おひさま物語
水瀬
一章
青空ひなたは転移する
『もしも助けを求めている人たちがいたら、手を指し伸ばせる子であってほしい』
『もしも暗がりで泣いてる子がいたら、その子の太陽になって照らしてあげて欲しい』
『あの人がそうだったように…』
『だから《ひなた》…そう願って名付けたのよ。』
昔学校の宿題で、名前の由来を調べるっていうのがあって、その時にママに貰った言葉が今の私をかたどっている。
私の名前は
物心がついた時には、もう私の家族はママしかいなかった。所謂シングルマザーの家庭。でも自慢になっちゃうけど、私のママは超が付くほどハイスペック。
一流企業に勤めていて、金銭面はもちろん、私との時間も愛情も十分すぎるくらいもらって育ててもらった。スーツを着こなすママはモデルさんよりも美しくてかっこいい。
多少の反抗期はあったけど、ひねくれずにここまで生きてこれたのは本当にママのおかげだ。
そんな大好きなママにもらった名前に負けないように私は生きてきたつもり。
高校に入ってから私は〖お助けサークル〗を立ち上げた。先生や生徒達のお助けの依頼を受けるサークルだ。本当は、部活にしたかったけど部員が私だけだったので非公式で活動している。立ち上げてから一年弱ではあるけれど、意外と評判は良い。
「あ、せんぱぁ~い。おはよ~ございます~」
何時も通りの通学路を歩いていると、可愛らしい気の抜けた声が聞こえて振り返る。
「唯ちゃん、おはよー!」
声の主は、
彼女は、先月この学校に入学してきた新入生で、なんと部活ですらないお助けサークルにはいってくれた唯一の子なのだ。
「相変わらずヤンキーみたいな格好してるんですねぇ」
「あはは。よく言われるー」
唯ちゃんは私のいつも通りの格好に苦笑する。
私は基本的に制服を着ない。ジャージで一日を過ごす。うちの学校は唯の頭が許されるくらいには校則が緩い。そして私の髪は金色。染めているわけではなく地毛。ママが真っ黒な髪だから父の遺伝だと思う。
ちなみに私は父のことは何も知らない。ママは今でもずっとその人のことが好きらしいけど、写真すら残っていないからあまりその辺には触れてこなかった。
話が少しそれたけど、私は長い金髪をポニーテールにまとめて、体操服の上からジャージを着ているのだ。唯のような反応は幾度とされてきたし、承知の上なので気にはしていない。
「せんぱい超美人なんだから少しくらいおしゃれしたらいいのに」
「いつも言ってるでしょー?もしもの時にすぐ動けるように、この格好をしてるんだって。」
何か困った人がいた時に、すぐ動けるように。そういった理由でジャージを常に着用している。私の戦闘服みたいなものだ。
「ほーんとお人好ですねー」
「私の生きがいだからね!というか唯ちゃんもそろそろサークル参加しなよ?」
「ん~…そのうち?」
「もー、いっつもそういって。今日はかえさんぞー」
「きょーはパスで。合コンがあるんで」
「またぁ?…てか本当に高校生で合コンって…」
唯ちゃんはこの通り唯一の部員ではあるのだけどまだ一度も活動に参加した事が無い。幽霊部員ってやつだ。
まぁ正式な部でも無いし、強制権はないんだけど…一緒にやったらきっとさらに楽しく人助けできると思うんだけどね。
『救世主様』
「ん?」
ついに常習化した唯とのそんなやりとりをしていると、脳に直接語りかけるような女性の声が聞こえてきた。
「どーかしました?」
「いや、なんか聞こえた気がして。唯ちゃんなんか言った?」
「いや、いってませんよ?幻聴じゃないですか?」
唯ちゃんの声とは明らかに違かったけど、一応近くにいるのは唯だけなので聞いてみたけどやっぱり違うらしい。
今度は耳をすまして聞いてみる。
『救世主様…どうか…どうか私達の世界を…お救いください…』
「…いや、はっきり聞こえる」
すると脳に直接語りかけてくるようで、絶妙に距離感があるような…不思議な感覚がする声がやはり聞こえてくる。
「救世主がなんか知らないけど…助けを求めてるみたいだし、とにかく行ってみよう!」
よく分からないけど、助けを求める声なのは確かだ。この声を無視することなんて出来ない。私は唯の手と鞄を取って走り出す。
「え、ちょっ…!?私も!?走ったらセットした髪が乱れるからやだぁぁぁ!」
文句を言ってる唯の手を引きながら、声のする方、正確には近づいてるような感覚に従って、その方へ駆ける。
「ここかな?」
最早声というより、何か不思議な力に引き寄せられるようにして辿り着いた場所を見渡す。
ここは人影一つ無い小さな公園。いや、公園とも呼べないくらい小さい場所。遊具は無いし、芝生と小さなお山とベンチがあるだけの場所。
「はぁ…はぁ…せんぱ…はや…すぎ…」
「あ、ごめんね唯ちゃん。」
息を荒くして膝に手をついている唯ちゃんに謝罪する。今まで知らなかったけど、どうやら唯ちゃんは運動が得意じゃ無いらしい。
「もう…てかどこですかここ。なんも無いじゃん」
一度深く息を整えてから、唯ちゃんは辺りを見渡して、いつもの可愛らしい声とは似つかないダルそうな声で呆れる。
「う、うん。けど確かにここな気がするんだよね」
『…運命よ。』
「…え?」
何も無い公園を見渡していたら、また謎の声が聞こえて、それと同時に強い光が小さな公園を飲み込み始める。
「な、何!?!?」
「え、ちょっ!絶対やばいやつですってこれ!?」
あまりにも非現実的な現象に、私も思考が追いつかないが、唯ちゃんが私の腕にしがみついて来るのを見て、どうか唯ちゃんだけは助けなきゃとぎゅっとその身体を抱きしめる。
「っ…唯ちゃん!離しちゃだめだよ!?」
「あ、せんぱっ…!」
そうして身体を密着させて、私達は一緒に光に飲み込まれた。
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