


「「っ!?」」


 それに驚きを隠せない二人は、目を見開いて地面からメイドさんを見上げていた。


「ちょっ…ちょっと何してんの!?」


「ご主人様に見えていたか分かりませんが、この二人はわたくしに切り掛かって来たんです。なので軽くあしらって差し上げました。」


「…嘘。」


 私は二人が地面に縫い付けられた姿からしか視認できなかった。それまでの一瞬で凄まじい攻防があったらしい。


 二人の悔しそうな表情を見るに、おそらくメイドさんの言う事は本当なのだろう。


「全く…わたくし、子供のお守りは得意じゃないんです。敵の力量くらい、正確に測れるようになってから出直してください。…ね、ティアラさん?」


 二人に対して煽るような言葉、それでいて表情は相変わらず無表情で、声も平坦で。


 そして急に話を振られた白髪の子…唯一名前がわかる子。ティアラちゃん。


 彼女も目元まで伸びた髪のせいで、表情が読めない子だ。


「…ティアラの能力。知ってるの?」


 しかし、その声音は少し強張っているように思えた。


「ええ。そうですね、まず貴女の能力で私達の力関係をハッキリさせましょう。」


 はっきりと肯定したメイドさんには、余裕が見られる。…無表情だけど。


 というかもしかして、この人…めちゃくちゃ強い?


「…どういうっ…ことよ!!」


 地面に縫い付けられていたツインテールの子は、服を破りながら拘束を解き、立ち上がる。そのせいでほぼ下着だけの姿になっていてかなり目のやり場に困るのだが、彼女は特に気にしていないようだった。


「ティアラさんの噂はかねがね。彼女が指揮する軍は、どんな劣勢な戦でも百戦百勝。天才軍師として恐れられていたと。」


「…あまり。詳細を話さないで欲しい。」


「そうですね。一応わたくし達、召喚魔サモンズ同士は殺し合いが出来てしまいますからね。不利益な情報は流さない方がいいですよね。」


「…おどし?」


「いえ、交渉ですよ。」


「…何を。求めるの。」


「今ここでわたくし達の力関係をはっきりさせ、適切な役職を与えて頂きたい。…どうでしょう?」


 口上戦でもメイドさんは強いらしい。ティアラちゃんは唇を尖らせて不機嫌さをアピールしている。つまり、ティアラちゃんの負けを意味する。


 能力とか軍師とか、よく分からないけれど、メイドさんはティアラちゃんを、上手く味方につけたみたいだった。


「…なぜ。あなた程の人が。この女に。肩をいれる?」


 そんなティアラちゃんは、私の方を向いて言う。


 確かに、どうやらこの中で頭一つ抜けた強さを持つらしいメイドさんは、最初から私の味方をしてくれていた。


 正直すごく助かったし、今も私は彼女に抱きつく程度には信頼しきっている。


 でも、その理由は分からなかった。私も気になる。


「ご主人様はわたくしを召喚してみせた。それだけで尊敬し、仕えるには充分すぎる理由です。」


「…わからない。」


 …あんまり深い意味はなかったらしい。


 ただ単に、かなり強いメイドさんを召喚してみせた私を尊敬しているというだけのこと。いや、それも充分凄いことなんだけども…。


「けど。仕方ない。やる。」


 ティアラちゃんの問はさほど重要な物じゃなかったらしい。


 メイドさんが質問に答えたことで、ティアラちゃんは、折り紙程度の大きさの白い紙を自身を含めた6人の体に貼り付ける。


「ティアラさんの能力に必要な物です。皆さん、そう警戒なさらないでください。」


 勿論、メイドさんとティアラちゃん以外の3人がそんな得体の知れない物を素直に受け入れるわけがなかったが、メイドさんの一言に渋々納得する。メイドさんの発言力恐るべき。


