19 見つかってはいけない(2)
「あ、生徒会室へ行っていたの」
ここはある程度、正直に言ってしまうしかない。
肝心の部分を言わなければ、きっと大丈夫。
どんな相手だって、まさか私が生徒会室に出入りできるような立場の人間になったなんて、思い至らないだろう。
とはいえ早苗ちゃんの目は、“生徒会室”という言葉だけで鋭く光った。
「……何の御用で?」
やはり、そこが気になるらしい。
部活も何もやっていない私が、生徒会に用事など、怪しい事この上ないのだ。
「先生から頼まれたの。生徒会にプリント渡しておいて欲しいって」
そこで、使用許可書なるプリントをギリギリに見えるところで隠す素振りをする。まるで、見せたくないプリントを持っていますと言うように。
「はは〜ん」
早苗ちゃんが、正体見たり!とでも言いそうな顔ですり寄ってきた。
「せんぱぁい?もしや、生徒会に渡すプリントを先生から無理矢理奪ってきたんでしょ」
かかった……!
「そんなわけぇ……」
いかにも言えない事があるような顔で目を逸らした。
冷や汗よし!
泳ぐ視線よし!
「残念でした!今、生徒会の機能は高等部の会議室にあるんですよ」
「そうなの?」
知らなかったというように早苗ちゃんの顔を真っ直ぐに見た。
まあこれは、実際知らなかったのだ。
背の低い早苗ちゃんが、下から覗き込んでくる。
「ほんとに知らなかったんですかぁ?まさかあの人の事が見たくて、知っててこっちまで来たとか」
「そんなことないよ!?」
手をバタバタと振る。
剣様の姿が見たくてここに居る事は真実なのだ。正直、ガチで焦った顔になってしまう。
「そうなんだ」
私の後ろめたさを勘違いしてくれる。
やっぱり、ここに通っている事は噂レベルでもまだバレていないみたいだ。
「で?いらっしゃいましたか?」
耳打ちしてくるその言葉は、まるで名前を言ってはいけない人について噂をするような声だった。
やっと、私に対する疑いは晴れたみたい。
早苗ちゃんの耳に、こっそりと耳打ちする。
「い・た・よ」
そう言った瞬間、早苗ちゃんの目がキラキラと輝く。
この子も大概、ガチ恋なのだ。
私が、あの日、挨拶をする剣様に見惚れたように。
この子もまた学校の紹介動画で剣様に惚れたのだ。
わかる。
私もあの学校の紹介動画は何度見たかわからない。
中学2年生の剣様は、中等部棟の紹介でほんの数分出てくるだけだったのだけれど、毎日学園のホームページに足を運んでは本当に何度も見た。
そして放課後には、その撮影が行われた中等部棟の中庭、つまり剣様の聖地に足を運ぶというわけだ。
早苗ちゃんに報告する為、先程の剣様を思い出し、コホン、と咳払いをする。
「剣様は、対応してくれた女の先輩の後ろにある作業机で書き物をされてたよ」
「おぉ〜」
感嘆の声が上がる。
「ボールペンはおそらく私物。これ」
言いながら、スマホでそのボールペンのメーカーのサイトを表示させた。
丁度自分でも買おうと思っていたところだ。
「わぁ……」
そんな風に、すっかり緩んだ顔になった早苗ちゃんに、張り付けた笑顔でにこやかに手を振ってその場を去る。
なんとかバレずに離れられた……!
慎重に歩き、角を曲がったところで、安堵の溜息を吐いた。
◇◇◇◇◇
生徒会のもう片方のチームの部屋に生徒会長と副会長がいるのです。
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