23 これは盗撮じゃないから(2)
一人、電車から降りると、出口は二つあった。
『とりま、右でええんとちゃう?』
『勘で動いちゃダメよ。ちゃんと連絡取って聞いたほうがいいわ』
「えっと……」
キョロキョロと見渡す。
それほど大きな駅でもないのだけれど。
住所、送ってもらってたはず。
と、スマホを開けたところで、ブー、ブー、とスマホの着信音が鳴った。
メッセージ?
『東口出たところに居るから』
それは、一言だけだったけれど。
名前が……。
『春日野町剣』……。
え…………?
確かに、手伝いをすると言った時、連絡先を教えた。
けど、本当に連絡が来るとは………。
それもこれ…………。
「つるぎ…………さま……?」
スクショを10回撮ったところで、更にスクショを10回撮った。
心臓がバクバクと波打つ。
喉が詰まる。
「………………うっ……」
込み上げるものがあり、口を抑えた。
呼吸困難で浅い息をしながら、東口を確かめて歩く。
剣様……?
剣様の……メッセージ……。
あの指の長さのバランスが完璧の剣様の手を思う。
細すぎない剣様の指を思う。
あの手で、メッセージを打ってくれたんだろうか。
どんな眼差しで。
私の事を思い出して…………?
スマホを握りしめる。
このスマホは、一生の宝物になった。
メッセージの剣様の名前にキスをする。
ミラーで顔を一度整えてから、階段を降りた。
生徒会メンバーは、階段を降りてすぐのところで待っていた。
「か、春日野町先輩。待ってて下さったんですか」
剣様は、腰に手を当ててため息を吐く。
「ここから先は少し道が複雑なの。朝川がすぐ来てよかったわ」
態度は一見偉そうだけれど、言葉は優しい。
待っててくださったなんて!
待っててくださったなんて……!
で、で、で、デートみたいじゃない!?
……実際には、他に3人もいるのだから、流石にこれはデートではないけれど。
待っている間、私の事を、考えてくださったんだよね……?
頭をぽうっとさせながら、後ろを歩いていく。
畏れ多くて、流石に隣を歩く事は出来なかった。
後ろ姿を眺める。
青い空を背景に、黒い髪が揺れる。
綺麗。
いつもは壇上に居る剣様が、自然の光の中に居る。
なんて荘厳。
なんて不思議。
剣様が……私と同じ現実に居る。
「………………」
感無量でいると、私の様子を窺おうと振り向いた杜若先輩が、少し驚いた顔をした。
「……泣いてるの?」
ここで、流石に泣いている事を認めてしまうと、おかしな事になるかもしれなかった。
「泣いてません」
強気な事を言うしかない。
見られていないからと言って、後ろ姿をこれほどまでに見るのはいけないだろうか。
けど。
目が離せない。
今だけは。
あなたの後ろを歩きたい。
◇◇◇◇◇
メッセージ記念日だね!
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