「はじめる。………【序列】を。そして、【天啓】を。」


 ティアラちゃんが何かを唱えると、私達につけられた紙が光輝く。


「わわっ!?またこういう光!?」


「…っ、なによこれ!?」


「このっ…!やっぱり変な術をワタクシにかけるおつもりですのね!?切り刻んでやります!ぶっ殺してやりますわぁぁぁ!」


「これは…なるほど。また私の肌に余計な呪印が増えるのね。」


「ほう。こうして自陣の力関係を正確に見極め、駒として動かすわけですね。」


 もう何度も経験した不思議な光に驚くのは私。


 眉間に皺を寄せて、歯軋りをするのは下着姿のツインテちゃん。


 わーきゃーと叫び散らかすのは未だに拘束されて動けないゴスロリちゃん。


 どこか呆れたような声音をだしながらも冷静なのは、魔女さん。


 そして、能力は知っていたけど、初めて見たと言う風に感心するのは、メイドさん。


 反応はそれぞれだけど、光が収まっても特に具合が悪くなったりとかは無い事を確認すると、特に血の気の多いツインテちゃんとゴスロリちゃんも静かになった。


「腕に彫られた数字は。この場所にいる人達の。序列。勿論。強いのは。1。ちなみに。ティアラは。2。」


 ティアラちゃんの言葉に誘導されて、ジャージの袖を捲ってみる。右手のひら側の腕、そこにはくっきりと彫られた【6】という数字が浮かび上がっていた。


 分かってはいたが、要するに私はこの中で一番弱いということになる。


「ふむ。やはりわたくしが1番ですね。」


 分かりきっていたようにそう言ったのはメイドさん。


 やっぱり圧倒的な強さを持っているらしい。


「3番ね…私の能力を考えれば妥当かしら。」


 どこか納得したような口振りでそう言ったのは魔女さん。


「ちょっと待ちなさいよ。アタシが4番ってどうゆうことよ!?」


「…ワタクシが…5番?ふざけてますの?」


 そしてやっぱりというか、なんというか。


 血の気の多い組であるツインテちゃんとゴスロリちゃんは、怒りを含んだ声音で抗議する。


「残念ですが、ティアラさんの能力に間違いはありません。それが現実です。」


 しかしそんな二人に、メイドさんは淡々と現実を突きつける。


「…どうでもいいですわ」


「…はい?」


「だって…そのクソインチキで出した上の数字持ちを全員殺せば、結局ワタクシが一番!そうですわよね!?!?」


 とんでも理論を持ち出したゴスロリちゃんは、ツインテちゃんと同じように服を破り捨て、強引に拘束を解いた。


 そして、ほぼ裸のままメイドさんに突っ込んでいく。


「【武装むそう】!!!!!」


 そして聞きなれない単語を叫ぶと、その幼い身体から武器が沢山出てくる。おそらく彼女の能力なのだろう。


「…だからその程度なんですよ。貴女は。」


「くはっ!?そ…んな…」


 しかし、一般人こと私、青空ひなたの目には苦しそうに倒れたほぼ全裸のゴスロリちゃんの姿と、バキバキに折られたいくつもの武器達の残骸…そしてそれらを見下ろして立っている無傷のメイドさんという図しか映らなかった。


 また、私の知らないところで激しい戦いが行われていたらしい。


「この子。先が。思いやられる。」


 ティアラちゃんはゴスロリちゃんに呆れ気味。


 さっきまで吠えていたツインテちゃんは、さすがにメイドさんの力を認めたのか黙ってしまった。


「…るっさいですの!!このワタクシが!!最弱だなんて!!許されませんのよ!!…むぅっ…!?」


 しかしゴスロリちゃんは、全く懲りていない様子。それ見たメイドさんが謎の魔法で出した黒い煙みたいな物をロープの形にして、ゴスロリちゃんを締め上げてしまった。


 両手をあげさせられ、足も開かされ、口元も覆われて、ほぼ大の字で拘束されたゴスロリちゃん。彼女の服は下着もほぼ無くなっていて、その見た目は大変なことになっている。


 最初っから急に命を狙ってきた相手だけど、なんだかすごく可哀想になってきた。


「とりあえずあれで拘束して放っておきましょう。それよりティアラさん。【天啓】の方はどうでしたか。」


 そしてメイドさんは、そんなヤバい図になっているゴスロリちゃんに興味を示すことなく、変わらぬ無表情で話を進めだす。


「うん。紙。見て。」


 ティアラちゃんも気にすることなく、私達につけた紙を見るように指示する。


 私も見てみたら、そこには文字が浮かび上がっていた。…異世界の文字で。読めない。


「その文字が。みんなの。役職。」


「わたくしは…ふむ。【守護者メイド】ですか。中々の当て字ですが、概ねそのままですね。」


「アタシは【破壊者デストロイヤー】…ふーん。どうやら最適解を導き出すというのは本当のようね。」


「私の【災厄理不尽】は、私の能力を考えれば…まぁ意味はわかるわね。」


「ティアラは。勿論。【軍師ぐんし】。」


 みんなその紙に書かれた役職に、大方納得しているようだった。


 ティアラちゃんの能力は、ここにいる人達公認で凄いものらしい。


「貴女のは…ふむ。よかったですね。」


「ふぅ…もがっ!…な、なにがですの…!」


 身動きを取れなくされていたゴスロリちゃんの分を見たメイドさんは、合いも変わらず無表情でそう言って、ゴスロリちゃんの口元の拘束を解いた。


「【一騎当千さいぜんせん】」


「…え?」


 すぐさまわーきゃーと叫びだしたゴスロリちゃんだったが、紙に書かれた文字を見て静まる。


「要するに、これから行われるであろうあらゆる作戦において、貴女は誰よりも前に出て、誰よりも多く戦う事ができるという事です。」


「……ほ、ほんとうですの!?」


「ええ。勿論、ご主人様の意向ですから、殺しはタブーですが。」


「うふ…うふふ…ワタクシが…最前線…戦い放題ですの!?まじですの!?!?」


 アラレもない姿で拘束されている事を全く気にせず、ゴスロリちゃんは嬉しそうに笑って興奮し出した。


 実はこの子、めちゃくちゃチョロいのではないだろうか…。まぁ、その笑顔のトリガーが物騒な物なのは問題なのだが。


「色々納得いかないけど…まぁ、アンタ達の力見せられたら…今は仕方ないわねよね。」


「あの子は思ったより扱いやすくて、貴女は物分かりが良くて助かります。」


 ため息をついて、これまた全裸に近いツインテちゃんは仕方なしと言ったように、メイドさんやティアラちゃんに従う事を了承する。


 ゴスロリちゃんもツインテちゃんも、どうしてそんな格好で堂々としていられるのだろうか。一応女の子は女の子が恋愛対象のはずだよね。


 初っ端メイドさんにひん剥かれて騒いでいた私が馬鹿みたいじゃないか。


「その上から目線はうざいからやめなさいよ。」


「上、ですので。」


「無表情でナチュラルに煽ってくるの、むかつくわねホント。」


 ツインテちゃんは歯軋りをしながら地団駄を踏む。かろうじて大事な部分を隠している布切れすら、その大きな胸の揺れのせいで完全に意味をなくすから、今すぐその動きをやめてほしい。


 ただ、無闇に攻撃を仕掛けなくなったのは大きな進歩だ。ツインテちゃんは思ったより大人で理性的ではあるのかもしれない。


「そういえばご主人様は、どのような結果に?」


 思いっきり蚊帳の外だった5人のご主人様(最弱)の私は、ようやく話の輪に入れそう。


「えと、数字は…6で…役職はその…異世界の文字だから読めなくて…」


 数字の方は納得できた。メイドさんに遊ばれたゴスロリちゃんの動きすら、全く見えなかった私だし。


「【ほう】ですね。…ティアラさん。意味は?」


「わからない。」


 メイドさんの質問に、ティアラちゃんは首を振って答える。


「はあ?あんた天才軍師なんでしょ?駒の役割も知らないでどうやって動かすのよ」


「基本的に。天啓をうけた本人が。自分で意味を。理解できる。はず。ティアラはそれを。利用するだけ。」


「…ふむ。わたくし達が守るべき物、という意味で一先ずは考えて良いいのではないでしょうか。」


 宝…たから?…まぁ確かにそんな訳をされても違和感はない。


 けど、私がこの5人の宝って…そんな風には見えない。


「というかやっぱり序列6なのね。護られる対象だなんてほんとーにクソ雑魚じゃん。」


 さっそくツインテちゃんから宝っぽくない扱い。


「うっ…ごめん…」


「キモ。」


「シンプル悪口!?」


 相変わらず冷たい表情のツインテちゃんから浴びせられるシンプルな悪口に心を痛める。


「…まぁ、実際私に力は無くて…みんなを頼り切っちゃうと思うけど…どうか力を貸して欲しい。」


「わたくしは元よりそのつもりです。」


「ティアラは。貴女じゃなく。序列1の。メイドに。従う。」


「私は正直どうでもいいわ。アナタみたいなよくわからない人間に従うという事だけはやっぱり気に食わないけれど。」


「…まぁ、他に選択肢はなさそうだしね。」


「ワタクシは血を浴びれるのなら、何でもいいですわ!最前線!キマシタワー!」


 どうやらメイドさんとティアラちゃんは、普通に協力してくれるっぽい。あとの3人も、理由はそれぞれだけど協力はしてくれるっぽい。


 最初はどうなる事かと思ったけれど、メイドさんのおかげで収まるところに収まったようだ。本当に良かった。


「これからはご主人様の為、我々は共同戦線をはることになります。軽く情報の共有はしておきましょうか。」


「あ!そうだね!やっぱり自己紹介は必要だよね!?」


 メイドさんがまとめようとしていたので、便乗させて貰う。みんなちょっとだけ嫌そうな顔はしていたけど、最初ほど否定的ではない。


「私の名前は青空ひなた!地球っていう異世界から来た16歳だよ!趣味は人助け!能力は…今の所無し…でも、私も精一杯頑張るからよろしくね!」


 なのでさっそく。


 できるだけ明るく元気に自己紹介をしてみる。


「わたくしはシエル。この世に生を受けてからは21年になりますね。」


「ティアラは。ティアラ。14。」


 すると、メイドさんとティアラちゃんが同じように簡単に自己紹介をしてくれた。


 メイドさん、すごく大人っぽくて美人だと思ったけどやっぱり年上だったんだ。名前もすごく可愛い。


 ティアラちゃんは年下か。そう思うとなんだかボソボソと喋る感じがとても可愛く見える。


「私の名前は色々あるけれど…ミレイユでいいわ。…歳は…32よ。」


 次に自己紹介をしてくれた魔女さん。すごくえっちな大人って印象だったけど、思ったより年上だった。というかママと同年代だ。だとすればあまりにも美魔女すぎる。いやうちのママもめちゃくちゃ美人なんだけどね。


「…アタシはリリス。16歳。」


 そして3人の自己紹介からやや間を開けて、話してくれたのはツインテちゃん。


 今だに全裸に近い姿で腕を組んで仁王立ちをして、気恥ずかしそうに目線を逸らして言う。


 同い年なんだ!って気持ちと、同時にその発育の良さに驚く。何を食べたらあんなスタイルになるのだろうか。


 後、今更気づいたけど、丸見えのお尻から細長い尻尾が生えてて、ぴょこぴょこと動いている。なんだかすごく愛らしい。


「ワタクシはエミリーと申しますの。今年12歳になったんですのよ。」


 これまたほぼ全裸で、自慢気につるぺたな胸を張って教えてくれたのはゴスロリちゃん。


 戦狂の面が顔を覗かせなければ、なんだか普通に幼い子という印象で、仕草や言動に愛しい気持ちが湧いてくる。


 こうして普通の会話をしてみると、みんな可愛い女の子で、自然と笑みが浮かぶ。殺伐とした最初の雰囲気からは考えられない。


「私の事は好きに呼んで!みんなの事も名前で呼んでいいかな?」


 私がそう言うと、みんな首を縦に振って答えてくれた。


「じゃ、じゃぁ…エミリー?」


「はい。お姉様。」


 さっそく、おそるおそるだがゴスロリちゃんの名前を呼んでみると、なんと可愛らしい笑みを浮かべて返事をしてくれた。多分、今はすごく機嫌がいいのだろう。


 忘れがちだが、エミリーは天使のような容姿をしているのだ。普通に可愛いの破壊力が凄い。


「え、えと、…次。ティアラちゃん?」


「…うん。マスター。」


 エミリーの返事に浮かれながら、ティアラちゃんを呼べば、ぶっきらぼうだがきちんと返事が返ってきた。


 ティアラちゃんは癖なのか、また唇を尖らせている。今彼女がどういう感情を持っているのかは分からないけど。


「次は…シエル…さん。」


「わたくしに敬称はいりませんよ。ご主人様。」


「うっ…じゃあ…シエル。」


「はい。ご主人様。」


 一応年上だからさん付けをしてみたけど、無表情のまま訂正されたので呼び捨てにする。


 なんというかメイド服のせいか、確かに呼び捨ての方がしっくりくる。


「えと、…リリス」


「そこはリリス様じゃないの?」


「お、同い年だし…」


「まぁ呼び方とかどうでもいいけど。あんたはクソ雑魚無能女ね。」


「酷い!?」


 そしてツインテちゃん事リリスには、同い年という免罪符を元に呼び捨てをしてみたら、機嫌を損ねてしまったらしく、私の呼び名がとんでもないものになってしまった。


 どうにか訂正して欲しいところだが、リリスはそっぽを向いてしまった為、これ以上の会話は無理そうである。


「最後に…ミレイユさん。」


「…ええ。」


 リリスは諦めて、最年長の魔女さんに声をかける。


 すると、眉間に皺を寄せたミレイユさんから返事が返ってくる。


「…なんか、怒ってますか?」


「…別に。」


 多分、なんとなくだけど、怒ってる。


 まぁ一回りも違う小娘に名前を呼ばれるなんて嫌だよね…。でも他に呼び方は思いつかないし。


 何はともあれ、殺伐とした関係から始まった私達は、なんとも平和な会話をすることに成功した。


「やばい…みんなとこうやって話せるなんて…感動だよ…」


 思わず涙ぐむ。


 一応5人は私の召喚魔サモンズで、世界を救う大切な仲間なのだ。できれば仲良くしたい。


 って、自分で言うのも何だけど、不思議なこの現象達を全部受け入れちゃってる私の適応力は中々にぶっ飛んでると思う。


「みんな!これからは仲間だから!よろしくね!」


「はい。」


「…ティアラの信用。シエルだけ。」


「言っておくけどアンタらと馴れ合うつもりは微塵もないから。」


「ワタクシも切り刻む事以外興味ありませんの。」


「…必要最低限以外、話しかけないでほしいわね。」


 まぁ、相変わらずこんな感じだけど…それでも充分前進した…はず。

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